くらげちゃんとひすいちゃん

城名未宵

くらげちゃんとひすいちゃん

あるところに ひすいちゃんという ちいさなおんなのこが いました。


ひすいちゃんは いつも たいくつそうに ひとり うみを ながめていました。


「なにか たのしいことは ないかなぁ」


そう つぶやくと うみから ふわふわと せの たかい おんなのこが あらわれました。


「わあっ!」


ひすいちゃんは とつぜんあらわれた おんなのこに びっくりして しりもちを ついてしまいました。


すなの ざらざらが てのひらから つたわってきます。


「わたしは くらげ!いっしょに うみを ぼうけんしようよ!」


くらげちゃんは ぴしり!と げんきよく てを さしだしました。


ひすいちゃんは くらげちゃんの ていあんに びっくりして それから どきどき わくわく しました。


「うん!わたしは ひすい!ぼうけん したい!」


ひすいちゃんは あかるさ いっぱいで こたえました。


「やったあ!」


にこにこえがおに なって くらげちゃんは ひすいちゃんの てを とりました。


くらげちゃんの ては あたたかくて ひすいちゃんは こころが なんだか ぽかぽかしました。


てを つないだ くらげちゃんは さっそく うみに もぐろうと するので


ひすいちゃんは


「でもね わたし じょうずに およげないの」


と かなしそうに いいました。 


ひすいちゃんは いきつぎが とくいではないので おぼれてしまわないか しんぱいなのです。


すると くらげちゃんは


「だいじょうぶ!わたしが いるから!とってもきれいな けしきを みせて あげるよ!」


と むねを たたきました。


そんな くらげちゃんの まっすぐな ことばに あんしんして ひすいちゃんは ゆうきを だしました。


うみのなかは ひんやりとしていました。


すこしだけ せかいが あおくみえるのが おかしくて たのしいきもちに なりました。


「すごい!」


ひすいちゃんは はじめて うみのなかみを しりました。


まるで べつのせかいに きたみたいです。


「きれいでしょ!」


「うん!すごく!」


ふしぎなことに くらげちゃんと てを つないでいると いきが くるしくなりません。


めを あけるのも こわく ありませんでした。


おそらから さしこむ ひのひかりが ぴかぴかして おさかなのおやこが となりを すいすいと およいでいます。


おさかなさんは えほんで みたよりも ずっと うろこが きらきらしていました。


ひすいちゃんと めがあうと おさかなさんは おびれを ぱたぱたと うごかして あいさつを してくれました。


「こんにちは!」


ひすいちゃんも うれしくなって てを ぱたぱたと うごかして あいさつを かえします。


ひすいちゃんは ずっと うみに はいってみたかったのです。


でも こわいから いつも ながめている だけ だったのです。


「くらげちゃん!ありがとう!くらげちゃんと てを つないでいると うみに もぐるのも こわくないや!」


「どういたしまして!」


くらげちゃんは にっこりと わらって ひすいちゃんと つないでいる ひだりてに きゅっと ちいさく ちからを こめました。


くらげちゃんと ひすいちゃんは いろいろなおさかなさんや かいのなかまたちに あいさつをして どんどん ふかいところへ もぐって いきました。


だれもみんな やさしくて いろいろな おはなしを してくれたり てじなを みせてくれたり たくさん たのしませて くれました。


かにの おねえさんに もらった おそろいの かみかざりは ふたりの あたまのうえで ゆらゆらと いっしょに およいでいます。


どんどん うみを ぼうけんしていると やがて まっくらなところへ たどりついて しまいました。


おひさまの ひかりが ちっとも とどかない まっくろな うみです。


おさかなさんも かいのなかまたちも だれもいなくて しんと しずまりかえっています。


くらげちゃんは こまって しまいました。


「これじゃあ なにも みえないよ」


えほんでみた とっておきの ばしょまで あとちょっとなのに。


ひすいちゃんと いっしょに みにいきたいのに。


くらげちゃんは まっくらが こわくて かなしくて ないちゃいそうな きもちでした。


すると こんどは ひすいちゃんが むねを たたきました。


「わたしに まかせて!」


そういうと ひすいちゃんは ひだりてを まえに かざし つきみたいに きらきらな ひかりで さきを てらしました。


まっくろだった みちが まるで よぞらみたいに かがやいています。


「わあっ!すごい!」


くらげちゃんは わくわくして かなしいきもちが すっと きえていきました。


ひすいちゃんが みちを てらしてくれたからです。


「きれいでしょ!」


「うん!とっても!」


くらげちゃんは うれしいきもちで いっぱいでした。


ひとりでは きっと こわくて いけなかった ばしょに ひすいちゃんが つれていって くれるからです。


「ひすいちゃん!てらしてくれて ありがとう!」


まっくろなこのばしょに おひさまの ひかりが とどくぐらい おおきなこえで ひすいちゃんに ありがとうを つたえました。


「どういたしまして!」


ひすいちゃんは ふわりと ほほえみました。


くらげちゃんに よろこんでもらえて うれしかったのです。


ふたりは うみのなかの あまのがわを ゆっくり およぎます。


こんぺいとうみたいな おほしさまたちが みちを しめして ひかっています。


あまのがわの むこうから まばゆいひかりが とびこんできました。


わくわくが おおきくなって いそいで でぐちを めざします。


「「わああっ!」」


ふたりは おもわず こえを あげました。


あか あお ぴんく おれんじ きいろ。


ほかにも しらない いろが たくさん。


くらやみを ぬけたさきには ほうせきみたいに あざやかな おはなばたけが ありました。


ひっそりと みを よせあって うつくしく さいています。


「すっごくきれいだね!」


とふたりは えがおになりました。


たのしそうに おはなを みまわす ひすいちゃんに くらげちゃんは おしえました。


「この おはなに おねがいすると そのおねがいごとが かなうんだよ」


ひすいちゃんは びっくりと わくわくが てをつないだ きもちでした。


おはなみたいに きらきらな ひとみで くらげちゃんを みつめます。


「ほんとうにっ?」


そう たずねると


「ほんとうに!」


と くらげちゃんが げんきいっぱい こたえてくれました。


ひすいちゃんの えがおは ぱあっと まんかいに なりました。


「くらげちゃんと ずっと いっしょに いられますように!」


おねがいごとは もう きまっていたのです。


ひすいちゃんの おねがいごとを きいた おはなたちは ふわりと はなをひらいて うみのなかに にじを つくりだしました。


ほっぺが ほんのり ぴんくいろに そまった くらげちゃんも にじに むかって おねがいをします。


「ひすいちゃんと ずっと いっしょに いられますように!」


くらげちゃんの げんきなこえで にじは おおきくなりました。


まっくろな うみが にじいろに かがやきます。


さっきまでは くらくて みえなかった とおくに さんごしょうが みえました。


ふたりは まんてんの えがおになりました。


それから かおを みあわせて わらいあいました。


「あしたもこようね!」


「うん!かならずだよ!」


ばいばいの じかんです。


おうちに かえらないと みんなに しんぱいを かけてしまいます。


さんごしょうの むこうを ぼうけんしたかったのに。ざんねんです。


しかし さみしくは ありません。かなしくも ありません。


また あした いっしょに ぼうけんを できるからです。


ちじょうに もどった ふたりは おたがいの かげが みえなくなるまで おおきく てをふりました。


「またね!」


「またあした!」


ふたりは また あしたも このばしょで であうでしょう。

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くらげちゃんとひすいちゃん 城名未宵 @koyoi_00

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