Ep.05【08】「決断」





分の悪い消耗戦になりつつあった。

 

例えハヤテがファントムの修復を終え、移動出来たとしても

この数の銃口を避けた上で、2人を回収するのは不可能だろう。

 

かと言って、このコンテナから一番近い遮蔽物まで約150m・・・・・

走っている途中で狙撃されるのが目に見えていた。

プラズマが空気を裂く音と被弾するコンテナの音が混じり合う。

「ティア・・・・最悪、海に飛び込んで逃げるしかない」

リオが後方に広がる暗く淀んだ海面を見た。

この、うねり続ける海で果たして逃げおおせる事が出来るだろうか。

不安の暗雲がリオの心に急速に広がっていく。

「姐ぇさん・・・・たぶんそれしか脱出ルート無いよ。

ここからNTPDに通報する事も出来るけど、到着するまでに押し込まれる」

セスティアが視線を飛ばしながら答えた。

「いま飛び込む?」リオが言う

「まだ。出来るだけ数を減らして、飛び込むのは『お守り』が切れる寸前かな」

セスティアが冷静に判断した。

「なら決まり!寄ってきた人形共を片っ端からぶっ飛ばそう」

リオが決意を固め、両手で銃を構え直す。

「ジャマーに対抗してくるかもしれないから、気を付けて!」

そう言いながら、セスティアも同じようにブラスターガンを構え直した。

  

  

ファントムのメインシステムまで感染し、ハヤテは未だ焦っていた。

一瞬だけ回線が回復し、何とか此方の状況を伝えられただろうか・・・?

だが、恐らく時間は無い。

それも保って数分が限界だろう。

熟考する。

   

答えは最初から決まっていた。

   

   

ハヤテが修復の手を止め、焦りと苦渋に満ちた表情になる。

  

  

 

「アレを使うか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クソっ!!!!」

  

  

  

「ティア!そっち!3体回った!!!」

リオの声が飛ぶ。

返事は無いが、回り込もうとしたドロイド3体が銃撃され、もんどり打ち倒れ込む。

「スリーダウン!!!姐ぇさん!!!前から8体以上ツッコんで来る!!!!!」

セスティアが大声で叫ぶ。

リオはハンドガンからマガジンを抜き、代わりに赤くペイントされたマガジンを

再装填し、即座に迫る集団に2発発射した。

二度の爆音と共にドロイド集団が文字通り吹き飛ぶ。

  

「トールハンマーだっ!!」

  

セスティアが思わず口にしたのは、何時ぞやの突破戦の時に見た特殊弾。

1発で対戦車ロケットと同じ威力という、何とも凶悪な弾。

「姐ぇさん・・・・・今日持ってきてたの?」

セスティアが呆れ半分でリオに尋ねた。

「何かあった時の保険よ!!」

そう言いながら、リオは150m先の大きな集団へと、もう一発発射する。

次の瞬間、ドロイドが固まっていた場所に火球が生まれた。

「これ使って、突破は・・・・・」

セスティアが言いかけたがリオが食い気味で言い返す。

「あと7発しかない!突破は無理!!」

2人がドロイドを見やると、ドロイドがコンテナを盾にし、射撃を再開していた。

「フンっ!一丁前に学習するんだ・・・・・!」

リオが苦し紛れの笑顔を見せていた。

 

EMPジャマーのバッテリー残量の灯が黄色から赤へと変化しつつあった。

 

  

   

     

————————————————————————

    

  

  

  

苦渋の決断だった。

  

    

この「仕事」を始める時、この力は使うのを半ば封印した。

強すぎる力は害しか生まない。

そう思ったから。

 

だが、今の状況ではそうも言ってられなかった。

「娘たち」に命の危機が迫っている。

 

以前にも危険な瞬間はあった。

だが、何とか突破する方策があり、堪える事が出来た。

しかし、今夜は状況が違いすぎる。

絶体絶命だ。

 

決断し、眼を見開く。

 

 

  

ハヤテの単眼が白い光を放ち、周囲を眩しく照らす。

  

  

  

——————同時刻 

  

  

ノヴァ・トーキョーの中心部、チヨダにある中央議会の地下50m

この都市の総てを管理し、あらゆる情報と統括を行うセントラル・コンピューター。

物学的ニューロンを模倣したニューロモルフィック回路が統合されたハイブリッド型

生体コンピュータ・・・・・通称 『ARK・CORE(アーク・コア)』が低い唸りを上げる。

 

都市の心臓 “ARK・CORE” が、怒りに震える。

 

 

 


————————————————————————





「くそ!くそ!!」

 

セスティアが悪態をつきながら、迫るドロイドを大型電磁ナイフで切り裂く。

逆袈裟懸けで真っ二つになったドロイドの影から別の個体が飛び込んできた。

暗闇に乗じ、赤く光るレンズが急速に迫る。

 

「うわっ!!!!」

 

思わず叫び、ブラスターを構えるが一瞬遅い。

ドロイドの左手がセスティアに迫った瞬間!

リオが回し蹴りでドロイドを蹴り飛ばし、海へと吹き飛ばした。

セスティアが立ち直り、海に落ちたドロイドにとどめとばかりにブラスターを見舞う。

 

トールハンマー使用後、ドロイド集団は攻撃方法を二転三転させる。

連続攻撃や位置をずらした場所からの突撃。

今はタイミングをずらした、左右からの波状攻撃に2人は疲弊していた。

「もう!切りが無い!!」

リオが破壊されたドロイドを睨みつける。

力を込め、立ち上がろうとするが、足が痺れて一瞬ふらついた。

何発擦過傷を負ったか分からない。

「姐ぇさん・・・・・・こっちのエネルギー残量10%切った・・・・」

同じように全身傷だらけのセスティアが悲痛な顔で報告してきた。

「アタシもトールハンマーは品切れ。マガジンもこれで最後」

見ると、EMPジャマーのランプには最後の赤橙が灯り始めていた。

 

「そろそろ潮時かな・・・・・・・」

リオが上空を見て呟いた。

  

  

 

  

そんな空の遥か先・・・・・・・新トーキョー湾上空1500m

 

 

そこには2つの十字架を思わせる灰色が夜空を滑るように悠々と南下していた。

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