ROUND.26 ゲームは楽しい
『ミナヅキ Win!』
再び最終ラウンドまでもつれ込んだ第二試合は、ミナヅキ……つまり委員長の勝利に終わる。
一度崩され、そこから勢いに乗った攻めに一気に持っていかれてしまった。委員長のターンになってしまうと、主導権を奪い返すのが難しいな……。
的確な牽制を振り、高火力コンボで一気に攻めて殺す委員長のスタイルは、俺のミナヅキというよりもMAOミナヅキに近しいものを感じる。動画見て研究したな? 質実剛健を絵に描いたような委員長が見せる苛烈さに、俺は正直言って笑みが絶えない有様だ。
だって委員長がガチで牙を剝いて来てくれてるんだぜ?
ついこの間まで、ろくに会話をした事も無かったこの俺に。
遠くから見つめているだけしか出来ない、高嶺の花とも言える委員長が。
今この瞬間、俺と委員長は間違いなく同じ舞台に立っている。
同じ舞台に立ち、お互いだけを見ている。
うるさい程に胸が高鳴って、早く次の試合をしたいと心が騒ぐ!
逸る心を落ち着ける様に深く息を吸って吐く。
既に画面はキャラクター選択画面に遷移している。ムツキにカーソルを合わせ、ボタンを押す。偶然にもその動作は委員長と同時に行われた様で、ボタンを押すと同時に画面が切り替わり、すぐに対戦演出に移行した。
『Over Night. Duel!』
互いに向き合うムツキとミナヅキ。高らかに響くアナウンスを耳にした瞬間、脳内から全ての余分が消え去った。
――そして、試合はまたしても最終ラウンドまでもつれ込む。
開幕に振った攻撃がカウンターヒットしたことにより、開始早々にミナヅキを画面端に追い詰める事が出来たのだが、投げを抜けられたことで状況が一変。ミナヅキによる落ち着いた立ち回りにより画面中央まで押し戻され、今度はこちらが吹っ飛ばされて画面端に運ばれてしまう。
地面を滑りながら壁にぶつかったムツキを、ミナヅキが微ダッシュ2Aで拾い上げる。これは最速じゃないと拾えない。委員長の努力の結晶と言える動きだ。
体力的には五分。しかし状況としては、画面端を背負った俺が不利だ。
この機を逃さないとばかりに、委員長が執拗に小技で固めてくる。しゃがみガードで堪えるが……ミナヅキの中段攻撃が当たってしまう! 落ち着け! まだ委員長のゲージは溜まりきっていない! 即死にはならない!
相手を水の中に閉じ込める技・空中D攻撃でミナヅキがコンボを締めた後、互いに地上へ着地する。体力はギリギリだが、俺はまだ生きている。
互いに即死圏内。
特に俺は、ミナヅキの攻撃を一発でも浴びれば終わる状態だ。
だからこそ、ここからの委員長はより慎重になるだろう。無駄に手を出す必要はないからだ。委員長からすれば、俺の隙を狙い一発入れれば良いだけなのだから。
俺も俺で慎重になるべきなのだろう。
無駄な行動の一切を削がなければならない。
慎重に。慎重に――攻める。
牽制技を嫌がり跳ぶミナヅキを追い、ムツキも跳ねてリーチの長い空中B攻撃を振る。ヒットするも追撃は出来ない。そのままもつれ合う様に地上に降りて、即座にミナヅキが5Aの手刀を繰り出す。これをガードで防ぎ、即座に反撃に転じる。2Aのパンチを刻んだ途端、委員長のミナヅキが光を発した。
第一試合で俺が行った、ゲージ消費の吹っ飛ばし攻撃――!
考えるよりも早く、俺の手はレバーを後ろに倒していた。
キンッと甲高く響くSE。この瞬間、俺は確かに1フレームの世界に居た。
状況を確認するよりも早く、指が動く。
Bボタンを押し、吹っ飛ばし攻撃の硬直で動けないミナヅキに竹刀を突き刺す。ヒット確認なんてしていなかった。無意識に近い動きでレバーを進行方向から下に半円を描き動かして、前方へ戻すと同時にDボタンを入力。
ゲージ消費必殺技『
『これで終わりだ! 焼け崩れろッ!』
ムツキの顔にカメラが寄る。ぐるりと真横からなめる様に正面に回り、両手を前に突き出したムツキの全身を映し出す。突き出した手の平からは炎が渦を描いて迸り、一直線に相手へ向けて飛んでいく。
画面全体が炎に包まれ、深紅に染まる。
轟ッ、と燃え盛る炎のSEと共に、カメラが元に戻った。
『ムツキ Win!』
炎のエフェクトに身を包みながらダウンするミナヅキを見下ろして、ムツキが立っている。
ギリギリの死闘を制したのは、俺だった。
勝利演出と共に盛大に詰めていた息を吐き出す。
指先が震える。本当にギリギリだった。ギリギリの死闘だった。
――最高の試合だった。
満たされた心地と共に、委員長に声を掛けるべく席を立った瞬間。
『Here comes a new challenger!』
「え」
乱入を知らせるボイスに思わず固まる。
お、おおん!? 三先、終わったよな!?
「い、委員長……?」
恐る恐るディスプレイの向こう側の委員長を覗き込む。
委員長は画面を真っすぐに見つめたまま、微動だにしない。血色の良い顔に浮かぶ、爛々とした顔つきにたまらず息を飲む。そして途端に理解する。画面越しに、委員長は俺を射抜き続けているんだと。
「……伏見君。まだだよ。まだまだ……対戦しよう!」
アケコンのレバーを握り締めた委員長の声が弾む。
その活き活きとした声色から、委員長が楽しんでいる事がありありと伝わってくる。
俺との対戦を、楽しんでくれている――。
胸の奥がじんと熱くなり、それから俺は大きく頷いて再び席に着いた。
「おう! 飽きるまでやろうぜ!」
「だったら、ずっとだねっ!」
俺達は再び対戦を始める。
飽きる事の無い、本気のぶつかり合いを。
☆ ☆ ☆ ☆
「ちょっとちょっと! 三先終わったのにまた対戦始めちゃったよ、あの二人ィ!」
「そりゃもう、青春ってやつですなー」
扉の窓を覗き込み、部室の中の様子を伺った植田はワッと声を張り上げた。
すっかり二人きりの世界に入り込んでしまった伏見と星ヶ丘の二人に対し、嫉妬の様な、のけものにされた寂しさの様な、そんな感情が湧いていたのだった。
植田の隣で同様に中を覗き込む茶屋ヶ坂は、対戦を続ける伏見と星ヶ丘を見て小さく笑らう。
「まっ、えがったんでないの?」
「何がっスか?」
「ゲームは楽しい。ジャンルを問わず、そうである事が一番じゃからね~」
「なるほど、それはそう。じゃっ、オレも楽しいゲームに混ぜてもらおっと! 俺にもやらせろーいっ!!」
扉を勢い良く開けて、植田が部室に飛び込んでいく。
植田の入室に気が付いて、伏見がゲッと嫌そうな声を上げる。続けざまに星ヶ丘が驚いた声を上げ、それから植田にアドバイスを求めた。
一瞬にして賑やかになった部室を、茶屋ヶ坂は腕組をしていつまでも見つめているのだった。
「彼らはアタイが育てた……。なーんてね!」
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