第三部エピローグ

 演武が終わった翌日にエルフから同盟の打診がきたそうだ。

 返答はエルフにとってみれば従属に近い内容を条件に了承するといった、かなり強気に出たものだったのに、エルフは今日になりそれを承諾した。事実上の白旗宣言だね。


 同盟締結と同時に大精霊返却も打診してきたそうだけど、即時却下したらしい。50年後に再検討なんていう、気の遠くなるような条件で納得させたみたいだけど、これは寿命の違いも大きいのかな。


 人の十倍生きるエルフにとっては、人で言うところの5年程の感覚だから受け入れたのかもね。まあ今すぐ大精霊を返すと言われたら、僕も困っていたのでそれは助かるんだけどさ。


 心情的には是非とも今すぐ返却したいんだけど。


 種族の寿命は妖狐>妖精>鬼>人>リザードマンの順で短くなるけど、寿命が長い種族は繁殖力が乏しい。箱舟では結婚システムもあって、ペアになったユニットの子供を育成する楽しみもあるんだけど、隣マスにいる状態で敵を倒す事が子供が生まれる為の必須条件となるから、撃破数=夜に種を放った数だなんて揶揄されてるよ。


 妖狐とのペアだとこの必要撃破数が千も必要なので、結構な苦行だ。


 話がそれたけど、なんで大精霊を返すと困るかというと、演武をTVで見てた二人は僕が響先輩に光の大精霊をあげた事が気に食わなかったらしく、屋敷に帰るとまたしてもかなり不機嫌だったんだよ。


 いや、まあさ、この前浮気を許してもらったばかりなのに、その相手に何かをあげる行為がまずい事くらいは理解できるよ。ただしあれは無言の恐喝で、あげるあげないの話じゃないんだけどね。


 もちろん一度認めた浮気を撤回する事もできないし、あの行為が実は恐喝なんだよって説明するわけにもいかない。


 結局僕は『いやー、なんか精霊に懐かれたんだけど僕は別に要らないからさ、たまたま近くに居た人にあげただけなんだよね。軽い気持ちだったんだけど、それでも響先輩にあげたのはまずかったよね……僕が不用意でした。ごめんなさい』と誤魔化し、謝るしかなかった。


 ついでに機嫌を取る為もあって風は瑞希にあげたし、水はシエナにあげたんだよ。つまりレベルの上がらない僕の+5レベルアップチャンスは消えた。まあ5上がったところで雑魚なのは変わらないけどね。


 ただし、瑞希に風は適正装備だからいいんだけど、シエナに水の大精霊なんてレベル+5以外の意味が薄いから完全に宝の持ち腐れ。ただそこでシエナにだけ何も渡さないという選択肢はなかった。


 単純に目が怖かったからね。


 まあ実際はそれだけではなくて、正直言うと僕自身も大精霊を誰かに押し付けたい気持ちもあったんだよ。


 なんせあの演武中に余計な事を教えちゃったせいで、星の大精霊スターピスキーの封印を解きに行こうと、ウィスプとシルフィーが耳元でずっと訴えかけてきてたからね。口は災いの元とはよく言ったものだよ。


 ちなみにウンディーはほぼ喋らないからまだマシだよ。別に喋れないわけじゃなくて、水のせせらぎが聞こえるような環境が好きってだけだから稀に言ってくるけどね。


 そんなわけで別に声が聞こえるのがバレたって、何も不都合はないかななんて思ってた僕が甘かったんだ。ウィスプは響先輩にドナドナされていったからよかったけど、その後もシルフィーはしつこく食い下がってきたし、このままじゃ夜もゆっくり眠れないなって思ってた時に、二人が響先輩に大精霊を渡した事を非難してきたので、ある意味渡りに船だったってわけだよ。


 だから今更あげた精霊をやっぱり返してねって言うと、精霊のしつこい誘いからは解放されるけど、一度あげた物を取り上げた時の皆の反応が怖いから困るってわけ。


 なにせ今の彼女たちはもう僕とは次元の違う強さを持ってて、少し機嫌を損ねるだけで命の危機を感じずにはいられない程だからね。余裕でワンパンで逝ける。


 なんにせよ結果だけを見れば、原作開始はまだまだ先なのに、既にレベルは魔族国に乗り込んでいける程に上がって、スキルもカンスト時に取れるマスタースキルを除けば完成してて、光の精霊アクセを手に入れて、エルフ国も実質的には落としちゃったんだよねあの人……。


 完全に原作破壊系主人公やってるよ。これで原作知識ないとかマ?

 さすがに有能すぎてちょっと怖い。反旗を翻さなくて本当に良かった。



 ―――★



 それから数日経ったある日、突然瑞希の束縛が激しくなった。少し外に出るだけでもどこに行くのか、何分で戻るのか、一緒に付いて行ってもいいか等々、何故か急激に重い女化が進んでいる。


 そして同時期に響先輩までもがおかしな行動を取るようになったんだよ。『今わたくしたちの愛の巣を建築中ですので、もう少しだけ我慢してくださいませ』なんて言ってきたんだから。


 もしかしてこれさ、タイミング的に見て二人とも大精霊に操られてない?

 精神系となると普通は妖狐の使う妖術なんだけど、アクセである大精霊自身のスキルまでは、さすがに全部は把握してないから持って無いとは言えないしね。


 それでも顕現時のレベルは45だから、今の二人のレベルなら余裕でレジストしそうなものだけど、ある意味背中から撃たれてるようなものだしなぁ。


 ともかく今の瑞希と響先輩は、僕との物理的距離を必死に詰めようとしてくるし、その二人が近くに来る度に、装備されてるウィスプやシルフィーも必然的に近くに来る事になるわけで、その度に封印解除に行こうと懲りずに誘ってくる。


 状況証拠だけで考えると完全に黒なんだよね。


 魔族の国なんかに突撃させられたら、僕なんか秒で蒸発してしまうというのに、何度断っても精霊たちは諦めない。だから僕は決意したんだ。


 ほとぼりが冷めるまで旅に出ようと。


 今は僕から星の情報を仕入れたばかりで熱量が高いけど、時間経過と共に精霊たちも少しは落ち着くでしょ。それにある程度繰り返せば、いくらバックアタック判定だったとしてもいずれレジストに成功するだろうしね。


 幸いそれなりの量の宝石と棚ぼたでゲットした換金アイテムもある。まずはこのアイテムを高値で売れる妖狐の国で売りさばいて当面の軍資金に換える。


 それからこの機に色々な国を実際に見て回りたい。原作開始時期がくれば、どこも戦争ばっかりでゆっくり観光なんてしてられないし、通貨代替もできなくなるケースが増えるだろうからね。


 有名人になってしまった今の僕は国内外を問わず、逃亡し隠れて生活するのは難しい。それでも一ヶ所に長く留まらない観光程度なら問題ないはずだ。


 とは言っても、例え観光だろうとひとりで他国に行くには僕は雑魚すぎるので護衛は必須だ。大精霊に操られてそうな二人を除外すると実質シエナ一択だね。


 そういえばシエナも大精霊を装備してるのに様子は変わらない。やっぱり僕が予想した通り大精霊は実は妖術スキル持ち説が現実味を帯びてきたぞ。


 何故なら鬼族は妖術に強い耐性があるんだよね。妖術って言ってみれば強制で相手を酔わせるようなもので、酔いに強い鬼族には通用しにくい。

 だからこそ鬼族は妖狐族の天敵なんだよね。


 鬼は妖術に強い耐性があり物理攻撃が強く妖狐の天敵。

 リザードマンは硬い鱗で物理に強い耐性があり、圧倒的物量で押し切る鬼の天敵。

 妖狐は妖術に長け、範囲攻撃に特化しているリザードマンの天敵。


 つまりこの三種族は三竦み状態なんだよ。

 原作ではいずれかの勢力に肩入れするミッションが発生するけど、シエナがPTメンバー入りしている場合は強制的に鬼族になるよ。


 まあまだ先の話だし、そもそもレベル50前後でのミッションだから僕には関係ないけどね。その時が来たら響先輩が頑張ってくれるだろう。


 よし、しばらくは煩わしい事は全部忘れて箱舟の世界を楽しもう。





               第三部  完



 ――――――――――――――――――

 あとがきとなります。


 ここまでお読みくださりありがとうございます。

 面白いと感じてくださいましたらフォローや☆評価で応援いただけると嬉しいです。



 ここ最近で更新した八話に対して、新規で第一話を読んでくれた方の増加数は20未満。つまり一話三人未満(*꒪ᗩ꒪)アウアウ。

 やはりなかなか多くの人の目に付くようにするのは難しいですね。一人でも多くの方に読んで頂けるよう何かしら対策を考えるべきなんでしょうか……。


 【追記】第四部は11月1日から開始予定でしたが、改善したい部分がおぼろげながら見えてきたので、しばらく色々な小説を読み漁って構成を勉強しようと思います。


 つきましては、再開日は未定に変更させてくださいm(_ _)m

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【 第三部完結】僕だけレベルアップ【できない】世界 @BenchPresser

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