第3話___紫雲瑠蘭___
「もう少しで閉めますよ〜」
あぁ、もう終わりか
今日で何枚描いただろう、今日もまだらに重ねられた微かに匂うインクの香りをした紙が
五……十枚?
ふぅ、と背伸びをしてインクの香る空気を吸いながら席を立つ
そして、同じタイミング
葵君も椅子の引く音を立てながらすらっとしたスタイルをあらわにする
(背、高いのいいな…)
トントン、と今日書いた紙をまとめ、軽やかな足取りで図書室を出ようとした…けれど、
ふと思った、
葵君がいつも読んでる本は…あれはなんなのか
題名は見えないけれど、少し古臭い分厚い本を
葵君はいつも読んでいる
私と同じ固定値で、いつもと変わらず同じものを
気になって気になって我慢できずにいた
(あれ、読めるかな…)
いつもは気の乗らない読書
でも、私はそれが気になり過ぎて、心拍数が上がってる気がする
(葵君についていったら借りれたりするかな…)
自分の荷物をまとめて、葵君がその場から動き出すのを見計らう
葵君が一直線に、奥の本棚へ向かっていくのを追いかけていく
どんどん足音が雑音に紛れ込んで、溶けていく
そして、ピタッ一部の本棚の前で止まる
そこから葵君は、そこだけ時間が止まったように動かなくなった
(あれ…?)
本棚の影から身をのぞかせる
よくよくみたら考え事をしてるのかな
…え、まって、
これって話しかけるチャンスなのかな…?
話しかける必要もないのに
でも、ここしかない
「あ、あの……」
「……あさひな、くん……だよね?」
初めて呼んだ名前は、空気の中で揺れ動き
まるで二人だけの空間にいる気がした
驚いたような顔でこちらを見る葵君は
今までよく見えなかった分、とてもカッコよくて見えた
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