第2章 百合の蕾編
第13話 主人公の悩み相談
週明けの放課後――俺は杏芽莉から例のファストフード店へと呼び出された。
店内へ入ると、五光兄妹が仲良く並んでテーブル席に腰掛けている。
高身長イケメンの五光と可愛らしい杏芽莉が横に並ぶと明るい髪色も相まって絵になるな。
それより一体どんな話だ?
まさか……俺達の偽装交際に気付かれたんじゃ?
俺は恐る恐る向かい側の席に腰を下ろした。
「話ってなんだ……?」
「今日碧兄に用があるのはあたしじゃなくて、一兄なの!」
「そうか……それで、内容は……?」
五光は軽く会釈してから話し出した。
「最近、誰かに尾けられている気がするんです」
――良かったぁ。バレてない。
「それって、ストーカーってやつか?」
「はい、実はこの前階段から転んだのも、誰かに背中を押されたからなんです……」
「それは酷いな……そいつの顔は見なかったのか?」
「見ていません。でも着ていた制服から女性だったことだけは分かります……」
「でも、それで俺にどうしろと?」
「あたしが一兄に碧兄にはスパイとか探偵の才能があるって教えてあげたの!」
「な、なんだよそれ……」
「だってこの前の作――な、なんでもない。ねぇ碧兄、お願い、犯人探しを手伝って?」
俺はウルウルと光る杏芽莉の瞳にアッサリ根負けしてしまう。
「し、仕方ねぇな……彼女のお願いなら断るわけにはいかないか……」
「ありがとう碧兄!」
「ありがとうございます!」
「一兄を怪我させるなんて、絶対許さない。ねぇ碧兄、必ず犯人を見つけてね!?」
「あぁ、できる限りやってみる」
話がひと段落したところで、五光兄はさらりと話題を変えた。
「ところで杏芽莉、君はなぜ恋人を兄と呼んでいるんだい?」
ビクンッ――と、体を震わせる杏芽莉。
「……ほ、ほら、あたしってお兄ちゃん大大大好きなブラコン行き遅れ女だし、彼氏のことも兄みたいに尊敬したいなぁって思ってるだけだよ……!?」
痛いところを突かれたと言わんばかりの杏芽莉は、自らのHPを大幅に削りながら拙い言い逃れを披露した。
「そ、そうなんだ。まぁ色々なカップルのカタチがあるものだよね……」
――これには実の兄ですら、ちょっと引いていた。
「あれぇ? もしかして碧っち!?」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはファストフード店の華やかな赤と黄色の制服に身を包んだビッチギャル――二宮架純が満面の笑みを浮かべていた。
「に、二宮……」
「え、2人は知り合いだったんですか?」
不思議そうに問う五光。
「ま、まぁちょっとな……」
パタパタと足音を立てながら席までやってきた二宮は少し屈んで俺の顔を覗き込んだ。
その際、この日はポニーテールにしていた桃色の髪の束がふぁさりと揺れた。
「ねぇ碧っち、うち、あれから本当に誰の誘いも全部断ってるんだよ? 偉い?」
全ての男に効く、あざとい笑みだった。
「あ、あぁ偉い偉い……」
「やったぁ♪ 碧っちに褒められちゃったぁ!」
仕事中にも関わらず、俺の腕に抱きつき頬をすりすりと寄せてくる二宮。
「ちょっ、やめろって!!」
俺は慌てて彼女を引き剥がすが、至極当然に怒り狂う五光兄妹。
「なっ、花霞先輩っ!? 二宮さんとはどういう関係なんですか!?」
「そうだよ碧兄!? どういうこと!?」
「いや、どうって……会うのはこれが2回目だし、決してお前らが想像しているような関係ではない!」
「えぇ!? でも一緒にホテルには行ったでしょ?」
「そ、それは……でも何もしてないだろ!?」
二宮の放った余計な一言が、完全に2人の怒りに火をつけた。
「花霞先輩――」
珍しく怖い顔を浮かべる五光の言葉を遮り、テーブルに両の拳をバシンと叩きつけて立ち上がった杏芽莉。
「ちょっとそこのオバサン……あたしの彼氏になに慣れ慣れしくベタベタ触ってるの?」
「は? オバサンって誰のこと?」
「あんたしかいないでしょ?」
「キミ中学生? 子供は大人の恋愛に口出さないで貰っていいかなぁ〜?」
バチバチと燃える火花が彼女たちの目から激しく飛び散っている。
「もう高校生だし、それにあたしは碧兄の彼女だし!」
「ねぇ碧っち、それホント?」
睨み合いを止め、二宮は俺を見て尋ねる。
「ほ、本当だ……」
「なるほどねぇ〜、じゃあ今はうちが悪者か。邪魔してごめんね? ねぇ彼女ちゃん、名前聞いてもいい?」
「杏芽莉だけど」
「じゃあ杏芽莉ちゃんに宣戦布告しとくね? 碧っちはいつか絶対、うちのものにしてみせるから♪」
不敵な笑みでそう吐き捨てた二宮は、軽い足取りで厨房へと消えていった。
――その後の杏芽莉の荒れようったらなかった。
「なんなのあの女……碧兄もあんないかにも軽そうな女に鼻の下伸ばして、反省してよね!? 次やったら即浮気認定するから!」
フライドポテトを鷲掴みにしてモシャモシャとやけ食いする俺の偽の恋人。
「すみませんでした……」
「花霞先輩、本当に二宮さんとは何もないんですよね?」
と、妹を心配する兄が念を押した。当然だ、俺なら胸ぐらを掴んででも問い詰めてる。
「そこは信じてくれ」
「よかったです、安心しました」
ようやく笑顔を取り戻した五光を見て安堵すると共に、杏芽莉の嫉妬する演技に深く感心する俺だった。
次の更新予定
エロ漫画の世界へ転生したら最推しヒロインの兄だったんだが。仕方ないので主人公から妹の貞操全力で守っていたら他のヒロイン達までやたらと俺に甘えてくる。 野谷 海 @nozakikai
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