俺「ここが異世界か。お出迎えは女神?エルフ?」ミジンコ「ミジンコです」

兎木ハルカ🐰

カクヨム読んでたら突然異世界(?)に放り出されたんだが。

 異世界だ。


 異世界というか、真っ白で地平線も空もクソもない世界なのだが。俺が元いた世界にはそんな場所無かったので多分異世界だろう。


「なんでこんなことに……」


 俺はただ終わってしまった夏休みを憂い、昼休み教室の端でカクヨムを読んでいただけなのに。


「もしかしてあれか? ここは転生途中の待ち合い室的な場所でこれから女神が出てきたりするのか?」

「あのう、すみません」

「やっぱりそうだ。なんだかずいぶん物腰の低い女神だな。声だけで姿も見せないし」

「ミジンコです」


 ミジンコだった。


「見えないんだよな」

「あなたのお手元にあるスマホで足元をズームしてください」

「スマホが顕微鏡の代わりになったら技術の進歩もいよいよだぞ」

「え。でもそれ最近話題の100倍ズームスマホですよね?」

「AIを使ってるからありもしないものが映る」

「それはこまりました」

「俺だって困ってるよ」


 異世界(?)に放り出されて、真っ白な景色の中ミジンコと2人きりだ。これが美少女ならばまだラブコメの線もあっただろうに。


「改めて聞くけど、ここ異世界なんだよな?」

「はい。異世界です。わたしは異世界ミジンコ」

「異世界ミジンコなら超能力とか使えないのか?」

「使えます」

「おお」


 さすが腐っても異世界。ミジンコにすら異能が宿るとは。


「通常の3倍の速さでツノを出すことができます」

「8時間かかるじゃん」

「そう言われましても。むしろあなた、カクヨムユーザーならば異世界での立ち回り方とかわかるんじゃないですか? 『通常の3倍の速さでツノを出せるミジンコと異世界攻略』的な」

「でも俺現代もののGLしか読まないから」

「役に立ちませんね。この百合豚め」

「突然口悪いなぁ」


 険悪な雰囲気になりかけたが、生憎ここには俺とミジンコしかいないのだ。仕方なく俺たちは手を取りあった。慣用句的な意味で。


「ところで異世界ミジンコよ」

「はい」

「ここに俺が呼び出された理由とかわかるか?」

「さあ」


 相変わらず姿は見えないが、ミジンコが肩をすくめているイメージが頭に浮かんだ。ずいぶん人をイラつかせることに長けたミジンコだ。


「むしろ何が原因でこの世界にいらっしゃったんですか?」

「わからん。カクヨムを読んでいただけだ」

「じゃあそれです」

「なんでだよ。カクヨムを読んでる人なんて掃いて捨てるほどいるぞ」

「あなたがカクヨムを読んでいる時に何からの時空震が起こってしまったんです」

「無理矢理がすぎないか」

「でも現状それしか要因がありません。直前まで何を読んでましたか?」

「理科室が舞台の優等生と不良のGLを読んでた。……そういえばミジンコが出てきたような」

「それです」

「だとしたらミジンコじゃなくて優等生と不良のGLが出てくるべきだろ」

「おそらくミジンコが強く意識に残ってしまったのでしょう」


 確かに不自然にミジンコを強く推した話だったけれども。


「百歩譲ってそうだとして、じゃあなんだってこの世界は真っ白なんだ」

「失敬、カクヨムアカウントを見せていただいても?」

「いいけど……」


 俺は足元にスマホの画面を近づけてデタラメにスクロールする。


「やっぱり。あなた読み専ですね」

「まあね」

「わかりました。つまりここはワークスペースにあたるのです」

「というと?」

「何か書いてみてください。風景もしくはキャラクターが産まれるはずです」

「でも恥ずかしいよ。俺今まで小説なんて書いたことないし。今まで黙って読んでた奴が急に書き出したら読んだ人にキモがられないか?」

「大丈夫です。書き手がどれだけの苦労をして『読んだ人』を集めてると思ってるんですか。キモがられるだけ御の字ですよ」

「さてはお前書き手だな」

「それは置いといて何か書いてみてください」


 ミジンコがどうやって執筆しているのかは分からないままだが、何もしないよりはマシだ。俺は『新しい小説を作成』を押してポチポチと書き始めた。


「ああ、オプション項目は設定しないと」

「へぇ。ここでキャッチコピーとか付けてるんだ」

「ちょっと。文頭は一字開けなきゃダメですよ」

「そういやそっか」

「あー、悪くないけど読者を惹き付けるならヒロインをもうちょっと早めに出しておいても」

「うるさいな」


 横からぐちぐちと口出しをしてきたミジンコを途中から無視して、文章を書き始めて6時間。たまに投げ出したりしながらも2000字程度の短編が完成した。


「ついに完成しましたね……初めてにしては出来すぎのストーリーです……ミジンコが編集者なら書籍化の打診をしているところでした」

「よせやい。照れるだろうが」

「はやく投稿してみてください」

「待てよ待てよ……押すぞ」


 俺の指が『今すぐ投稿』のボタンをタップした。



・・・



「もう! 不良のあなたも今日こそは風紀検査を受けてもらいますからね!」

「委員長ってばお堅いなァ。二人きりの時はあんなに可愛いのに」

「それは……っ! 言わない約束で……っ!」


 あれから1年。


 俺はというと、自分で書いた学園の隅でモブとして生きている。

 やはりミジンコの見立ては正しかったようで。俺が小説を投稿した瞬間、真っ白だった世界には突如学園とイチャつく美少女二人が生み出された。


 最初こそはそこかしこに時空の穴が空いていた学園。だが調子に乗って書き進めていった結果、今では大量の部室に立派な体育館に食堂、果てはカラオケルームまで完備された理想の学園が君臨していた。


 女の子たちも初めの頃はカクカクとバグだらけのゲームにも似た言動をしていたが、今ではハイクオリティゲームのごとく滑らかにイチャついている。


 まさに理想の世界。


「異世界に来てよかったー。ナイス時空震。そしてナイスあの時カクヨムを読んでいた俺」


 ミジンコはというと、今は学園の中庭にある池でのんびり暮らしているらしい。

 外敵も多いが、ツノが三倍早く出るおかげでまだ捕食されずに済んでいるのだとか。

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俺「ここが異世界か。お出迎えは女神?エルフ?」ミジンコ「ミジンコです」 兎木ハルカ🐰 @USAGI_7

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