スカウトされて大阪へ連れて行かれパビリオンで案内係をすることになった僕

ムーゴット

僕の話

僕は、夏の間だけの短期アルバイトのつもりだった。


地元のファミレスで、

人手が足りないから、ぜひ手伝ってほしい、と

先輩から請われての事だった。


先輩は、こんなふうに僕を誘った。

お前は俺と同じタイプだから、きっとこの仕事が好きになるよ。


先輩も僕も、ヒトと話をするのが大好きな陽キャだ。

実際、いろいろなキャラクターのお客様と話をするのは楽しい。

ちょっとした会話から、勉強になることも沢山ある。

わんぱく盛りの子供達への対応。

少し強面の男性に対するいなし方。

淑女を気取った女性の扱い方。






ある日、明らかに日本人とは違う風貌、2メートルはありそうな大男、

そんな外国からのお客様があった。

その方は、日本語も英語も少し支障があるようで、

店長も対応に困っているようだ。

僕は語学にも興味があって、独学で様々な国の言葉を勉強していた。

ネット上には、沢山の教材があるのだから。

そのお客様の言葉を聞いて、ひらめいた。

思い切って、学んだばかりの言葉を発します。

お客様の塞いだ顔が、一気に笑顔に変わります。


無事に必要なやり取りを終えると、

お客様は僕の手をとって言った。

うちの仕事を手伝ってほしい!

即戦力として、君を引き抜きたい!と。


彼の後から、仔猫を思わせるキュートな女性が現れたよ。

彼女のアシストをするのだと聞かされて、即決で決まりと決定。

秋のスケジュールは、全てキャンセルしなきゃ。

僕は、彼女のまぁるい瞳に一目惚れしたんだ。

店長も先輩も快く送り出してくれました。






仕事場は、大阪でした。

大男な彼が大使を務める南の国のパビリオン。

来場者の案内係をするのに行くのだ。

大阪までは、高速道路を使って車での移動となった。

ちょっと時間はかかるけど、

彼女と席が隣同士になって、嬉しさしかないよ、ないよ。

ところが彼女は、ツレ無いのです。

寝たフリなのか、本当に眠りの気分モードなのか、

僕は、たくさん話したいことがあるのに。






彼女は、僕を始め大勢のスタッフのまとめ役でした。

スタッフは、寄せ集めのようで、

古いタイプがいれば、青二才もいて、

彼女に苦労は絶えません。

サブリーダーとして僕には何ができるのだろう。

経験者の意見をたくさん学んで、生かそうとするが、

現場でそのまま通用するとは限らない。

時に間違った対応をすると、彼女がフォローしてくれた。

次は彼女を助けたい。

でも生まれが違うから、彼女を超えることはできないのかな。







うちのパビリオンには、国の風土や産業をPRする目的のゲームがある。

壁に様々なアイコンが映し出され、

それに手を添えると移動させることができる。

それらを適切に組み合わせるとパズルが完成する。

体全体を使って、歩き回りながらパズルをするのだ。


これは子供達に人気の出し物で、常に順番待ちの列ができる。

そこを担当する案内係が今日の僕の仕事だ。

時に順番待ちでトラブルが起こることがあるとも聞いていた。


案の定。


今、ゲームに取り組んでいるのは、車椅子の少年。

介助の人は近くにいないようで、ひとりで夢中になっている。

ただ、やはりハンディがあるからか、少し手間取っているようだ。

僕は複数の業務をこなしていた。

次の順番のヒトにやり方を説明したり、

終了したヒトに記念品を渡して、アンケートをお願いしたり。

だから、車椅子の少年に付きっきりとはいかなかった。


「いつまで待たせるんだよ、まったく。」


「時間だから交代してもらいたいよ。」


壁に掲げた案内には、『所要時間目安:5分』とあるので、

10分以上かかって、未だ完成しない彼には、

無言の圧力とは違う、実際の圧力が向けられた。

焦る彼は、なおさら上手にできなくなっていた。


「下手くそ、早く代われ。」


僕はネクストプレイヤーと車椅子の少年の間に入って、

彼を守りたかった。

彼は不自由な体で、一生懸命動いているが、

目には涙を浮かべていた。


「もう少々お待ちください。順番にご案内いたします。」


「ノロマな奴め。泣いたってダメだよ。

こんな目に遭うんだったら、他の列に並ぶんだった。」


「申し訳ありません。もうしばらくお待ちください。」


「随分と待たされましたわ。

うちの子の気持ちはどうなるの、これを楽しみに来たのに。

途中で一旦代わっていただけませんこと?

帰りの新幹線に間に合わなかったら、どうしてくれるの?」


僕はカスハラと判断したが、無線で雇い主に問いかける。

雇い主は、日本人以上に事を荒立てたくない考えのヒトであった。

僕はキッパリ突っぱねるところだったが、指示は違った。

僕は、手持ちのモニターを示し、別のゲームを子供モンスターに勧める。


「この新しいゲームを試してみませんか。

クリアすると賞品もありますよ。」


「俺はあれがしたいんだよ。」

指を刺した先は、車椅子の少年。


「早くしろよ、ガキは早く帰れ!」


そこへ仔猫系の彼女がやってきて、子供モンスターを肩に乗せた。

彼女は見た目に似合わずパワーがある。

そのまま、周囲を走り始めた。

音楽に合わせてリズムを鳴らしながら。


「すごい!すごい!ヤッホーーー!」


子供モンスターは待たされていた事も忘れて、歓声を上げる。

車椅子の少年も、落ち着いて、集中して、パズルを完成させた。






やはり、彼女はすごい。

尊敬できる。

そういえば、前職は高輪ゲートウェイで活躍していたと聞いた。

僕とは生まれが違うんだ。


何せ、彼女の製造番号の頭には、「AA」がついている。

特別モデルなんだ。


でも、いつか僕もみんなに認められたい。







万博会場の一幕かも。

ちょっと行って、確かめてみませんか。

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スカウトされて大阪へ連れて行かれパビリオンで案内係をすることになった僕 ムーゴット @moogot

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