語られずに残るもの、それが夏の正体

@pappajime

連作短歌「ナツガタリ:風景の余白に立つ」

1.

蝉しぐれ 言葉にならぬ 午後四時

君の沈黙 風が拾って


2.

麦茶より 冷たいまなざし すれ違う

駅のホームに 夏が立ち止まる


3.

白い雲 あの日の嘘を 包み込み

空だけがまだ 僕を知ってる


4.

花火待つ 川辺の影が 語り出す

誰にも言えぬ 恋のかたちを

5.

サンダルの 音が遠のく 路地裏で

忘れたはずの 名前が揺れる


6.

風鈴の 音にまぎれて 言いそびれ

「好きだったよ」と 空に預ける


7.

かき氷 溶ける速度で 過ぎていく

君といた夏 語れぬままに


8.

浴衣着て 誰かの記憶 なぞる夜

すれ違うだけの 物語でも


9.

夏休み 終わる予感に 似ていたね

君の背中が 語る別れは


10.

ナツガタリ 語らぬことが 語り手で

余白の中に 君がいるから

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