第19話

 オリエンテーションなるものがある。

 うちの高校のゴールデンウィークまえの一大行事なんだけどはっきり言って生徒からはかなり不評だったりして……。


 そもそもオリエンテーションってのは新しい環境にスムーズに適応できるようにやるものなので、もう少し軽めのものでいいと思うんだよな。


 なのに。

 やるのは強歩。


 競うほうじゃない強く歩くと書かれるあれだよ。


 驚くなかれ、その距離は30キロだぞ? 学校の近所にある河川の土手を上流に向かってひたすら歩いて行くという悪魔の行事。


 陸上部とか野球部とかは馬鹿(いい意味で!)なのかその距離を走っていくらしい。早いやつだと3時間ちょっとでゴールに着くんだとか。俺はぜったい無理。

 去年は『膝が悪いいんで無理です』とエスケープ決め込もうとしたが「途中棄権でもいいから出なさい」という強権を先生と母親から発せられて結局最後まで歩いたんだよな。翌日膝以外のあちこちが痛くてのたうち回った記憶がある。


「さて、おまえらお待ちかねの強歩大会が来週ある。分かっていると思うが、当日休むことは絶対に許さない! これは委員長命令だ」


 因みにズル休みするとそれ相応のペナルティを教師から課されることになる。ある文化部の少年はグラウンド10周と数学ドリル1冊丸ごとをやらされたという。


 ペナルティは嫌だが今年はクラスのリーダとして旗を振りながらゴールを目指すことをレイコちゃんに厳命されているので休むなどありえない。故にこの苦行から逃げることはできない。ならば死なば諸共と言うじゃないか? クラス全員を道連れにするのは当然だろう。


「栞奈んとこのテニス部も、去年みたいに走っていっちゃうのか?」

「走れって言われているけど、ウチは元々長距離は得意じゃないしこのクラスの副委員長だからみんなと一緒に歩くよ」

「ほら、栞奈もみんなと一緒に歩きたいって言ってくれている。クラスの御旗は栞奈に任せようと思う!」

「誤魔化してもだめだよ。旗はマサシがちゃんと持っていくように」


 くっそ。うまく誤魔化せると思ったのに……。ちくせう。


「お前らのはどうでもいい。早くコースの説明と注意事項やスケジュールを説明しなさい」

「うーす」


 レイコちゃんのツッコミが入ったので以降真面目に強歩大会の説明を行う。隣で栞奈が嬉しそうにニマニマしているのが意味不明過ぎる。強歩大会が楽しみなんだろうか。



 強歩大会のスケジュールは以下の通り。


 いつのより早い朝8時に学校を一斉にスタート。1年生から3年生まで全員が順番にスタートするんだけどかなり混雑が予想される。自動車通勤の方にはホント迷惑だと言われそう。

 県道から国道に入り、最短距離で河川の土手上に出る。土手上は自動車の通行ができないのでここからは暫く安全に歩くことができる。眺めもいいし、まだ早い段階なのでみんな結構余裕がある感じになる。


 10キロを過ぎたあたりで、列はかなり長くなりバラけ始めるがまだ若い体力は尽きていないので軽口をたたきながら歩く姿が散見されるころ。一部飽きた生徒もぼちぼち現れる頃だったりもする。


 12キロ地点にある橋を渡って、本流の河川から支流側の土手へと移動する。途中の河川敷がお昼ごはんポイントとして人気がある。


 ここらへんが全行程の半分くらいになるらしい。普通に歩くと4時間前後といった感じになる。ただし脚の遅いやつはまだたどり着くことさえできない場合もあるという。


 昼食後は同じく支流の土手を歩くわけだが、中途半端に休憩してしまうので歩く気力がだいぶ削がれこのあと1~2時間が非常に辛く感じる。

 なのでクラスの団結力が試されるってワケ。早いやつは放っておいてもガンガン先に進んでいくけど、遅いやつは挫けそうになるんだよな。そこをクラスメイトの友情パワーで奮い立たせるって魂胆。


 最終ゴールは日没の夕方6時までに入れば完歩扱いなのでとにかく頑張ろうと思う。俺自身は膝のことがあるのでやや不安だけど去年はなんとかなったし今年も楽観している。


「高嶋! おやつはいくらまでおっけー?」

「いくらでも持てるだけ持っていけよ。ただしアッシーは300円までな」

「すくなっ! 小学生の遠足かよ」

「バナナはおやつに入りません!」




「雅史は当日のお昼ごはんってどうするの?」

「去年と一緒でコンビニのおにぎりとパンでいいかな。楽だし」


 歩くのが土手沿いなので当然ながら途中にコンビニはないし、食堂的なものもありゃしない。あっても先生方には入っちゃだめだと釘を差されているので余計なことをするつもりもない。


「わたしがお弁当、作ろうか?」

「えっ、いいよ。当日はいつもよりも家を出るのは早いし、弁当を作っていたらもっと早起きになっちまうじゃん?」

「下ごしらえは前の晩に終わらせちゃうし、自分の分も作る予定だから一つ作るも二つ作るも大した手間じゃないんだよ」

「でも大変だろ? 無理しなくていいんだからな」


 歩くだけでも大変なのだから真希には無理はしてほしくないのだが、自分ののついでと言われては断れなくなる。


「じゃ、お願いできるかな」

「うん!」

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2026年1月23日 19:00

義妹と生活すること 403μぐらむ @155

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