円切神社
五來 小真
円切神社
「でも私はアルコールは頼んでないから、その分安くても……」
「もういい——! いつもいつも、英子はお金に細かすぎ。もう友達やめる」
「でも将来の費用のことを考えたら……」
「将来、将来って、うるさいよ! 結婚すると決まったわけでもないのに、どうつかおうと勝手だろう。―あーあ。俺達、終わりにしよう」
一日に親友と彼氏の2つを失うことになってしまった。
すべては私のお金への執着心が原因だった。
子供の頃家が貧乏だったこともあり、心配になってしまうのだ。
なんでこんなにこだわっちゃったんだろう……。
ボロボロになった私は、半ばやけくそになり更に断罪して欲しくなった。
「お金との縁が切れますように―」
気づくと高名な縁切神社でそんな願い事をしていた。
もしお金との縁が切れたなら、私の執着も行き場を失うはず。
私に一番お似合いの運命だ……。
「え? 契約をやめる? ちょっと待ってください——!」
縁切神社の力は本物だった。
日に日に、目に見えて勤めていた会社の業績が落ちていった。
「会社の業績が思わしくないので、すまないがみんなの給料を1割カットということに……」
業績に応じて、給料も減っていった。
……そうだ、この仕打ちこそ私にふさわしい。
もっと、もっと——!
「もやしも飽きたなぁ……」
「私達、大丈夫かなぁ?!」
お弁当の具材にぼやいてると、同じ会社の女性社員が入ってきた。
給料カットは3割を超え、私も含めた社員は疲弊しきっていた。
「もう、無理だよぉ……」
女性社員の嘆きを見ながら、しみじみと思う。
このまま執着心と共に潰れる、か……。
「明日から、給料はドル払いです」
会社が外資に買われた。
外国への販路が開き、会社の業績はそこから一気に回復した。
それに加えて、円高から円安へ為替は動き、気付くと資産は倍増していた。
縁切神社が切れるのは、円までってことか。
低い給料に合わせた生活に慣れ、むしろ執着心が増えた気すらする。
最近は為替手数料をいかに安くするかで、やきもきしている。
『為替手数料、いい方法見つかった?』
ラインが入る。
いつぞやの弁当仲間だった。
いや、あるいは執着心仲間なのかも知れない。
私は一人、微笑した。
<了>
円切神社 五來 小真 @doug-bobson
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