届かない
つばめいろ
第1話
私の手元には先輩からの通知を待つスマホが握られている。いくら待てどもメッセージアプリに、赤の1の文字がつくことはない。
先輩が卒業するとき、一週間に一回は連絡をする、と私と約束した。ここで言っておくが、私と先輩は付き合っているわけではない。二人しかいない部活の、ただの先輩後輩の関係だ。私が先輩に好意を寄せたのは確かだけど。私にとってはこの関係を保つほうが大事だった。
先輩と約束してから先月まで週に2,3回くらいほど連絡がきた。それで私は何度喜んだことか。だけど、それも先月で止まった。先輩から一つも連絡が来なくなった。だから私は、先輩の元を尋ねることにした。
先輩は隣の県の大学に通っている。そしてどこのアパートに住んでいるかも知っている。だから最初にそこに訪れた。だけど、そこに先輩はいなかった。大学に訪ねたけどいなかった。
私は、ふと先輩と位置情報を共有していたことを思い出した。だいぶ昔に共有したっきり使ってなくて忘れていたけど、あれを使えばわかるかもしれない。私はアプリを立ち上げて、その地図が示す方へと進んでいく。山の中を指すピンに不穏さを感じていたが無視して進み続けた。
着いたところは何も無いただの山の中。しかし先輩を示すピンはここを指している。あるとしたらこの地下しかない。どうしようかと立ち尽くしていると、ピンのマークが消えた。おそらく先輩のスマホの電源が切れたのだろう。私は意を決して掘ることにした。スコップなんて持っていないから手で掘った。爪の間に土が入ろうとも、小枝で切り傷を作ろうとも気にしない。そして、白い長細い箱―――スマホが見つかる。その横には服が少し見えている。腐卵臭もしてきた。思わず手が止まるが、それに耐えながら周りを掘る。
何時間経ったのだろうか。それすらもわからない。でも、ようやく人をだいぶ掘り出すことができた。それは、まごうことなき先輩の姿だった。
久々の先輩との再会は、とても冷たいものだった。こんなことなら会いたくなかった。約束をしなきゃよかったな。
届かない つばめいろ @shitizi-ensei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます