届いたかな

Iloha

第1話

 幸せながらも絶賛困り中だ。

木から枠を取ってくんないか、そう思う毎日だ。

療養中でもある。


 しかしながら私はある人に 

伝えたいことがあったので、出掛けたのだ。


 25年前に大学でさる小説家の講演会に

私はいた。

私は本を読むのが、好きだった。

だけど、自分が書くとなるとね、

一生観客でいたらいいんじゃない。

そう諦観していた。


 小説家は最後にこう言った。

「君たちも書いてみたら」


 忘れられない言葉だった。


 ある日、やっぱり私は困ったことがあって

やむなく「なにか」を書いてみた。

ちょっとした勧めやきっかけで 

それは形になった。


 25年越しにあなたの言葉が私に届きました。

そう伝えるために、私はまたその小説家の

講演会に出掛けた。


 なんとか伝えてみた。

驚いた顔をされて、

「で、どう? 」

そう尋ねられた後に正直に

「びっくりするほど売れません」

と答えた。

「まあ、そうだよね」

はい、そうなんです。会場にいる私は半ば

テロルを起こした気分だ。

もう書店の人やお坊さんも心配していた。


「書いて! 」

笑顔で高橋源一郎さんは握手をしてくれた。

「はい」

そう答えて、汗をかきながら駐車場へ行った。


「親鸞がいま生きていたらどんなことを

考えただろう」


そういう講演会だった。


「ほんとうのさひわひとはなんだろう」

ぼくらのアトムは行ってしまった。

「ぼくらどこまでも行こうねえ」


私はそんな風に考えて、夜になって泣いた。

「ありがとうございました」 

それでは足りないこともあるんだな、

だから…だから…


 言葉にならないなんて言っては名折れだ。

なんて書いたらいいだろう、 

そう思って二日ばかり過ごしている。


 そんな風に言葉は育つ。

「どこまでも行こうねえ」

うん、どこまでも行こうねえ。





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