学年で1番の美女が学年で1番冴えない俺にだけ、どう考えても優しい件について〜出会い編〜

NEET駅前

第1話 人はこうして少しずつ動かされる生き物なのである。

 高校生活という特に期待もしていなかった行事が始まってから、今日で二週間が過ぎた。


 俺――木山俊太郎きやましゅんたろうは、特に変わったことなんて望んでいなかった。ただ普通に、ごく平凡的にこの行事をこなせればいいと、そう思っていた。


 俺自身、中学時代はずっとぼっちだったし、高校でもそのスタイルを貫いていくという覚悟は既に決めていた。そもそも俺には友達を作るといったような社交性のスキルなんてのは元々ない。そんなこともあってか、休み時間は机に座って文庫本を読んだり、ひたすらスマホでサッカーの移籍情報を眺めたりなど誰とも関わらず、一線を引いていた――それで充分だった、……のはずだった。


「木山くん」


 クラスがざわめく。俺の名前を呼んだのは、よりによって――松尾百華まつおももかだった。


 学年一どころじゃなく、この高校に入って早々「今年度最初の奇跡」とまで呼ばれ始めた美少女中の美少女である。


 肩までの黒髪は教室の窓から入ってきた陽光を受けて艶やかに流れ、大きくて力強い水色の瞳はまるでアイドルを連想させるような存在感を放っている。そんな彼女の笑顔を一目見ただけで、男子は息を呑み、女子は嫉妬と憧れの群れになるとも言われている、まじかよ。


 そんな松尾さんがためらいもなく、俺に声をかけてきた。これはなにかの罰ゲームか、


「はいこれ、プリント回ってきてなかったでしょ?」


「え、ああ……うん」


 渡された紙を遠慮がちに受け取る俺。紙を受けとる際、俺の手が一瞬だけ彼女の指に触れる。心臓が爆発しそうになった。女子と会話したのなんて、幼稚園年中さんの時以来だ。


 その光景を見た周囲が途端にざわつきはじめる。


 いつもはおしとやかで、誰にでもにこやかに接する彼女――いや待て、誰にでも。案外そうでもない気がする。


 一旦冷静になってよくよく思い返してみると、彼女が他の男子にこう直に声をかけてるのを少なくとも俺はあまり見たことがない。確かに女子とは仲良くしてる。だが、果たして男子とはどうだろうか。


 俺の心違いか、彼女が日頃見せている言動からは、何処か距離をとっているようにも感じた。


「ありがと」


 俺が小声でそう言うと、彼女はふっと笑顔を深めた。


「どういたしまして〜」


 彼女が見せた笑み、そこには確かに“優しさ”が詰まっていた。


 果たしてそれがきっかけとなったのかは定かではないが、それからというもの彼女はなぜか俺の前に現れてはどう考えても計算されたような“優しすぎる”態度を取るようになってきた。


 俺が忘れ物をすれば、当然のように「これ予備あるから」と差し出され、

 体育の授業で体育館シューズと運動シューズを間違えれば「はい、俊太郎くんのはこっちだよ」と自然に手渡してくれる。しかも、名字ではなく名前呼びだぞ。


 しかも挙げ句の果てには、放課後一人で教室に残っていると「まだ帰らないの?」と声をかけてくる始末だ。まぁその日は逃げるようにして俺は教室を出て行ったから、彼女がどんな気持ちだったのかは知らない。なんにせよ、一番は“俺だけ”という所が余計に不安を駆り立てやがる。


 そして、ある日の放課後。


 図書室で静かに小説を読んでいた俺の背後から、あの軽やかなトーンのする声が降ってきた。


「やっぱりいた」


 振り返ると、窓から差し込む夕日を背景にして、松尾百華が立っていた。

 神々しい。なんだこのシーン。マンガかな、ラブコメかな、――いや目を覚ませ。これは紛れもなく現実だ。


「……なに?」


 心情を悟られないようわざと冷たく返す俺。


 しかし、彼女は気にせず俺の隣にゆっくりと腰を下ろすと涼しげな声で言った。


「木山くん、中学でずっと一人だったんでしょ」


 心臓が止まったような錯覚に陥った。もっと正確にいえば、俺達二人以外の周囲の時間だけ止まったような感覚に近かった。


 なぜそれを、いや調べるほどでもない。そんなこと俺の雰囲気を見ればすぐにわかる話だ。


 これまで俺は人と極力話さないようにしてきだ。だがそれは俺が好きでやっていることだ。今更それを誰かにとやかく言われる筋合いはない。そしてそれは、これからも同じなのだ。


「それが……どうしたんだよ」


 彼女がぐいっと俺との距離を詰める。


「だから。放っておけなかったの」


 それから彼女はにっこりと笑った。


 その笑顔は、誰よりも優しさで満ちていた。


「俊太郎くんさ。自分では自分のこと冴えないって思ってるかもしれないけどね、私はそうじゃないと思うんだ」


 耳が段々と赤くなる。顔が熱い。急速に喉も乾く。


 突然の思ってもいなかった言葉に、俺は恥ずかしさを誤魔化すために勢いよく本を閉じ――


「ごめん。俺っ!バイトあるからっ!」


「あ、俊太郎くんっ」


 俺は逃げるようにして図書室を後にした。


 ♢


 後日。昼休み。


 俺は、旧校舎のピロティーと呼ばれる誰もいない中庭で弁当をもくもくと食べていた。もちろん一人でだ。


「隣、いい?」


 その聞き覚えのある声に俺は思わず、ほとんど条件反射で振り向いてしまった。言うまでもなく松尾百華だった。そして当然のように身を寄せてくる。


 目の前を通行人が通る度に、二度見や三度見やらを当たり前のようにしていく。側から見ればクジラとマグロくらいの差があるのだろう。ちなみにクジラとマグロだったら俺は迷わずにクジラを選ぶ。答えは簡単、それは俺がクジラが食べれないからである。


「なんで俺なんかの隣に来るんだよ」


「なんでって、話したいから」


「……俺と?」


「そう。俊太郎くんと」


 その瞬間、遠くで女子の悲鳴が聞こえた。多分、嫉妬の悲鳴。


「……理解できない」


 本音を吐き出した俺に、彼女は真っ直ぐな瞳で答える。


「じゃあ、理解できるまで隣にいてもいいかな」


 それはもう、俺だけに向けられた彼女の計算され尽くした表情であり、冴えない俺はこれから先、多分彼女とは離れられなくなるんだろうなと未来のことを考えながら、俯きながら答えた。


「……勝手にしろ」


 fin。


皆さんこんにちは。ライトノベル作家のNEET駅前です。


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