記憶

@go-syabako

記憶

 私には気になる人がクラスにいる。そう、同じ1−8のクラスの東山くんという男子だ。彼は身長が180cmと高く、目鼻立ちもはっきりしていて、マッチョで、そして野球部のエースだ。好きな食べ物はバナナ。給食もいつも残さず食べていて、おかわりとかもしている。何より食べるスピードが早い。私が給食の3分の1を食べたあたりで彼はもう食べ終わっていてお皿を片付けている。そんな彼に私がなぜ興味を持ったのか。それはある日のことである。掃除をしていて机を元の位置に戻そうとしていた時、その日はたまたま掃除当番の人が部活で少なくて私と東山くんしかいなかった。2人で40人もの机を元に戻すのは大変だなと憂鬱な思いになりつつ、机を持とうとしたら東山くんが

「立花さん、ここは俺がやっとくよ。掃除道具を片付けといてくれる?」

と言ってくれた。言われた通り、掃除道具を片付け終わって教室に戻ると半分ほどの机が元の位置に綺麗に置かれていた。掃除道具を片付けるのなんてほんの5分ほど。彼はその5分の間に1人で20人分もの机を戻したのかと思うとびっくりした。その後

「私も手伝うよ、東山くん」

と言うと、

「ありがとう」

と言って一緒に机を戻した。そして彼の行動に目を疑った。彼は一度に4人分の机を持ち上げていた。どういうことかと言うと、片方の手で2つもの机を持ち上げていたのだ。とんでもない腕力。私は思わず

「東山くんって腕力すごいんだね。片手で2つも机持ち上げられる人なんて見たことない」

と言った。そしたら彼は

「そうでもないよ。練習すれば誰でもできるようになるし。それに前の俺なら片手で4つは余裕だったよ。」

と言われた。いやいやおもしろすぎでしょ。練習すればできるようになる?前の俺なら?どんな世界線で生きとんねん。あんたは前世でゴリラだったんか。そう思ってしまった。そんなわけであの日以来私は彼のことが気になり始めた。そして私は彼と仲良くなって「あんたは前世ゴリラかーい!!!」と言ってみたい、という野望を抱き始めた。それからというもの、私は彼に積極的に話かけるようになった。

「好きな食べ物は?」

「バナナかな。」

「どこ出身なの?」

「名古屋」

「今日の宿題って何だっけ?」

「科学のレポート作成だったはず」

こんな他愛もない会話を続けているうちに彼からも話かけてくるようになった。

「次の時間教室どこだっけ?」

「生物室」

「情報の課題ってもう終わった?」

「まだだけどもうすぐ終わりそう」

「まじかやばい俺まだ手つけてないんだけど」

最初はあんまり喋らなかった彼がだんだん喋ってくれるようになって嬉しい。そして来週は職業体験だ。私は幼稚園に行く。東山くんも一緒のグループ。これはもっと仲良くなれるチャンスかもしれない。そんなことを思いながら、子供達と何をして遊ぶか1日のスケジュールをグループで考えたりした。そんなこんなで1週間はあっという間にすぎ、ついに職業体験の日。私が幼稚園につくともうみんな集まっていた。まずはみんなで外遊び。子供達が元気で活発でかわいすぎた。次の時間は教室に戻ってお絵描き。お昼の時間になって子供達と一緒にご飯を食べた。みんなでワイワイ食べた。東山くんを見ると、子供達と楽しそうに食べている。

「お兄ちゃん、大好き!!あとで一緒に遊ぼー!」子供達に囲まれてあんなに優しそうな顔をしているのを初めて見た。午後からまた外に出て鬼ごっこをみんなでした。そしたら1人の男の子が転んでしまった。先生をまず呼んだ方が良いよね。でもその前に男の子に声をかけなきゃ。そう思って男の子のいるところに向かおうとしたら、東山くんがやってきて

「大丈夫?痛かったよな。立てる?」

と男の子に声をかけている。

「うん、大丈夫、立てる」

「おおすごいな。じゃあお兄ちゃんが魔法の言葉をかけるぞ!痛いの痛いのとんでけーー!!」

東山くんのおかげでだいぶ男の子も元気になったみたいだ。

「お兄ちゃんありがとう!!」

そういって男の子はまた元気に走り出した。東山くんってちょっと怖いイメージがあったけど、子供にすごい優しいんだ。新しい発見だった。そういえばゴリラも子供に優しいってどっかで聞いたことあるな。なんだっけ。ああ、そうだ前テレビで東山動物園のイケメンゴリラのシャバーニの紹介してたときに流れてた。ゴリラは子供に優しくて家族を大事にするっていってた気がする。やっぱり東山くんって前世ゴリラだったのかな。子供達とたくさん遊んで疲れたのだろう、そんなことを思いながら寝てしまった。


今日は掃除当番の日でまた東山くんと2人きりで掃除をしていた。あの時のように東山くんは1人で4つの机を戻している。今がチャンスじゃないか。そう思った。

「ねね、ずっと気になってたことがあるんだけど」

「何?」

「東山くんって腕力めっちゃ強くない?」

「そうでもないよ」

「いやいやおかしいよ。1人で4つ机持ちあげられる人私東山くん以外見たことない。もしかして前世ゴリラだった?」

「え、」

すごい変な空気になってしまった。謝らなければ。

「やっぱごめん。変なこと言ったよね。忘れて」

「いや、俺は前世ゴリラじゃない。チンパンジーだ」

は?えええええ。前世チンパンジー?ゴリラじゃなかったんだ。いやてかそれより前世チンパンジーとか覚えてるんだ。すご。

「前世が何だったかとか覚えてるの?すごいね。」

「そんなことないよ。立花さんは自分の前世覚えてない?」

「うん、全く。それよりチンパンジーってどんな感じだったの?どこで生きてたとか覚えてたりするの?」

「覚えてるよ。俺の生まれは東山動植物園ってとこ。名古屋にある動物園。ゴリラのシャバーニとかで有名なとこ。あ、知ってる?俺、シャバーニにずっと憧れてたんだ」

まだ脳が整理できない。彼は前世ゴリラじゃなかったんだ。

「シャバーニにずっと憧れてて、ゴリラみたいになりたくて頑張ったんだ。筋トレもしたし、嫌いな食べ物も克服できるように頑張った。今では少し、シャバーニに近づけた気がする。」

「あと俺からも1つ聞いて良い?」

「良いよ。もちろん」

彼が私に聞きたいことってなんだろう。

「本当に前世のこと、覚えてない?」

「うん。全く覚えてないかも。」

「そっか。実は俺ら昔から知り合いだったって知ってた?」

「え?」

「俺ら、同じ動物園でチンパンジーだったよ。」

「ずっとこの想いを伝えたかった。君がゴリラを好きなのは知っていたから俺もゴリラになれるように頑張ったんだ。でもゴリラになる前に、君は寿命で死んでしまった。だから今度こそ伝えたい。」


「ずっと昔から好きでした。」


彼からそう言われた瞬間、全ての事を思い出した。東山くんと私は運命だったんだ、と。

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