ショートトリックと復讐の味
日奉 奏
さよなら
俺はずっと、恋人のことを信じ続けて来ました。だけどその信頼は、恋人から……正確には、恋人を奪った『クラスメイト』からの電話で一気に崩れました。クラスメイトの男・和泉と俺の元恋人・園部の間で交わされる汚らわしい『行為』の音。それをわざわざ聞かせた上で、和泉は笑い声をあげて電話を切りました。
翌朝から、俺の世界は悪い意味で一変しました。元々、和泉はクラスでかなり信頼されていました。正直言って、俺が何を言おうが、和泉の声にかき消されるくらいには和泉は信頼されていました。しかも、俺と園部の関係性は、大っぴらには公開していませんでした。それを逆手に取って、なんと2人は『自分たちが最初から付き合っていた』ことにしました。
俺は毎晩のように泣きました。恋人の笑顔も、優しい声も、もう二度と俺が聞くことは叶わない。そう思うと、何もできませんでした。だけどある日、俺は気づいたんです。なんで俺はここまで苦しいのに、あいつらは幸せそうなんだって気持ちに。俺はその気持ちを食欲で沈めようと、意味もなく近所のファミレスに向かいました。だけど、そこに奴らはいました。
奴らは嬉しそうに『あーん』しあってました。まぁ、恋人ならそういうこともあるでしょう。だけど、俺が許せないのは……そいつらが俺の存在に気づいた後、わざわざ店内でキスしたり、挙句の果て俺を見て少し笑っていたのです。もしかしたら、それらは俺の劣等感が見せた幻覚なのかもしれません。でも、もし幻覚じゃないのなら。俺は……そんな人間のこと、許せませんでした。
そこで俺は、ある『計画』を立ててやりました。フェーズ1・クラスの何人かと遊びの約束を取り付ける。噂話好き、ゴシップ好きの奴らを、俺は自分の家に呼びました。特に何も疑われることなく、彼らは俺の誘いに乗ってくれました。そして、俺は遊びの『日時』を念入りに考えました。これで、フェーズ1は完了です。
フェーズ2・俺はできるだけ醜く、園部に復縁を迫りました。園部はまるで、俺のことを生ゴミでも見るような目で見てきました。それでも俺は、屈辱に耐え復縁を迫ります。もちろん、本気で復縁しようと頼み込んでいるわけではありません。復縁を頼み込んだのは、単なるフェーズ2の作業です。フェーズ2を終わらせた俺は、クラスのゴシップ好き一同を家に迎えました。
そして――――フェーズ3は、彼らが俺の家にあったゲーム機に飽きて、ちょうど刺激的な遊びを求めていた時に始まりました。俺の携帯の着信音が鳴ります。俺はゴシップ好き一同に静かにするようお願いし……電話を、スピーカーフォンで受け取りました。瞬間聞こえてくる、冷ややかな和泉の声。
和泉は「おいおい、誰の女に手を出してるんだ」「園部はもう俺の女なんだ、お前は捨てられたんだよ」「ごめんなぁ、お前の大切な恋人を寝取って」と、相変わらず『行為の音』をBGMに自慢を行いました。ちなみに自分がスピーカーフォンにしていることは、相手には分かりません。つまり……俺がクラスのゴシップ好き一同に「喋っていいよ」と言った時が、最高の喜劇の始まりでした。
俺はかなりの間、あの子に、園部にありとあらゆるものを捧げてきました。だから、園部の思考はある程度コピーできます。園部の考えと和泉の性格、そして園部の体の事情やら、用事の事情やら。それらを材料に、俺は『和泉が電話を掛けて来る時間』を完璧に推測したんです。そして、フェーズ3は、うまく行きました。
そこからはリークできるものは全てリークしました。さっきの電話の録音と、携帯の機能を調べてみたら、全ての発端である最初の電話の録音も、スマホのデータの中にあったので、それも。それらは全て、俺たちのクラスのグループメッセージに、園部の両親にすらも送ってやりました。
翌日は愉快でした。俺に殴り掛かって来る和泉。俺のことを憎しみと恐怖の目で見る園部。2人が教室に入って来た途端、クラス中が陰口で埋まったのをよく覚えています。園部は女子たちに真正面から笑われ、部活の中でも噂を流されてレギュラーを外されました。和泉は部活を自主的に辞めました。でも、部活仲間には嫌がらせを受けていたそうです。
その後は3人仲良く停学です。まぁ、刺し違える覚悟だったのでいいですが。ちなみに、園部と和泉は自主退学しました。
園部と和泉がいまどこで生きているのか、俺には知る由もありません。だけど、もし会えたのなら――――
もう少し『賢く』なっていてほしい物です。すくなくとも、俺の仕掛けたトリックくらいは突破できるように。
ショートトリックと復讐の味 日奉 奏 @sniperarihito
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