隣の芝生は青く見える

@ongr_0521

隣の芝生は青く見える


僕は小学校の時からいじめられている。理由はわかる。僕は顔が良い方ではないし、身長も低いし、太っているし、貧乏だからだ。

「おい。デブタ。」

「ぶひー」

「笑笑笑笑笑」

まただ。デブタと呼ばれたらブタの真似をしながら、呼ばれた人のもとに行かないといけない。だいたい、理由もないのに呼ばれるか、殴られるかだ。学校に行けばいわゆる陽キャとよばれるやつらの奴隷になっている。だから家では母親に強く当たってしまう。母親しかいなかったのに。僕のために一人で夜遅くまで働いてくれて、僕のただ一人の味方だったのに。ただ、僕は弱いから母親にしか強く言えない。中学に上がるタイミングで僕は環境を変えるために、引っ越したいと思った。でも、家にはそこまでのお金はない。無理を言って母親に伝えてみた。いじめられていることと、引っ越したいということ。

「いいよ。」

予想できた。僕は本当に弱い人間だ。母は確実に無理をしている。そんなことを知りながら、逃げるために、変われるかもという希望のために、お願いをした。今の仕事から変えられないらしく、一人暮らしのボロアパートだが、一人には慣れているし、ごはんもたまに自分で作っていたので、別に何とも思わなかった。いじめてきていたやつもいないし、いじめられていた過去を知っている人もいない。久しぶりにわくわくした。中学校入学式の日、母親に渡された鈴が入ったお守りをポケットに入れて学校にむかった。学校に着いて、何も特別なことは起きず、普通に家に帰った。何もなかったけど、それがうれしかった。一か月経った頃、僕と同じような二人と友達になった。顔は良くないし、身長も低い。並んで歩いていると兄弟みたいだ。すごく楽しかった。毎日このままでいたい。

「おい。デブ三兄弟。」

「ぶひー」

「ぶひー」

「ぶひー」

「笑笑笑笑笑」

やっぱりこうなった。この顔を恨んだし、親を恨んだ。イケメンだったらな。いつもそう思っていた。でも三人だから耐えられた。いじめられているけれど、三人だけの時は好きなアニメの話や好きなアイドルの話をしてすごく盛り上がった。

「俺はやっぱり一期が好きだな。」

「いや絶対三期だな」

「いやいや。そこは王道の二期でしょ。」

「じゃあ、全部見よっか。」

「だね。」

そんなことを話しながら毎日一緒に帰っていた。でもどこか陽キャの人たちが羨ましかった。そしてその日も一緒に帰った。

「新曲きいた?やっぱりセンターはかわいいね。」

「もちろん聞いたよ。お前は本当にセンターの子がすきだな。」

「本当にね笑」

たわいもない話をしながら家の近くの川を眺めていた。

「あれ笑」

「あ。ブタじゃん」

最悪だ。中学のいじめっ子たちだ。なんでこんなところで出会うのか。

「え、ほんとキモイ。」

「それな。」

「お前さ、そこの川に入って体洗えよ。まだその川の方がきれいなんじゃない笑」

僕?ほんとに最悪だ。

「いいからはいれって。」

「早く」

どうせ入ることになるんだから、どうせならイケメンに生まれ変わりたい。そう思った。

「早く」

二人は何も言えずに見ているだけしかできていなかった。友達なら少しは止めてほしかった。母からもらった鈴の入ったお守りを握りしめて川に飛び込んだ。

 チリン。

目が覚めると体が軽いし、見える世界がいつもより高い。何がどうなっているかわからないがとにかく学校に向かった。なぜか制服のズボンとシャツの長さが足りなく、少し不格好だったが、時間がないので急いだ。体が軽くいつもより早く走れた。街中ではすごいじろじろ見られたが、いつものことなので気にならなかった。学校について自分の席に座ったが、なぜかブタと呼ばれない。そしてまたいつものようにひそひそ何か言われ、すごくみられる。

「お前、誰?」

え?初めて普通に陽キャに話しかけられた。そのことがうれしすぎて一瞬頭が真っ白になった。

「だから、お前誰なの?」

「僕だよ。」

「どういう冗談笑」

「お前、面白いね。」

すごくうれしかった。

「僕、トイレ行ってくるね。」

「おう。」

トイレに行ってはじめ気が付いた。誰?今までの僕とは正反対のようなイケメン高身長が鏡に映っていた。すごく焦った。僕はどこに行ってしまったのか。これは誰なのか。でもみんなと普通に話せたことがうれしくてとりあえずはそんなことどうでも良かった。

「お前、ほんとかっこいいな。」

「どこからきたの?」

「スポーツとかやってるの?」

しばらくはみんなと話していた。この時間がすごく楽しかった。

「おい。ブタ」

一瞬体がびくっとした。

「ぶひー」

「ぶひー」

あの二人だ。周りから見るとこんな感じだったのか。先生が来て、少し大事になったが何もわからないの一点張りで助けを求めたら、この学校に入れることになった。それもこの顔のおかげなのか。

「一緒に帰ろ。」

「色々聞かせてよ。」

憧れの陽キャだ。すごく楽しかった。毎日が楽しくて本当に人生が変わった。

「今度カラオケいこ。」

「いいね。」

「映画も行こうぜ。」

「最高。」

「お前も行くでしょ?」

こんな感じなんだ。初めてのことだったのですごいうれしくて最初のうちはなんでも付き合った。でも、僕はお金が全然ない。だから遊びに全然参加できなくなってしまった。すごく悔しかった。話もみんなに合わせることで精一杯でアニメやアイドルの話をすることはできなかった。そんな時、あの二人を見つけた。

「今日のアニメ見た?」

「もちろん。やっぱり作画がいいね。」

「本当に。すべてが完璧。」

楽しそうだった。僕もあそこにいたのか。

「今日はさ、僕ちんが奢るから一緒に来てよ。」

こいつは金を持っているからいつも陽キャと一緒にいるやつだ。なんでもできてすごい楽しそう。悩みとかなさそうだ。こいつの話はみんな聞くし、おごってもらいたいからみんなはいつもこいつの近くにいる。羨ましい。

「いいよ。一緒に行く。」

結局、男女でカラオケに行った。どうやら遊びには毎回こいつがいるらしく、いろいろなところに行っているらしい。本当に羨ましい。

「今日は楽しかったよ。ありがとう。」

「全然いいよ。僕ちんにとってこれくらいなんともないよ。またこいよ。」

またはないかもしれない。お金がないから。結局中学卒業まで、遊びにはあまりいけなかった。しかも、陽キャの人たちとの会話はあまり楽しくなかった。でもここで一つ思い出した。またあの川に行けば、変われるのではないか。早速川に向かった。高校入学のときに違う自分になれるように。

「お金持ちになりたい。」

チリン。

やっぱりだ。すごい。目が覚めた時には、大量の一万円札の中にいた。高校からは毎日遊べるし、みんなといれる。そんな風に思っていた。高校に入学して早速友達といっぱい遊んだ。遊べないときには奢ると言って、なんとかひきとめた。みんなついてきてくれる。

「ぶたー。」

え?

「ぶひー。」

「ぶひー。」

良かった。違った。でもあの二人だ。またやられてる。ずっとだ。気になってしまってしばらく見ていた。見ているだけだ。あの二人は相変わらず二人の時はすごく楽しそうだった。ありのままの自分でいる。お金を持っているわけではなく、顔がいいわけでもない。しかし、ほんとに楽しそうだ。そういえば、しばらく母親とも会えていない。今、何をしているんだろうか、今の自分なら優しくできるだろうか。そういえば、あの二人がいじめられている時、自分は体が変わっているのに見ることしかできなかった。自分は助けてほしいとか思っていたのに。あの頃に戻りたい。また三人で話したい。

 チリン。



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