忘れた声と、思い出せない音。けれど風は、今も吹いている。
- ★★★ Excellent!!!
「音のない風鈴」を通して、過ぎ去った恋を静かに描いた素敵な作品でした。
風鈴を洗う描写から、触れられない過去への距離感や、記憶のざらつきが伝わってきます。風鈴の「音」に重ねられた喪失感は、言葉にならない切なさを感じさせます。
それでも主人公は、過去に区切りをつけ、静かに前へと歩み出そうとします。その姿には、確かな希望ではないけれど、風のように柔らかく差し込む光が感じられました。
物語の終盤、風鈴が偶然鳴った瞬間は、過去と現在が重なり合う美しい場面でした。音にならなかった風鈴が響いたことで、物語に深い余韻を残しています。