私は銃を

山口じゅり@聖森聖女4巻7/25発売❣

私は銃を

「あんな男やめとけって、マリアにいったんだけどね」

 母は、携帯の電源を切るなりそういった。

「マリア姉さんから?」

 私は、先日の電話でマリア姉さんが泣きながらホセに頬骨を折られたといっていたのを思い出した。

「そう。ホセのチンピラ崩れが。こんどこそマリアを迎えに行かなきゃならないね」

 母は立ち上がり、それから、「お前もおいで」といった。


 私は頷いた。

 血のつながりがなかったとしても、マリア姉さんは私に優しかった。

「車に乗る前にね、これを持って」

 母は、壁にかかるライフルを降ろすと、私に預ける。ずっしりと重い。私は2,3歩たたらを踏んだ。

「私が撃つの?」

「まぁ、ホセのバカが本当にどうかしてたら、撃つかもしれない。念のためさね」

 母は言った。

「あたしが撃ったら、今度は弁当はつかないよ。お前さんも他の養い子も飢え死にしちまう。でも、お前さんが誰かをうっかり撃ち殺しちまっても……まだ十だ、お咎めなしで帰ってこれるからねぇ、お前さんが持ってるのがいい」


 母は、ホセの家まで車をかっ飛ばした。

 どんどんどん、と荒々しく母がドアをノックする。私はライフルを背に隠し(といってもさっぱり隠しきれていなかったが)、その後ろに付き従った。

 何回目かで、不機嫌そうなホセが顔を出し、すかさず母はドアの隙間から体を滑らせ家の中に入る。私も一緒に滑り込む。

「マリアを出しな、あたしの娘に手を上げる奴には、容赦しないよ」

「俺の嫁をどうしようが、俺の勝手だろ!」

 ホセを無視して、母は二階に向かって大声で叫んだ。

「マリア、降りといで!」

 ホセは二階に続くドアの前で仁王立ちになり、手を後ろにやるような仕草をした。

「構えな」

 母は私に言ったのだ、そう理解した。一瞬の躊躇、でも私は後ろ手に持っていたライフルをなんとか構えると、ホセに震える手で銃口を向ける。

「ホセ、どきな。撃つよ」

 ホセの後ろの、二階に続く階段。あの向こうに私の姉がいる。

「当たるわけない」バカにしたようにホセが言った。

「アナ、撃ちな!」

 私は引き金を引いた。

 ずどん、という音、そのまま私はよろけてひっくり返る。

 すべてがスローモーションだ。

 天井に穴が開き、ホセは固まり、それから、ずたぼろのマリア姉さんは階段の扉の向こうから降りて来て、母を抱きしめる。


 帰り道、マリア姉さんと私を車にのせて運転する母は、病院に行くよ、といった。

 助手席の姉さんは返事もせず、鋭い目で母を見た。

「……アナに撃たせたのね、母さん。ホセがアナを撃ったら、どうするつもりだったの?」

 母はにやっと笑った。

「そんなことにはならないさ。そんときゃあたしがホセ撃ち殺しちまっただろうからねぇ」

 母は胸元に手を突っ込んでハンドガンを見せ、私たち姉妹は、あっけにとられ、それから顔を見合わせて笑った。


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私は銃を 山口じゅり@聖森聖女4巻7/25発売❣ @kurousa0209

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