最終話 魔法はソースコードでできている
この世界にも四季はあって、夏は暑いし、冬は寒い。
ヴェルテビアでそんな季節を一通り過ごしたある朝、ルクシアが満面の笑顔で台所にやってきた。
「私はそろそろお暇しようと思います」
「え?」
意味を理解しきれていない俺に、ルクシアは続ける。
「いやね、実は主から許可が下りたんですよ。担当が外れるには色々と条件があるんですが、ついに全部クリアできたわけです」
ルクシアは俺が独り立ちするまでのサポートをするためにこの世界にいたわけだから、俺にはもう彼女が必要ないと、神様が判断したということか。
「だってこれまで頑張ってきたでしょ? 異世界生命とヴィンジア勧業銀行への納品も無事に終わって追加の契約も取れたし、工房も再興どころの話じゃないし」
それはルクシアの言う通り。
この1年で一番の変化は、クルーリ魔法具工房の従業員数が50人に増えたことだ。住まいを兼ねた工房も新築して、先月引き渡されたばかり。
それもこれも、異世界生命との契約を無事に履行できたからだった。ヴィンジア勧業銀行との契約凍結も解除されて、今の人数でも人手は足りていないほどだ。
「ショートさんに私のサポートはもう不要です。無事メリナさんとも結婚したし、新しい家族も増えることですし、邪魔な居候はそろそろ退場しないと、でしょ?」
嬉しそうなルクシアに、俺は照れ笑いを返す。
「ちなみに生まれてくるの、男の子の双子ですよ。相続争いにならないようにしないといけませんね」
「もう分かるんですか?」
「そりゃそうですよ。言ったでしょ? 私はその辺のどさんぴんとは違うんですよ」
そういえばそんなことを言っていたっけ。懐かしい。
「さすが天使ですね」
褒めたつもりの俺に、ルクシアはやれやれと首を振った。
「私は天使なんかじゃありませんよ」
「え?」
「あなたがいた世界だと、ルシファーなんて呼んでるんでしたっけ? それが私です」
ニコニコと笑うルクシア。あー、そういえば光を司っている、なんて言っていたな、なんて今さら思い出した。
「悪魔じゃん……」
道理で物騒な物言いを平気でしてたわけだ。バーグラーが経営破綻した時も、「アルフレートと経営者達を訴えてケツの毛までむしり取りましょう!」なんて息巻いてたし。
「それではショートさん、残りの人生をめいっぱい楽しんでくださいね。みなさんにもよろしくお伝えください」
名残惜しさの欠片も感じない満面の笑顔で手を振って、ルクシアは俺の前から姿を消した。
「おはようございますぅ……」
そこへメリナがあくびをしながら起きてきた。寝間着姿のままテーブルに座ったメリナは、キッチンを見渡して、
「ルクシアさんは?」
「実家に帰っちゃった」
「え!? いつ?」
「一時間くらい前かな。馬車使うって言ってた」
呼び戻すことはできないから、メリナが諦められるように嘘をつく。
「みんなによろしくだって」
「そうですか。また会えると良いなぁ」
肩を落とすメリナに、台所に立って声をかける。
「朝ごはん、作るよ。いつもので良い?」
「はい。いつもありがとう、ショートさん」
朗らかな笑顔を向けてくれるメリナに、俺は笑い返した。
魔法はソースコードでできている ~バグまみれの魔法をデバッグして挑む、ポンコツ工房の異世界逆転劇~ グッドウッド @goodwood107107
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