カミオカンデ
十二水明
カミオカンデ
最近判明したことだが、我々の住む地球の内部には空間があり、そこには地底人が住んでいる。
彼らのエネルギイ源は「ニュウトリノ」という小さな謎の生命体である。我々が肉眼で見ることはできないが、どうやら彼らの目には見えるようである。地底人御用達のニュウトリノ直売所である「カミオカンデ」では、宇宙から降り注いでいるそれらを何らかの特殊な方法で捕獲し、分類して販売している。ニュウトリノはカミオカンデに来るまでに通った場所によって味が違うようで、以前我々が話を聞いた地底人は
これまで地上人のなかでカミオカンデの詳細について取材を認められたものはいなかったが、我々は粘り強い交渉の末、ついにカミオカンデの内部に入ることを許可されたのであった。
●月×日早朝、我々は岐阜県吉城郡神岡町にいた。
何を隠そう、この町にある神岡鉱山には、地底へと繋がる入口が開いているのである。
多くの坑夫が働き非常に活気のある坑道を尻目に進み、別の場所にある
ここで、彼らについて説明しておこう。
彼らの外見は我々地上人と何ら変わりない。身長も我々と同じくらいである。もちろん目も鼻も口も耳もあるが、先ほど挙げたニュウトリノを見ることのできる目のように、我々の持つそれらとは異なる特徴を持つ場合があるようである。何がどう異なるのかは、まだあまりよく分かっていない。今後の研究が待たれるところである。
彼らはとても優秀な頭脳を持ち、地上の言語にも慣れ親しんでいるようである。そのため、会話は日本語で行うことができる。彼ら本来の言語も別に存在するが、非常に難解で、履修は容易ではないように思われる。
待機していたのは、チェレンという名の地底人であった。彼は非常に友好的な態度で、自らをカミオカンデで働く職員だと説明した。「これからカミオカンデに降ります」と言いながら彼は我々に黒い目隠しを渡し、装着するよう指示した。指示通り目隠しをつけてしばらくすると、足元から小さな振動を感じた。
そのまま二分ほど経過した頃、目隠しを外して良いとの許可が出た。それを外すと、眼前には先ほどとは全く異なる景色が広がっていた。我々は坑道から建造物の中に移動していたのである。ドオム状の屋根は銀色に光る素材で覆われ、そこかしこにむき出しの配管がある。チェレンによると、ここは地上の単位で地下千
我々は覗き窓からカミオカンデの本丸とも言える、ニュウトリノを捕獲するための部分を見学した。その部分は巨大なタンク状になっており、内部には純水がたたえられている。壁面にはガラスの電球のようなものがびっしりと並んでいた。温かみのある黄色の光を反射して、まるでそれら自体が光っているようであった。
今後、彼らとの関係がより進展し、カミオカンデの仕組みやニュウトリノの詳細について詳しい情報を得ることのできる日が訪れることを願うばかりである。
上記の文章は、戦前に某大学の広報誌に掲載された執筆者不明の記事に、一部修正を加えたものだ。修正を加えたといっても、文体を読みやすいよう一部変更しただけで、内容には一切手を加えていない。
この記事は長らくフィクションだと思われていた。しかし1980年代初頭、実際に神岡鉱山で地底へとつながると見られる入り口が発見された。調査を行うと、地下千メートルほどのところに、記事に書いてあった通りの巨大な構造物が見つかったのだ。記事にならい、その構造物はカミオカンデという名称で呼ばれるようになった。
すでに、アメリカのライネスとコーワンにより、実際にニュートリノという素粒子が発見されていたこともあり、カミオカンデ内部の詳細な調査が行われた。その結果、驚いたことに、カミオカンデにはニュートリノを観測する能力があることが分かったのだ。
その後、カミオカンデを利用してニュートリノを観測する試みが始まり、超新星爆発からのニュートリノを観測するなど大きな成果を挙げた。そのため、1990年代にはより巨大化し、性能を向上させた「スーパーカミオカンデ」が建設され、運用が開始された。現在は、スーパーカミオカンデよりさらに大きく、高性能な「ハイパーカミオカンデ」の建設が進められている。
カミオカンデの発見により、記事の内容には大きな注目が集まった。当然地底人についても盛んな研究が行われたが、現時点までその存在は確認されていない。
カミオカンデを建設するほどの知能と能力を持った彼らのことだ、何らかの事情があり、現在の人類では到底辿り着けないような場所に隠れているのかもしれない。今後の科学技術の発展に期待したいものだ。
カミオカンデ 十二水明 @Ilovepotato
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