勇者さま魔族娼婦と婚約ですか?

あじぽんぽん

勇者さま魔族娼婦と婚約ですか?

 私は転生者である。

 前世はぴちぴちの女子高生であった。


 恋多き乙女で、高校時代は彼氏の経験人数が30人は超えていたけど決して淫乱ビッチではない。

 二股や複数同時恋愛なんてふざけんなで、恋愛するときは常に一対一、もちろんパパ活とかお金をもらっての男女付き合いなんてのはしたことがない。

 乙女の恋はいつでも本気である。

 まあ、付き合ったその日にチョメチョメして別れたこともあるけど、私は決して淫乱ビッチではないのだ。

 ただ、そんなことが結構よくあったわけで……うん、ごめん、やっぱりよくよく考えたら淫乱ビッチだったわ……ビチビチの女子高生性活をしていたわ。


 さてそんな私、この剣と魔法の世界とやらで、魔族と呼ばれる種族に転生してから50年以上の時を過ごしている。

 と言ってもその大半を王都という狭い区域で生活していた。

 そのため世間知らずの自覚はあり、長命種である魔族ということも相まって、人の初老と呼ばれる者ほどの知識の蓄積があるかというと怪しいところであった。

 私がどうやって生きていたかというと……


 娼婦である。


 タナカ王国の王都の高級娼館で娼婦として過ごしてきた。

 まあ、色々あった。

 竜帝国の絶倫竜騎士とのガチンコベッドバトル十二本勝負。

 騎士国の女王騎士……当時は王女だった百合姫騎士との貝合わせ潮吹き大会。

 聖王国の聖王子の筆おろし&赤ちゃんプレイをしてあげたこともあった……普段溜めているものがよほどだったのか三日三晩ママ、ママと甘えられるとは思わなかった。

 どれもこれも全勝してますけどね!

 うん、自分で語っててなんだけど、周りの知人に色物娼婦って言われるだけのことあるわ。

 それもこれも自分の身柄を買い戻すためである。

 なにしろ私、物心というか前世の記憶を取り戻すまえから娼婦見習いしてて、親に売られたのか、それとも攫われてきたのか定かではないのだ。

 前世の記憶を取り戻したときはビッチはビッチなりに現状に対してギャン泣きしたけど、生きるための仕事として割り切ったら諦めがついたというか、これはこれで色々と楽しみを見出したというか……自身の元々の性格、そして老いの見えない魔族の体と魔法で性病はすべてキャンセルできたってのが大きかったかも。


 そんなこんなで40歳も過ぎるころには自分を買い戻すことができて、今は自由気ままな娼婦生活である。

 魔族としての特性か50歳は超えているはずだけど、見た目は20歳くらい。

 容姿はといいますと魔族らしい非常に整った顔(妖艶とか蠱惑的とかいうのか、我ながらなんか悪だくみしてそうなツラである)

 頭に羊のような巻き角とくせっ毛ぎみの長い白髪で水をはじく白肌に、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでる身長170センチのドスケベボディだ。

 最低限のケアこそしているが、それだけでこれほどの美貌を維持できるのだから魔族の体とは恐ろしいものである。

 普段、娼婦としての仕事はやってないんだけど(今までの稼ぎで十分生活できるし)たま~に店主であるマダムから頼まれ国のお偉いさんの子息たちの筆おろしをしているのだ。

 なんだか、私のような絶世の美女(自画自賛ではありません事実です)が初めての相手ならハニートラップ対策として効果が高いそうだ……それ逆を言えば、私が望めば致した子たちの何人かをたらしこんで、国を裏から操って自由にすることができるのでは?

 まあ、そんな面倒なことしたいと思わないし出来るだけのオツムもないけどさ。

 多分三桁近い人数に対して「私が彼の初めての女よ」とか「私で童貞捨てたくせに!」などのセリフが使えそうである。

 それなんて、地獄かな?

 あと、うそかまことか私とヤルと運気が上がるらしい。

 私はパッカと開く観音様かしら?(親父ギャグ)


 そ~んな感じで、日々緩くやらせてもらってます。



 今日も私は朝早くに起きて、王都の市場をぶらぶら歩いていた。

 魔族の特徴として日光には弱いのだが、この体は何故か人間より多少弱いくらいで済んでいる。

 おかげで昼間でもこうして外出できるのだ。


「あら?」


 ふと目を引いたのは、露店を眺める若い女性……いや、少女か。

 長い黒髪が風になびき、切れ長の瞳が品定めするように果実などを見つめている。

 どこか懐かしい雰囲気。


「あれは……」


 彼女は私が前世で通っていた高校の有名人だ。

 名前は……高峰澪(たかみね・みお)

 学校でも一際目立つ存在で、クールな美貌と抜群の成績で多くの男子生徒たちの憧れの的だった。

 同じクラスメイトで、その冷たそうな容姿とは裏腹に、女子から敬遠されていた私にも声をかけてくれるとても優しい子である。


「まさかこっちの世界に転移していたとはねぇ」


 驚きと同時に不思議な気持ちになる。

 私の方は完全に魔族の女になってしまったが、彼女の見た目の変化などはない。

 ということは最近転移してきたのかしら。

 実は転移してきたクラスメイトを見かけたのはこれが初めてではないのだ。

 この国も、百年ほど昔に転移してきたクラスメイトが建国に関与していたらしいからね。


「おっと、そろそろ戻らないと」


 店への帰り道、私は考えた。

 もし高峰さんと私が顔を合わせたとしても、あの恋多き乙女ビッチだとは気がつかないだろう。

 私が自ら話さない限りは……

 今まで会った同郷の者たちも全てそうだったから。

 私はもう、外見も中身も完全に別人。

 人だった時のあの若い情熱が愚かであったと思うと同時に、冷めきった今の私には羨ましく感じることがある……

 店に戻ると、娼婦見習い時代からの親友、マダムが興奮した様子で私を呼び止めた。


「メリザンド! あなたに特別なお客様よ!」


「ん……今日は特に指名なんて入ってなかったと思うけど」


「それがね、最近王都で噂の勇者様から直々のご指名なの! 屋敷まで来てほしいんですって!」


「勇者様……?」


 最近の噂話を思い出した。

 そうだ、黒髪の若い少女が半年前ほどに前線に現れ、魔王軍の進攻を食い止めて英雄になったという。

 そして彼女は勇者の称号と、王都の屋敷を褒美として与えられたとか……


「ああ、さっき見た高峰さんかな?」


「たかみ……?メリザンドなんのこと?」


「何でもないわ。それで報酬は?」


「いつもの五倍よ! さすが勇者様ね!」


 金額を聞いて目を見開いた。

 高峰さん、学校一の有名人は太っ腹である。



 ***



「初めまして、メリザンドと申します」


 応接室で、私は丁寧にお辞儀をした。

 目の前には凛とした姿勢で座る高峰澪さんがいた。


「来てくれてありがとう」


 彼女の声は落ち着いていて、前世と変わらない響きがあった。 

 しかしなぜ娼婦を呼んだのだろう?


「あなたの評判は聞いているわ。王都一の美女で、しかも腕利きの……そういう技術があると」


 と、頬を染める高峰さん

 なるほど。

 おそらく男性陣を相手にする際のマナーなどの教育係として呼ばれたのかもしれない。

 勇者という立場上、貴族との交流もあるだろうし。


「それで、本日はどのようなご要望でしょうか?」


 高峰さんは少し口ごもって言った。


「実は……私の秘密を共有してほしいの」


「秘密……ですか?」


 高峰さんは立ち上がり、衣装の裾を持ち上げた。

 そこには確かに女性の下着がある……が、何か妙な膨らみが。


「サキュバスの呪い」


「……はい?」


「呪いを受けて……その……女性器の他に男性器が生えてしまって」


 ああ、そういうことか。

 サキュバスと戦うと高い確率で淫魔ビームを放ってくるのだが、直撃を受けて抵抗に失敗した場合、男はその場で射精、女はにょきっと生えてくるらしい。

 まあ、その手のものは、教会で解除可能だけど。

 ただ消すまえに男としての経験もしてみたい……という淑女も珍しくないのだ。

 私もそういう相手と何度か致したことがある。

 たとえば、わざわざ生やす魔法をおぼえて私を自分だけの牝(?)にするとかいって搾り取られにくる変態女王騎士とか……

 いや思い出すのはやめよう。


「なるほど……お察しします」


「だから……」


 彼女は真剣な表情で私を見つめた。


「あなたとなら試せると思ったの」


「……どうして私を?」


「街であなたを見かけた時から……その、気になってて」


 あら、まあ……

 前世の同級生に、しかも同性に、今の私が好意を持たれるとは複雑な心境だ。

 女子高生時代、女同士の恋愛もしたことがあるが……まさか高峰さんと致すことになるとはね。


「わかりました。勇者様のお役に立てるのであれば」


「……嬉しい」


 そう言って微笑み緩む高峰さんの表情は、前世では見たことのない柔らかさであった。

 私は彼女の手を取り「では準備をしましょうか」と言った。

 前世ではただのクラスメイトだった彼女が、今では勇者様となり、そして私と……

 人生とは本当にわからないものだ。

 これから始まる「初体験」の相手となるとは想像もしていなかった。

 単なる仕事と割り切るべきか、それとも前世の縁を感じるべきなのか……そんなことを考えながら、高峰さんの寝室へと足を踏み入れた。




 翌朝、私はまだ夜も明けぬうちに屋敷を逃げるように飛び出した。



 ちょっと冷たい感じのするメイドさんからの「おはようございますメリザンドさま、朝食はいかがですか?」というお誘いを断ると彼女はなぜか残念そうな顔をみせた。

 申し訳なく思うも「勇者さまはお疲れのようなので私はこれにて失礼しますね」とだけ言い残して立ち去った。


「まったく……」


 小走りで娼館に戻る道すがら、昨夜のことを思い返す。


 恥じらいながらも勇敢に挑んできた高峰さん……彼女の最初の一突きは初々しく可愛らしかった。


「こ……こうかしら?」


 と、小首を傾げる姿に思わず萌えた。

 続けて、ぺちんぺちんと情けない音が響いて、数えて二十秒ほどで……


「あうっ……!」



 そんな感じで、高峰さんは無事にことをすました。

 そして満面の笑みを浮かべて……


「なんだか、思ってたよりたいしたことなかったわ」


 その得意げな表情は女を知ったばかりのイキった少年のものだった。

 ここで私のスイッチが入ってしまった。

 これが貴族の子息だったら「ええ、雄々しかったですよ」「ふふ、とても素敵でしたわ」とかおだてまくって二回戦に突入して、今後のために少しだけ分からせるのだけど、相手はあの高峰さんである。

 そう、学校中の男子が惚れた高嶺の華の高峰澪がクソガキのような脱童貞イキリムーブをかましてきたのだ。


 その愛らしいギャップに、私の理性のタガが完全に外されてしまった。


「あらあら本当ですか?ふふ、流石は勇者さま、じゃあもう少し激しくても大丈夫ですね」


 私は仰向けになり、両脚を広げ誘惑のポーズをとる。

 ごくりと喉を鳴らした彼女が恐る恐る腰をおとしてきた瞬間—


 秘技――重爆撃デカ尻プレス!(命名:竜帝国の絶倫竜騎士)


 上下をひっくりかえして、またがり状態に。

 そして50年間鍛え上げた腰使いで彼女を散々翻弄した結果、ついにはあの凛とした高峰澪が涎を垂らして「ひいいいん」と鳴いた。

 クールビューティーの崩壊具合が実に素晴らしかった。

 そのお上品なお顔をアヘ顔ダブルピースにしてやったぜ!

 興がのって朝まで休みなく腰振っていたら、高峰さんは失神してしまった。

 うん、明らかにやりすぎた!

 反省してないけど後悔はしている……!



「どうしよう……絶対怒らせたよね……勇者様を怒らせちゃったら国ごと滅ぼされないかしら」


 まあ、高峰さんの優しい性格的にそれはないかもだけど……私は下手したら牢屋行きかな……

 娼館の自分の部屋に滑り込むと、三日ほどベッドで毛布をかぶって過ごした。

 そこにマダムが慌てた感じでやってきた。


「メリザンド!あなたに手紙よ!」


「誰からよ?」


「勇者様から!指輪と一緒に届いたわ!」


 震える手で封を切る。


『親愛なるメリザンド様

 先日は本当に素晴らしい時間をありがとうございました。

 私はこれまで多くの危機を乗り越えてきましたが、昨夜ほど刺激的で充実した夜はありませんでした。

 正式に申し上げます。

 私と婚約していただけませんか?

 お試しというわけではありませんが、私がどのような人間か理解してもらうために屋敷で共に暮らしていただきたいのです。

 そして願わくば、将来的には私と結婚してもらいたい。

 ご返事をお待ちしております。

 高峰澪より』


「……は?」


 呆然とする私にマダムが指輪を差し出す。

 不思議な色合いで輝く宝石がはまったその指輪は……古代文明産の明らかに超高級品だ。


「あの……どういうこと?」


「詳しくは知らないけど、勇者様があなたに求婚するって噂はもう王都中に広まってるわよ!」


「ええっ!?」


 どうやらあの行為は彼女の心を完全に掴んでしまったようだ。

 しかも既に噂になっているとは……

 この数日で高峰さん自身が広めた……て、こと?


「で、どうするの?」


「……受けるわ」


 考えてみれば悪くない。

 最近は娼婦としての仕事も1年で数回程度で暇だし、勇者様の屋敷で悠々自適な暮らしができるなら願ったり叶ったりだ。



 ***



 翌日から私の周りは騒がしくなった。


「メリザンド!あの勇者と婚約したというのは本当か!?」


「僕の方が先に婚約を申し込むつもりだったのに!」


「なぜ勇者なんだ!この国でもっとも強いのは俺だぞ!」


 次々と貴族や高官や武官たちが押し寄せてきた。

 だいたい筆おろしの相手をした子たちだ。

 私は、私の知らぬ間に国中の有力者に狙われていたらしい。

 我ただの淫乱ビッチぞ……私ってそんなに価値のある女だったのかしら?


 さらに国外からも使者が続々と。


「サウリア帝国皇帝よりメリザンド殿へ……」


「リアラ騎士王国の女王騎士より……」


「竜帝国ドラグニアより竜帝の名代が……」


「カマル聖王国の教皇の代理人が……」


 どうやら「たった一晩で絶倫竜騎士を干からびさせた」「女王騎士を潮吹き地獄に叩き堕とした」「聖王子を3日3晩赤ちゃん扱いした」などの様々な伝説(それを伝説といっていいのかしら?)を吟遊詩人に歌われる(まじかよ!)私は各国で「幸運を呼ぶ聖娼婦」として有名になっていたらしい。

 いや、幸運を呼ぶ聖娼婦とかなんですかそれは……?

 で、幸運値(?)の高い私を巡って、国ごとのバランスを崩さないために互いに睨み合い、誰も手を出せない状態のところを勇者様が単身で殴り込みをかけ搔っ攫っていった形だそうな。

 私は不発弾かなにかなのかしらね?

 まあ、なんにしろ、流石勇者ね!(笑えない)


「これじゃあもうしても娼婦はできそうにないわね……」


 マダムは苦笑いしながら言う。


「ある意味戦友だったあなたがここを去るのも寂しいけど……勇者様と婚約したなら当然ね」


「ええ……でも、遊びにならいつでもこれるわよ」


「ふふ、そうだね」


 それから私は少し考え込んだ。

 この展開は予想外だったけれど、勇者さま……いや高峰さんとの生活はどうなるのだろう。

 あの凛とした彼女の意外な一面を知っているのは今のところ私だけ。


「まあいいか。新しい生活を楽しみましょう!」



 こうして私は高峰澪の婚約者……いや、もう事実嫁としての生活をスタートさせるのだった。

 ちなみに後日談として。


「メリザンド!もう一度!今度こそメリザンドのこと喜ばせるから!もう一度だけお願いします!」


 高峰さんがベッドの上で、情けない全裸土下座する姿が日常となったのだけは、さすがに誰にも言えない秘密である。

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