紅葉の風が吹く頃には
沼モナカ
◯
夏が終わる。
世間では連日の猛暑記録でヘトヘトしているが、それでも、全盛期に比べれば僅かな寂しさを感じる頃になり始めた。
私は寺に向かった。以前、出勤中にたまたま見つけた場所で、最近では度々訪れている。
「あら? 今日も来たのね?」
境内に入ると決まった場所に腰掛けているあの女性が私に声掛けした。
「8月が終わったせいかな? なんだか急に寂しくなってきてね。思わず来てしまったんだ」
「大丈夫? もうすぐ始業でしょ? 遅刻して怒られない?」
「いやいや。俺がやりくり上手なの知ってるでしょ? この前の係長だって何とか逃げ切れたし」
「でも、そんな事ばっかりしちゃ駄目でしょ。いつかは破綻してしまうわ」
「大丈夫。大丈夫」
目の前も女性も困ったものね、と顔を作りながらも、ふと寂しそうに空を見上げた。
どうしたの?っと私は声を掛ける。
「実はね、そろそろ向こうからのお迎えが来るの。ここのお寺の仏様が昨日の夜に私に告げてくれて… それで私も住職さんにも挨拶しなきゃって。それからあなたにも…」
「そうか。そうなんだなあ」
「でも朝一番にあなたに報告出来て良かった。仏様があなたは霊感が強すぎるから縛っちゃいけないって。だから私、あなたに憑かないように気を付けてて…」
「いつまでいられるんだい?」
「街路樹の紅葉が赤く染まる頃にはもう…」
「そうか。でも迎えが来るって事は良いことだよ。お墓に案内してくれない?実は線香が鞄に入っているんだ」
「あはは。用意が良いのね」
こうして私は彼女と墓参りに赴く。
こうしている間にも、この交友関係が終わりに近づく事に寂寥感を抱えずにはいられない。
紅葉の風が吹く頃には、私はまた今までの社会人に戻るだろう。
紅葉の風が吹く頃には 沼モナカ @monacaoh
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