ヒットマンの四式
ようすけ
第1話
最低の夏休みが始まる。わたしは自分の武者修行の為に、自分の部屋で坐禅を組むのだったが、四半期の前半を終えたアイツらの声が聞こえてくるのだった。多くはキンタマとかチンチン、ウンコなどだ。一緒に住んでいる成実という女性は子ども好きでそんな子どもたちの愛嬌を笑うのだったが、わたしは成実が大切にしているバイオリンを売ってでもヒットマンを雇って一人ずつ殺ってしまいたかった。実際の話になるのだが、わたしにはそんな汚れ仕事をしてくれる人材に友だちがいるのだ。
まずはバイオリンを売る必要があった。成実が父の形見だというそのバイオリンを、わたしは成実が風呂に行っている間に外に持ち出した。まずは売るつもりは無い。安アパートの蛍光灯の下で、成実がそれを遠い目で自慢した時から数えて初めて、わたしはそのバイオリンをまじまじと眺めたのだった。
ウェブ接続がされているスマートフォンを取り出す。
わたしは検索窓に、ニシダ楽器という文字を打った。出てきたのは二束三文の値がつけられたバイオリンにウッドベース、ギターなどといった弦楽器だった。
スマートフォンを閉じ、深く息を吸った。
ヒットマンの友だちには、すでに近い将来に子どもたちを殺って欲しい案件のことを話していた。四式という名前のその友だちは電話口で、「いいけど高いよ」と最初から値踏みをするのだった。
「恋人が大切にしているバイオリンがある」とわたしは言った。
「すとらりらいばいばいか?」と聞かれる。
「うるせえよ、この野郎」
「そういった高級のバイオリンがあるんだ」
「知るかよ、お前を殺すぞ」とわたしが凄む。
四式はそれで真面目に話を聞く態度になるのだったが、「おれをその気にさせておいて、やっぱりいいやとかってなったら、おれはお前とその恋人の成実とかいう女を殺すからな」
「なんでだよ」とわたしは意味不明さに驚いた。
「血が疼くんだ」と四式が言った。
安アパートの廊下の蛍光灯の下で、わたしは成実のバイオリンと対峙している。
このままでは四式に、わたしとそれから成実が殺されてしまう。四式は金額のことは言わなかったが、人を、子どもとはいえたくさん殺してもらうのだから、結構な値が張るのは確実だった。
まあ、いいやとわたしは思った。
四式は友だちだったから、殺すのは成実だけにしてくれとお願いすれば聞き入れないほど馬鹿ではない。
安物のバイオリンを手に、わたしはアパートの自分の部屋に戻った。
すると風呂上がりの成実が驚いた顔でわたしを見ている。
この時点で、わたしは成実の死が確実になったから、過去の人物と話をしているかのような錯覚に陥っていた。どんな落ち度を彼女に見せようとも、彼女はもうすでに存在していない存在なのだ。
「了明?」と成実がわたしに言った。「あたしのバイオリンなんて持ち出してどうするつもりだったの」
「ああ、これを売って友だちの殺し屋を雇うつもりだったんだ」
「友だちの殺し屋? それを売っちゃうの?」
「ああ、夏休みになって子どもたちが外で遊ぶ声が聞こえるだろう、あれが気に食わないんだ」
「子どもは日本の宝よ、了明」
「そうかも知れないけれど、嫌なんだ」
「バイオリン売っちゃうの?」
「売れるかよ、こんな安物!」とわたしは言った。
手に持っていたバイオリンを床に投げる。以前から、この女には手を焼いていた。嫉妬深く、束縛気味で、マナーやルールにうるさかった。大体の所、わたしは全く普通の人間ではなく、鼻毛とかを伸ばしていても平気で愛しているなどと嘯けるし、口から配管の匂いを出していてもお構いなしだ。
成実が死ぬと分かってからのわたしは、いわゆるシュミレーション状態だった。
これまでは成実の注意が怖くて怯えて本領を発揮できずにいたのだったが、成実はヒットマンの手によって殺されるのだ。
「どうしたの、了明。いつものあなたらしくないじゃない」
「いつものおれだったらどうするってんだよ」
「あたしの前では可哀想な子犬みたいに鳴くかわいい男の子だったのに」
「はっはー!」とわたしは全てを曝け出した。
「お前は死ぬんだ、成実。おれのヒットマンの手によってな!」
「死ぬって酷い。死ぬってなんて酷い言葉を使うの、いつもの了明ちゃんはどこに行ったの?」
「オマンコみせろ」
成実が息を潜めた。それから覚悟を決めたような表情をする。
まさか見せるのかとわたしは思ったが、そのまさかで、諦めたような表情の成実はそのまま地面に座り、風呂で洗ったばかりの割れ目をわたしに見せびらかすのだった。
「いいわ、これがあなたのしたいことなら」
別にわたしはしたく無かった。冥途の土産にわたしの一物を入れてやろうと思ったのだったが、そんな気分にもならない。
「いいよ」とわたしは成実に言った。「バイオリンを売ろうとしてごめんよ、これが二束三文にしかならないなんて知らなかったんだ」
「お父さんの形見なの」
「知るかよ、お前の親父なんて」
「どうしてそんな酷い言葉をあたしに対して言えるの?」
「成実、お前はもう過去の人間なんだ」とわたしは嗜めるように言った。「おれの友だちのヒットマンは血に飢えたようなやつで、バイオリンが売れなくって雇える金がないと知ったら、あいつは今度はおれたちを殺そうとするんだ」
「どうしてそんなことをしたの?」
「そんなこととは?」
「ヒットマンを雇うとか……あなたとお話をしていたら頭がおかしくなるわ、了明」
「はっはっはー!」とわたしは高く笑った。「お前と喋っているともっとおかしくなるんだ。いちいち指図しやがって、おれはカミソリだ、オオカミなんだ」
「可哀想に、反抗期なのね、了明ちゃん」
地面に座っていた成実が、今度はわたしに対して手を招いた。
この誘惑には勝てそうに無かった。いつでもそうだ。成実はこの手を使って荒ぶるわたしを宥め、すっかり腰抜けにしてしまうのだった。
その時だった。玄関のチャイムが聞こえた。ヒットマンの友だちにしては早い登場ではあったが、その実、確かに訪問者はヒットマンの友だちだった。
わたしはドアに設置されたスコープでそれを確認する。
「誰なの?」と成実が聞いた。
「しっ、黙っていろ」
「誰なの、どんな人?」
「廊下側からスコープを押さえられているんだ、こんなことをするのはあいつしかいない」
「あいつって誰よ、今日のあなたはちょっと変だわ」
わたしは覚悟を決めた。ドアを開ける。
するとその場所には、廊下側からスコープを押さえていたから、ちょっと変な感じになってしまったヒットマンの四式が立っていた。
「よお、了明、子どもたちを殺して欲しいんだろ」と言ってしまってから、わたしの背後にいる成実に気を使って小声になった。「子どもたちだよ、殺して欲しいんだろ」
「あの話ならもういいんだ」
「殺す!」と四式が激情した。
「売ろうとしたバイオリンがどうも売れなそうなんだ」
「すとらりりばいばるか?」
「知るかよ、なんだよそれ」
「でも約束は覚えているだろうな、殺す対象がないのなら、おれはお前たちを殺すぞ」
「その話なんだけど、殺すのはこいつだけにしてくれないかなあ、おれはちょっとまだ死にたくないんだ」
「いいけど……」
「さすが友だちだぜ」とわたしは言った。
四式が成実を殺している間、わたしは廊下に出ていた。
殺す対象を、殺す前にレイプをするのは四式の主義では無かったから、成実はあちこちを引き裂かれたり切られたりするだけで安らかに天国へと行けるはずだった。
四式が殺している間、わたしは安アパートの廊下でタバコを吸って待っていた。
ヒットマンの四式 ようすけ @taiyou0209
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