第15話 確かにあるもの
入ってきた須田はベッド横の椅子に座り、にやにやと笑みを浮かべる。
アリスは来客には興味を示さず、宙に浮き体を丸め眠り始めた。
「しっかし、へえ……ここはお前にお似合いの小汚い病室って感じだな、はは。この俺がもっといいとこ用意してやろうか?」
……?
「いや、大丈夫。もう少しで退院だし」
「おお、そうか。そりゃあ良かったな。早く退院しねえと借金がかさんじまうしな?」
家の事情を知ってる……なんで?
「はは、不思議そうな顔だな。アフーニュースとかワイドショーとかで言われてたが、ほんとらしいな。くく」
「……まあ、ね」
会社の同僚か、友人か。母に関係している誰かから漏れたんだろうな。記者が嗅ぎまわってるって話だし。
しかし、なんなんだ?須田のやつ前にも増して攻撃性が増しているような。
……だが、なぜだろう。前のような感情は湧かない。悔しさも、惨めさも、辛い気持ちにはならない。
(……須田、隙だらけだな)
三秒……いや、一秒かな。今、この距離なら手を伸ばせば片手で狩れる。
俺があの世界で成長し強くなったからなのか、それとも距離を置くことで彼の事を正確にみられるようになったからか。
これだけ煽られていても、不思議と気持ちに余裕があるのを感じる。
今日まででこちらの世界では一か月ちょっと。それなりに時間はあったわけだが……須田から感じる魔力は緩く雑味が多い。俺が中層へ転移される前にみた時の彼とそれほど大差ない。
「……はあ、佐藤。お前、なんかつまんねえな。なにか面白い話しろよ。お前、ダンジョンの中層にいってたんだろ?話せよ」
「ごめん、あんまり覚えてなくて。あっちにいた時の記憶、殆どないんだ」
「いやいや、まじつまんねえ。ったく、仕方ねえな……じゃあ俺様の話でもしてやるか」
おいおいおい、いいよ別に。興味ないよ。っていうか、一人称俺様になってるんだが、どうした。
嫌がる俺の心情に気が付く事もなく、須田は話し始めてしまう。
「お前が遊んでる間俺は色々なダンジョンに行ってたんだぜ?お前みてえなFランクじゃねえ、格上のEだ!そんなかのEランクダンジョン『牙の檻』じゃ俺はついにあの黒緑竜を倒したんだぜ!!すっげえだろ!?」
「……?」
俺は眉をひそめた。何を言っているんだ、こいつ。頭上に「?」が浮かぶ。
「ひゃはっ、理解できねえって顔だな!?」
うん。だって黒緑竜だろ?それを倒したからって、どうしたと言うんだ……?
「まあ、驚くのも無理はねえ!中級シーカーですら苦戦するあの強敵をこの俺様が倒したってんだからな!!はははは!!」
そこで俺は彼の言いたい事に気が付いた。そうか、確かに黒緑竜はCレートクラス。かなりの強敵だ……俺は向こうでかなりの数を狩っていたから感覚が麻痺していたが、普通はC級シーカーですら一人では戦う事が出来ない程の魔物。
そして、須田が言いたいのは、それを倒してしまった俺つえー!ってことか。要するに俺は今自慢的をされてるってわけね。
しかし、だったら新たな疑問が生まれるな。こいつのこの感じで本当に黒緑竜を倒せたのか?という疑問が。
須田の纏う魔力の質を見る限り、黒緑竜とやりあえるようには見えない。強いシーカーは魔力を磨き、流れが美しく力強い。……須田の魔力はなんていうか、酷い。なんなら、前にみた時より雑になってる。努力を怠っている証拠だ。
「はは、どーした?なにいつまでも驚いてんだよ。まあ、そんなわけだから俺は今時の人ってわけだ。まだシーカー候補生、シーカーランクもない無称のシーカーが黒緑竜を倒したんだからな。聞きたい事あんなら特別に答えてやるぜ?記者共には事前のアポがねえ限り拒否るがな」
そうか成る程。だからこいつこんなに気が大きくなっていたのか。腑に落ちた。
質問……それじゃあお言葉に甘えて。
「須田……くんは、その黒緑竜を何人で倒したの?」
「あ?お前さぁ、そんなことどうでもいいだろが。もっと他に聞くことあんだろ、普通に。トドメはどう刺したのか、とか。……ま、いいや。あんま覚えてねえが、たしか七人くらいだったかな?まあ、そこまでランク高くないやつらだったし、黒緑竜と戦ってる時には皆すぐにやられちまって、ほぼ俺一人で倒したような感じだ。つまり実質俺のソロみたいなもんだぜ」
そんなわけないだろう、と俺は心の中で思う。須田がもし一人でCレート魔物を相手にすれば五体満足でここにはいない。周りのシーカーが相当頑張ったんだな。まあ、それ以前にこいつが黒緑竜と戦ったっていうのが事実ならの話だけど。
「んなもんだから、俺はインフルエンサーで人気がうなぎのぼり!動画配信者から引っ張りだこ!すげえだろ!?」
「ああ、うん」
「はあ?なんだその反応?ったくこれだから負け犬根性染み付いてる奴はよ」
すごいな。調子に乗りすぎてて見ていて逆にちょっと面白い。
って、流石に性格悪いか、それを楽しむなんて。
……ちょっと忠告だけしておいてやるか。
「でも、須田、くん。気を付けてね。ダンジョンでは何が起こるかわからないし、油断が最大の敵だって先生も言ってたでしょ」
「……は?馬鹿か、お前。俺はお前みたいな油断はしねえ。一緒の間抜けにすんじゃねえよ」
俺みたいな油断……ああ、あのことか。確かにあの時の俺は間抜けと言われても仕方が無かったな。
怒りの色を濃くしたその須田の表情に、気分を損ねてしまったかと思ったが、彼は直ぐに機嫌をなおし笑顔でこういった。
「ま、んなことはどうでもいいや。今日はお前に話があってきたんだよ」
「話?」
「そう、借金塗れのお前に超ビッグでラッキーな話だ!」
もったいぶるようににやにやと笑う須田。いや早く話せよ、面倒だなもう。
「……それって?」
「なんだと思う?」
あぶねー、今手が出そうになったわ。ガチで殺すとこだった。あぶねえ。
「まあ、勘が悪いお前じゃわかんねえか。いいぜ、教えてやる」
「……ああ。頼むよ」
「今度、俺はまたダンジョンへ行く。Eランクダンジョン『暗冥の泉』にな」
「『暗冥の泉』って、確かまだ発見されて新しいダンジョンで調査中の」
「そうだ。そこの調査隊をしているのが家のギルドでな。俺様はその調査隊に参加すことになったんだよ」
「なるほど」
「で、お前も連れてってやろうかなって思ったわけだ」
「俺を?なぜ?」
「調査中のダンジョンってのはまだ手付かずの資源が多いからな。発見すれば一攫千金だぜ?そうなりゃ、お前の家の借金も減るかもしんねえぞ?」
「……うーん」
「なんだよお前、反応微妙だな。金欲しいんだろうが?」
そりゃ金は欲しいけど。ストレージ内の物も換金先が無い以上金にはならないし、その当てもないし。
けど、普通に考えて調査隊が俺たちのような候補生をまだ資源の残る未開発階層にまで行かせてくれるはずもない。安全性も考慮されるだろうし、しっかり調べのついている一層~五層付近までだろう。
まあ、要するに参加したところで金にはならないってことだ。行っても旨味はない。
「……俺はやめておこうかな」
「え……は、はあ!?なんだと!?」
「中層から戻ってきたばかりだし……悪い」
断られるとは思ってなかったのだろう。目を丸くする須田。
そして、苦虫を嚙み潰したような表情になる。
「いや、まてまて、これはお前にとってチャンスなんだぞ。お前みたいな弱い奴がこれから先、未開のダンジョンで資源採掘なんてできるチャンス二度とない。稼げるんだぞ。考え直せよ」
なんだ?こいつ、なんでこんなに必死なんだ?
「わかった!報酬金を出す!ギルド依頼のバイトってことでどうだ!?」
「は?」
「依頼料は百万くらいで、どうだ?」
「は!?」
「足りねえか!?なら、」
「まてまて、なんでそこまで」
「二百万!どうだ!?」
「……!」
「ダンジョンで負った怪我やその他諸々、保険は適用されねえ。ここでの検査、治療、入院費をお前だせるのか?金が欲しいんだろ、佐藤」
「それは……」
「他にこんな高額なバイトはないはずだ。依頼を受けるなら明日契約書を持ってくるが、どうする?」
ダンジョンで起こったことは全て自己責任。勿論、学校とシーカー協会から今回の件で金は出るが、それでも百万くらいの負担が生じる。
須田のいう通り、これほど高額なバイトもそうそうない。しかも候補生で……。
「ダンジョンへはいつ行くんだ?」
「!」
「詳しい話を聞かせてくれ」
「あ、ああ!行くのは二週間後の昼間、そんで――」
須田が意気揚々と話し始める。
その後、説明を聞き俺はそのバイトを受けることにした。何かを目論んでいる気配はあったが、金は欲しい。
母親をこれ以上金銭面で俺が苦しめるわけにはいかない。
――そうして俺はそのダンジョン探索へ参加することになったのだった。
「おかえりなさい」
「……た、ただいま」
退院日。夕方、迎えに来てくれた母と家へ帰ると、彼女はカギをあけそういってくれた。記憶の中から彼女の存在が綺麗に抜け落ちてしまっている。だから、対応がどうしてもよそよそしくなってしまう。
今日から住み慣れた家に一緒に住む初対面の同居人。そんな感覚だ。
そして、その戸惑いが気が付かないうちに俺の顔に出ている事を、彼女の寂しそうな表情を目の当たりにしてたびたび気が付く。
「……ごめん」
「ううん、私の方がごめんね。大丈夫、すぐに記憶も戻るわよ。そんな顔しないで。諦めないことが大事なんだから」
……俺のスキルで捧げた記憶は、もう戻ることは絶対にない。
でなければあの途轍もないスキルポイントを取得なんてできなかったはず。
だから、いくら希望を抱いたって無駄で、虚しくて悲しいだけだ。
(……だけど、不思議だ)
どこかで聞いたようなきがするその言葉に、心が軽くなったような気がした。
「うん、ありがとう」
俺は二階の部屋へ。持っていた着替え等の荷物を置きベッドへ腰かける。
帰ってくるの数年ぶりな感じがするな。やっぱ自分の部屋は落ち着く。
(……ん?)
久しぶりの部屋をぼんやり見渡していると、隅に布にくるまれた棒状のものが置いてあることに気が付いた。……なんだ、これ。
布を取って確認してみると、それは杖だった。
「あ、これ……そうだった先生が譲ってくれた。昨日家に置いていったって母親が言ってたな」
『まあまあ純度の高い魔石ね……属性は水』
「アリス」
興味があるのか寝ていたアリスが寄ってきた。
「この間お見舞いに来てくれた先生がくれたんだよ。まあ、杖は使ったことないからこれから練習しないとだけど」
『ふぅん……』
「とはいえまず練習場所を考えないとだけどね」
『私が作る?』
「え?作るって?」
『結界を張るの。ほら、古城であの子が使った結界があったでしょう?』
「ああ、あれ。あんな高位の結界、アリスも使えるんだ」
『当然。あの子に結界魔法を教えたのは私なのよ』
「……え、マジで?」
『ええ。ただ、問題があるわ』
「問題?」
『私の力を使うにはあなたの能力を解放しないとダメね。私、この状態では魔力が練られないみたい。おそらく、あなたの使役の力を発動して私に命令してくれないと……勝手に魔力が使えないようになってる』
「そうか、なるほど。だとすると……」
(近くにシーカーの気配はない。今なら少し解放しても大丈夫か……)
俺は『スキルポイント+』を起動し、『スキルリスト』を出現させた。
【死霊術師 《level.1》】収集した魂を元に、影霊を召喚。600秒間使役できます。効果終了時、24時間経過後再使用可能。P:20000
《解放条件》影の王、魂ノ檻スキルを取得。
「……シークレットスキル、【死霊術師】このスキルを取得しないとだな」
『? そこになにかあるの?』
「あ、やっぱりこれ俺にしか見えないんだな」
『……もしかして、アユムがよく言っているスキルリストというもの?』
「そうそう。アリスの力を使うために必要なスキルを取得しようかと思って」
必要スキルポイントは20000か。今ある保有ポイント数は、189880……使っても全然残るな。取得っと。
「これで良しっと……じゃあ、後でお願いするかな。母親にみられたらあれだし夜中に庭ででも」
『庭?ここで構わないわ』
「え、いや構うだろ。流石に狭すぎというか……物壊れそうで危ないし」
『大丈夫よ。問題ないわ』
「でも」
『……』
頬をぷっくり膨らませ睨んでくるアリス。
「ええ……」
(何を考えているのかよくわかんないけど、もうこうなったらもう何言っても聞かないからな。……前も携帯で動画見ていたら猫の動画を見せろってせがんできて、見せるまでこの顔して拗ねてたし。うーん)
と、その時。下の階から母親が呼ぶ声が聞こえた。階段を降りていくにつれ凄まじく良い匂いが増してくる。肉の匂いかな。
「歩、夕食できたわよ」
「おお、すご……」
テーブルの上にはホカホカの白米と、コーンスープ。そしてデミグラスソースのかかったハンバーグがあった。
「退院祝い。久しぶりに作っちゃった。ふふ」
「ありがとう」
「おかわりもあるからね。いっぱい食べてね」
「はい……あ、いや。うん」
あー、くそ。さっさと慣れないと。気まずい思いでちらりと母の方を見る。すると、彼女はそんなこと気にしないよ、とでもいうかのように笑っていた。
「ほら、冷めないうちに食べなさい」
「……いただきます」
ハンバーグを箸で割って口に運び咀嚼する。ソースと肉汁が口の中で交わり、めちゃくちゃ美味い。言葉がでないくらいに、口にハンバーグを運び俺は頬張った。
「ふふ、そんなに慌てないでいいわよ。おかわりあるっていったでしょ」
母の顔を見て俺は頷くと、笑顔が消えていた。どこか不思議そうな、驚いているような表情。
しかし、すぐにまた口元が緩み微笑んだ。目を潤ませ、俺を見ていた。
――ポタ
俺の手元……テーブルに落ちたそれに気が付き、彼女が驚いていた理由を知った。
心が満たされていくような温かいハンバーグ。噛みしめる度に、胸奥が痛み締め付けられると共に、幸福に満たされる。
「……ありがとう、母さん」
その言葉にぎこちなさは無く、自分でも驚くほどすんなり出た。
「うん、お帰り。歩」
食事が終わり、母が夜勤へ出かけて行った。忙しそうに慌ただしくしている母の姿に、何とかしたい気持ちが増していく。
「ってなわけで、よろしく」
部屋のPCで猫の動画を見せていたアリスはにこにこしながら頷いた。彼女は基本いつも仏頂面だが、猫動画見せたら笑顔になる。すごい可愛い。もうずっとみてればいいじゃない。
『わかった。じゃあアユム、やって』
死霊術師の能力を発動。俺の影へ彼女が溶けていき、影により受肉したアリスが出現した。その瞬間俺は理解した。
「……アリス。お前、強いな……」
『それはそう』
彼女の体に流れる魔力。一見少なくみえるが、彼女の魔力はその質が異常だった。
高密度の洗練された魔力。それは、一流の魔術師……もしくは魔法使いの証。
(……この魔力……俺の十倍……いや、それ以上か。今は抑えてるだろうから、全体量はわからない。けど、質も量も俺を遥かに凌ぐ力を持っている……)
どうやら俺はとんでもない奴の魂を拾ってしまっていたようだ。
彼女は人差し指を前に出した。次の瞬間、白い空間に飛ばされていた。
「……これは……完全無詠唱で結界を発動させたのか」
『ふふん』
得意げなアリス。詠唱破棄ではなく、無詠唱での魔法発動。この時点でS級シーカー並みの実力者だという事がわかる。凄まじいな……。
「……あれ?って言いうか、ここどこだ?俺の部屋じゃないんだけど」
『私たち二人だけを結界で移動させた』
「どこに!?」
『亜空間に魔法で作り出した部屋に。まあ、この結界内には私とアユムだけしか入れないっていう縛りを掛けているけどね』
「……へ、へえ……」
凄すぎて「へえ」としかもう言えなかった。マジでか。
『さあ、杖を構えなさい。この私が魔力操作から魔法の使い方まで全て叩き込んであげるわ』
「え、マジで!?」
『古城での戦いを見てわかった。アユムは魔力操作センスがある。鍛えれば凄い魔法使いになれるはず……私に並ぶほどの大魔法使いに』
「いやいや、お世辞はいいよ」
『お世辞ではないわ。私は人の才を見抜くのが得意。私はアユムに底知れないものを感じる……恐ろしいくらいの秘められた力を』
多分、その底知れなさは『スキルポイント+』の潜在的な力を感じているのかもな。
スキルに振れるlevel、あれにどこまでの上限があるのかはまだわからない。だが、なんとなくだけど……そこには限界が無いような気がしている。
果てのない成長。際限のない力と、無数の能力。
(そして、俺自身が努力し成長することでスキルの恩恵が更に大きくなる。まさに、最強の能力)
くいくいと俺の服の裾をつまみ引っ張るアリス。
『何を呆けてるの。この私を顕現させている力、時間制限あるのよね。早くしないと終わっちゃうじゃない』
「あ、ごめん。何からしようか」
『まずは魔力の込め方からね。一度自分なりにやってみて、癖があったらなおさせるわ』
「わかった」
こうしてこの日からアリスとの一日一回の魔法の特訓が始まった。勿論、これはタダではない。特訓終了後はアリスに猫動画を見させ、更に彼女の髪を撫でてあげるという契約だ。
このレベルの魔法使いにそのくらいの報酬で教えを乞えるだなんてお得すぎる。
だから俺は「アリスは太っ腹だな!」ってつい言っちゃったんだよね。そしたらすげえ形相でぶちぎれられてね。悪気はなかったんだ。……迂闊だった、反省してる。
ちなみに結界が使えない時間帯でも暇があればアリス式の魔力操作の練習をするようにした。
中層で遭難する前から一応魔力操作の練習自体はしていたけど、より効果的だということで彼女の提案した方法を採用。
――そんなこんなで、四日経ち俺は久しぶりの学校へ。
「……」
ざわめく登校中の生徒たち。俺に向けられる無数の視線が煩わしい。帽子やらなんやら身に着けて電車とかはやりすごせたが、さすがにここまでくるとその変装も無意味だな。
何とか教室までたどり着く。突き刺さるクラスメイトの目をガン無視して俺は席に着いた。
(……鬱陶しいな)
こそこそと聞こえてくる噂話。明らかに俺の事だ。しかし以前の俺なら嫌で嫌で仕方が無かったそれも、不思議と今はウザいなーくらいにしか感じない。多分中層で彷徨ったことでメンタルが鍛えられたんだろうな。
(……けど、なんだろうこの感じ。何かが足りないような。謎の喪失感を感じる)
妙な違和感を感じ、俺は反射的にある席に目をやった。そこには誰も座ってない一つの席。
あれはたしか……あれ、あの席って誰がいた?すっぽりと抜け落ちている。そこの席の誰かだけが綺麗に。
この感覚は、母親の時と同じ……。
――ガラガラ、と扉が開き先生が現れた。
「よーし、お前ら席につけー」
あとで先生に聞いてみよう。ちなみに先生には、クラスでは俺の事にあまり触れないでもらいたいと事前に伝えておいた。できるだけ目立ちたくはないからな。
朝礼が終わり、先生は黒板に今日の日程を書き説明をした。
「……ってなわけで。んじゃ、今日は前から伝えていた通りシーカーランクを決める試験を行うからな。戦闘訓練場へ移動してくれー」
そう、今日は俺達がS~Fあるシーカーランクへと分類される。
シーカー候補生がシーカーになる重要な日なのだ。
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