FINAL ROUND. 対戦よろしくお願いします!
「楽しかったけど、遅くなっちゃったね」
既に日は落ち、空には月と星が輝いている。
なんやかんやと三先の後、二時間ほど部室で遊び続けて外はすっかり暗くなっていた。
校門の前で茶屋ヶ坂先輩とは分かれ、植田とはつい先ほど曲がり角で別れたばかりだ。今は委員長と二人きり。自宅までの僅かな距離を歩いている。
「久々に熱中したな。楽しすぎてあっという間だったぜ」
「本当に。三先してる時からずっと楽しくて、あっという間だったよ」
隣で委員長がやわく笑む。
ちらりと横目で見たその表情に、自然と俺の頬が緩んだ。
「委員長」
俺が足を止めると、少し遅れて委員長も足を止めた。
なに? と不思議そうな顔をして立ち止まった委員長が振り向いて、俺を見る。委員長の視線が俺に向いたと分かった途端、俺は頭を深々と下げた。
「一か月前、無礼たプレイをして、すみませんでしたッ!!」
近所迷惑を顧みず、腹の底から声を出す。
「えぇっ!? そんなっ、いいんだよ、伏見君……!」
あからさまに狼狽えた様子の委員長の声が耳に届くが、俺は頭を下げ続けていた。
元々、三先に勝っても負けても謝る事には違いなかったが、委員長と本気で一戦を交えた今、俺の態度がどれだけ失礼なものだったのかを痛感している。
「私だって……手を抜かれる程に弱くて、ごめんなさい!」
風が揺れて、委員長が動いたことを感じ取る。
そろりと少し頭を上げれば何故か頭を下げている委員長が視界に入り、俺達は向き合ったまま頭を下げているのだと気が付く。傍から見たその様子はきっと珍妙なもので、想像して思わず愉快な気持ちになってしまう。
「ふっ、ふふふっ……!」
「ははっ、ははは……!」
ぶるりと肩を震わせて、笑いながら頭を上げたのは委員長とほぼ同時の事だった。
おかしさに耐え切れず、俺も委員長も人目をはばからず声を上げて笑ってしまったのだった。
「ごめんっ、こんなの初めてで、何だかおかしくって……!」
「悪ィ、俺も。何してんだろな、俺達」
一頻り笑い合い、ふっと一息つく。
訪れた沈黙は不思議と穏やかで、居心地の悪さを感じることは無かった。
「伏見君。今日の私のミナヅキ、どうだったかな?」
「すっげぇ手強かった。コンボミスも無いし、こっちの択、全部読んでたんじゃないのかってくらいの防御率だったな」
「徹底して練習してきたからね、ムツキ戦。植田君や白百合さん達に沢山助けてもらったよ。お陰で、もうすっかり立派な格ゲーマーになっちゃったかな?」
「だな。委員長から見て、今日の俺のムツキはどうだった?」
「今まで対戦してきた中で、一番強いムツキだったよ。伏見君が本気だってこと、伝わってきたよ!」
「そっか。それなら良かった」
正直、俺のムツキが強いかどうかはそこまで重要な事では無かった。今日の俺の本気が伝わっていたかどうか。重要なのはそれだけだった。
だから俺は、委員長の言葉に強い満足感を覚える。
良かったという言葉は、心の底から出たものだった。
「しっかし、まさか委員長とガチ対戦する事になるとはなぁ。思いもしなかったわ」
「私だってそうだよ。対戦、ちょっと気になるなぁ~って程度でいたのに。今では、すっかりトレモが生活の一部になっちゃった」
「ホントにハマると一直線なんだな、委員長って」
「うん。一直線の結果、お陰様でブラカニガチ勢に……って名乗っていいと思う?」
「大丈夫。誰が見ても立派なガチ勢だ。そもそもキャラ萌え勢は画面端拾いコンボとか、表裏択とか仕掛けねぇから!」
「択るの面白いよね! 私、起き攻めしてる時が一番楽しいかも!」
「怖ェ~!」
夜の涼しい風が頬を撫でる中、けたけたと笑い合いながら二人で語り合う言葉が止まらない。居心地の良さに自然と目を細めると、目の前の委員長が少しだけ動揺したように見えた。
夜の帳が降りてきた中でも、委員長の少し頬を朱色にした表情だけは、やけにハッキリと見て取れた。
「ふっ、伏見君!」
「おん?」
「あのね、その、もしもまた……2on2の大会が開催される事があったら、また私と、組んでくれませんか?」
意を決した様に、きゅっと委員長が目を瞑る。
その仕草の必死さに思わず笑んでしまいながら、俺は右手を差し出した。
「こっちこそ。次も是非とも組んで欲しい。二人で優勝だ」
「……っ! うん! 優勝出来るよ、伏見君と私なら!」
勢い良く伸びてきた委員長の右手が、俺の手を掴み返す。
ギュっと力強く握られた手のひらの熱量に、俺の顔まで朱に染まってしまうんじゃないかとか。そんな事を思ってしまった。
後日。俺と委員長は約束通りに2on2の大会にチームを組んで参加をした。
チーム名は今回も『eスポ部出張版』、奇しくも一回戦は、前回と同じ『バナせばええんや』の二人だった。
委員長は前回敗北を喫したヒロさん相手に一歩も引かず、接戦の末に見事な勝利を収めていた。委員長の成長にはヒロさんも驚いた様で、わざわざこちら側まで回ってきて、委員長に賞賛の言葉を贈ってきた。
委員長も満更ではない様子で、ご機嫌な様子だ。そのご機嫌なままS木さんと戦うが、シワスという超遠距離キャラ相手にはまだまだ難しいところもある様子だ。
勝ったり負けたり。格闘ゲームはこれがあるから面白い。
前回の大会に比べ、確実に成長した委員長と俺のタッグは勝ち続け、とうとう準決勝の舞台に上がる。
相手は植田だ。何故か、茶屋ヶ坂先輩を引き連れているが……。
「アタイも格ゲー、ちょいと挑戦したくなっちゃったんだよねぇ! 植田氏におんぶに抱っこの初心者パイセンと呼んどくれ!」
「パイセンはオレが守ーるッ! てなワケで。対戦よろしくねっ、委員長ちゃーん!」
「よろしくね。手加減なしだよ?」
「もっちろーん! フシミも手加減無しだかんなー! 全力でぶっコロス!」
いい感じに殺意漲る視線を向ける植田に、俺はつい口角が上がってしまう。
「当たり前だ。全力の俺と委員長で、ぶっコロス!」
「二人とも、言葉遣い、気を付けようね?」
「はーい」
先鋒として、既に椅子に座った委員長が呆れたようにしながらレバーを握る。
離れる間際に見つめた横顔は、キラキラと輝きに満ちていて、今日は仲間である事が頼もしくも少しばかり残念に思えてしまう。ひどくワガママな話ではあるのだが、その輝きに満ちた視線を画面越しに俺へ向けて欲しいと願ってしまう。
部活での対戦も、オンラインでの対戦も、ゲーセンでの対戦も。
その全てがきっと委員長にとっては、目をきらきらと輝かせる程に魅力的に映っているのだろう。
その瞳の輝きがより強くなる対戦相手が俺である様にと願いながら、対戦を始めた委員長の応援に徹するのだった。
終
☆ ☆ ☆ ☆
これにて完結です!
色々荒い部分が多かったとは思いますが、書いていてとても楽しかったです。
ここまでお読みくださって、ありがとうございました!
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輝く瞳の好敵手~格闘ゲームにハマった彼女が、俺の好敵手になるまで~ 足軽もののふ @asigaru_mononofu
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