無線にしたらウイルスがすごいんです ~誤解が社内を感染中!?~

キャルシー

無線にしたらウイルスがすごいんです

「やぁBさん、先日、うちの家を無線にしたんですけどね、もう無線にしたらウイルスがすごいですなぁ」


隣の部署のAさんが社員食堂で僕を見つけてお向かいの席に座ってきて言った。

名前を呼ばれた僕は箸を止め、思わず顔をあげる。家を無線にした?家の何かを、例えばマウスやキーボードを無線にしても、あるいはLANをWi-Fiにしても、イヤホンをBluetoothにしても、はたまたプリンタをWi-Fi接続にしても、ウイルスが「すごい」となる理由が思いつかない。


「Aさんの家の家庭内LANを有線からWi-Fiにしたということですね」


Aさんは、どうもピンときていないという表情で一瞬沈黙したが、

「いやもう、そうしたら、ウイルスがいっぱい入ってきましてな」

と笑顔でつづけた。


「Wi-Fiとウイルスって関係ないと思うんですが、なんでウイルスが入ってきたってわかったんですか?」


「すごいですよ、アダルトとか投資とかメールがいっぱい来るんです。英語のウイルスも来たんですよ」


そこでようやく、Aさんの言う「ウイルス」はスパムメールのことだとわかった。しかし、「Wi-Fiにした」からと言ってそれが原因で「スパムメールがたくさん届くようになる」とは考えられない。偶然、スパムが届くようになった時期と家庭内LANのWi-Fi化が重なっただけだろう。


実際我々も、時期的に一致していたら、「あれが原因に違いない」と誤解することは日常よくあることだ。例えば、この薬を飲み始めてから体がだるいと感じても、実は同じタイミングで新しい趣味を始めたため疲れているとか、こうした偶然の一致を因果関係と勘違いしてしまうこともあるだろう。


技術的な知識がない人が家庭内ネットワークをWi-Fi化する際に、セキュリティ設定が不十分なままにしてしまって、外部からの不正アクセスを受けやすくなるリスクはゼロではないので、このためにマルウェアに感染する危険性はあるだろう。しかし市販のWi-Fi親機をデフォルトで使っていれば、一般的には大きな問題はないはずだ。


実際はメールに添付されたもの以外でも、セキュリティを適切に設定していないと、Webサイトを見ただけでウイルスやワームに感染したり、ダウンロードしたファイルについていたりするので知識がないと自ら感染させてしまうことがある。ウイルスがメールに添付されていることもあるので、スパムメールとの違いを説明しても混乱するだけだろう。


そこで、ただ一言、

「偶然、スパムが届くようになった時期と一致していただけでしょう」

と説明する。


「ああそうですか」Aさんは困惑した表情で一言。


ここで「Wi-Fi化とウイルスの関係はない」と理屈を説明しても混乱させるだけだろうと思い、

「同じ時期にメールアドレスをどこかのサイトに書き込んだとかありませんか。」

と聞いた。


もしここで「その前日に怪しいサイトにメールアドレスを入力した」というような返答があれば、スパムが届くようになった原因はそれだろうと説明することができるので技術的な話をせずに納得させることができるだろうと思ったのだ。


しかし、Aさんは、なぜそんなことを聞くのか理解できないという雰囲気で、

「どう設定したらウイルスが入ってこなくなりますかねぇ。」

と逆質問してきた。Aさんは家庭内LANをWi-Fi化したからスパムメールが届くようになったと思い込んでおり、スパムメールが届く状態が解決すべき課題で、その問題解決を聞いているのである。


一度届くようになったスパムメールで、送信者に送信を止めてもらうというのはなかなか厄介で、スパムフィルタの設定を伝える受け身的な解決策が最善かも知れない。しかし、これを誤解なく伝えるのはなかなか難しそうなので、手っ取り早く課題解決できる必殺技、

「新しいメールアドレスに変えればいいですよ」

と助言すると、Aさんは目を輝かせ、

「そうですか!いいことを教えてもらいました。会社の社内広報誌に、『家を無線にしたらメールアドレスを変えよう。これでウイルスも撃退』って、Bさんの顔写真入りで紹介させてもらっていいですか」

――やめてくれぇぇぇぇぇ!?

僕の誤った悪評がウイルスより速く感染してしまう!?


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