第20話 祝勝
酒場の片隅で二人は向かい合う。周囲の喧騒が心地よいBGMとなった。
「私の故郷は雪深い山間にある小さな村です」
エルミナは遠い目をしながら語り始めた。
「氷魔法を使う一族として代々暮らしてきたのですが……私の力が弱いということで疎外されてきました」
「そうだったのか……」
航希は静かに耳を傾ける。
「でも……あなた方に出会って変わりました。自分が価値のある存在だと感じるようになったんです」
エルミナの表情は次第に明るくなっていく。「特に……航希さんと一緒にいると安心できます」
その言葉に航希の胸が温かくなる。
「俺も同じだよ。君がいるから頑張れるんだ」
「本当ですか?」
エルミナは嬉しそうに微笑んだ。
「ああ。本当だよ」
そんな会話を交わしていると突然店内に緊張が走った。
「お客さん!大変です!」
宿の主人が慌てて駆け寄ってくる。
「どうしたんだ?」
航希が立ち上がると主人は震える声で告げた。
「北の山脈で異変が起きています!空が赤く染まり始めているんです!」
その報告に全員が凍りついた。北の山脈といえばエルミナの故郷がある方向だ。
「すぐに向かわなければ!」
航希の決断に異議を唱える者はいなかった。
「私の村にも危険が及んでいるかもしれません……」
エルミナの顔には不安と決意が交錯していた。
翌朝一行は馬車を飛ばし北の山脈を目指すことになった。
「エルミナの故郷にはどれくらいかかるんだ?」
アッシュが問いかけるとエルミナは答えた。
「三日ほどかかります。途中には険しい峠もあるので十分な注意が必要です」
「了解だ。とにかく急ごう」
航希の号令で馬車は全速力で走り始めた。
道中ハルトが地図を広げながら説明する。
「北の山脈には古い遺跡が多いと言われています。もしかしたら封印関係する場所もあるかもしれません」
「なるほど。それは好都合だな」
航希は前を見据えると決意を新たにした。
「必ずエルミナの村を守り抜こう」
一行は一日目の目的地である中継地点に到着した。しかし休む間もなく新たな問題が発生した。
「あれは……?」
フィオネが空を指さすと遠くの方に黒い雲が広がっていた。それは通常の嵐雲とは異なり禍々しいオーラを纏っているように見えた。
「間違いない……七死司祭の気配です」
レティシアの言葉に全員が身構える。
「行くぞ!」
航希の掛け声で一行は馬車を降り戦闘準備に入った。前方にはすでに無数のモンスターの姿が見え始めていた。
「みんな!油断するな!」
アッシュが先陣を切るとフィオネとハルトが左右に展開する。
「私たちも続きましょう!」
レティシアが馬を駆りエルミナと共に戦列に加わった。
航希は指輪に意識を集中し新たな戦略を考えていた。
(今回は数が多い……一気に殲滅する方法は?)
その時頭の中に新しい魔法のイメージが浮かび上がった。
(風と土の混合魔法……広範囲攻撃に最適だ!)
「行くぞ!サンドストーム!」
航希の両手から砂嵐が巻き起こり前方の敵を飲み込む。その威力は凄まじくモンスターたちは次々と吹き飛ばされていった。
「すごい……!こんな魔法初めて見ました!」
エルミナが感嘆の声を上げる。
しかし砂嵐の中から巨大な影が現れた。
「あれは……!?」
レティシアの視線の先には二階建ての家屋ほどの大きさを持つ獣人型のモンスターが立っていた。
「グルル……!」
赤い瞳を光らせ獰猛な牙を剥くその姿は明らかに通常のモンスターとは格が違っていた。
「こいつは厄介そうだな……」
アッシュが斧を構えながら警戒する。
「はい。相当な実力者のようです」
ハルトも杖を握り締めたまま動かない。
「私が行きます!」
エルミナが一歩前に出ると氷の矢を連続で放った。
「フリージングアロー!」
無数の矢が獣人に命中するもその皮膚を貫くことはできなかった。
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無自覚男の異世界無双 @Kimmich_love
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