口ほどにものを言うのは

晴れ時々雨

👀

 俺はよく石渡晄いしわたり こうの目と会話する。こいつが自己主張をしないので、いにしえの手法に則った結果だ。目というものは比較的小さい。よって、会話をするとなるとおのずと近づくことになる。

 自己主張と言ったが、口を使った主張に限る。要は言語だ。俺の発言に対するリアクションがかなり疎かで、それを待つ趣きにも飽きてきていた。

 初め、晄は耳が遠いのかと思った。しかし緊急を要する(と晄が判断した)場合はちゃんと返答するので、こいつなりの基準、もしくは優先順位があるのだと理解した。しかし、それにしたってほぼ返事しないのはどうかと思う。

「近いぞ」

 晄が憮然と言う。

「なぁ、一緒に暮らさないか」

 俺は瞳に直接語りかけた。眼球は僅かだけ左右に動いた。この期に及んでまだ自分以外の誰かが周囲にいないかどうか探っている。

「おまえに言ってんだけど」

「…」

「色々あるんだよ」

 すると晄が突然俺の後ろの髪を鷲掴みにしてひっぱって言った。

「お前が今日、一段と近いのはそういうことか」

 俺はちょっとわくわくしていた。こいつがひとつのことに対して、これだけのワードを滑らせるのは珍しい。それだけでも収穫があった。言ってみてよかった。それに俺はまだ目ん玉にだけ語りかけるのをやめていなかったが、今日の目は忙しげに上下左右に揺れ、たまに俺を見据え、うるりと艶めいた。

「なぁどうなんだよ、目に聞いてる」

「…呆れて物が言えない」

 そう言って晄は、俺の唇に自分のを重ねた。たっぷり晄の唇を堪能したあと俺が

「逃げてんじゃねえよ」

 と言うと、

「いやなのか」

 と晄は俺に体重を預け、上に乗りながら口を吸ってくる。嫌なもんですか。キスをするとき晄は、やらしいこと全般にも共通してるが、行為自体は嫌いじゃないはずなのに割と受け身だ。ノって来るまで時間がかかる。でも今日のスタートダッシュは凄まじい。晄の方から絡ませた舌を強く吸ってくる。俺は辛抱堪らなくなってさらに深く晄の口の中を求め、やり返す。もう目との会話は終わりだ。晄は固く目を閉じ、鼻から低い呻き声を洩らしはじめている。

 興奮してきたが、答えをはぐらかすように誘惑してくる晄に若干イラッときた。晄は、俺が何の気なしに言い出したと思ってるんだろう。バカ言うな、俺だって俺なりに勇気がいったんだ。こいつがシャイなのは知ってる。だけどいまははぐらかして欲しくなかった。晄に首を舐められながら、もしかしてこれは暗にイエスなのか。こいつの拗れっぷりから予想して、NOの裏返し、むしろ全然OKってことなんじゃないか。そこは曖昧さ回避でよろしく。そうだ、閉じてしまう前の目はどうだった。たぶん、どちらかと言うと肯定の色を滲ませて潤んでたんじゃないか。

 俺はふかふかの晄のおっぱいを揉み、勢い込んでパンツに手を入れた。そこは柔らかく、充分に潤っていた。すぐさまヒダに指を割り込ませると、晄は身を捩った。俺は力ずくでやつの体を抑え込む。そして一旦指の動きを止め、晄の瞳をみつめた。その間2秒。すると晄は体の力を抜き、目を閉じた。

 一瞬まみえた晄の眼球。そいつらは俺を受け入れるような光りを宿していた。晄の顔が近づいてきて俺にキスする。優しさを込めてキスに応じながら、指の感覚に集中した。溢れる粘液で滑りがいいその部分をゆっくり何度も往復すると、晄の立体的な腰が揺れてくる。そして微かな声で、

「いじめているつもりか」

 なんて可愛いことを言うから、思わず中に指を埋めた。そのショックで顎を反らす。俺はお構いなしにその周辺を丹念に捏ねくり回し、自分の下半身をさらした。上に乗っかった晄の腹と俺に挟まれてガン勃ちした一物がその間からズキンズキンとはみ出ている。晄がそれにそっと触れる。

「私が逃げると思うのか」

 俺のを握った晄の手が上下する正確さ。ちょっとずつ捻りを加え早くなる。たまらない快感が一局に集中する。晄が髪を耳に掛けながら俺を見つめ、そそり勃って張り詰め切ったちんぽの先に唇をつけた。心許ないくらい柔らかい感触が俺を啄んで離れると、太い先走りの糸と繋がる。液がもたついて途切れるのを見届けてから俺を晄の口へあてがい、ねじ込む。上から咥え込む晄の頭を抑えて下から腰を突き上げる。涎まみれの晄の口から苦しそうな声が漏れる。痛ましくて可哀想な晄に激しい愛しさを感じて、容赦なくその口を犯した。さながら髪の生えた自慰道具だ。きつく結ばれた目蓋の中の目玉たちは今どんな顔をしている。それを思いながら腰を振り続け──。




「いつにも増して酷かったね」

 二人で横たわってうとうとしていると晄が気だるそうに呟く。

 これはもはや褒め言葉だ。そういえば痴話喧嘩めいたやり取りをしたあとだったな、と思い返して気恥ずかしくなる。

「目にばっか話しかけてごめんね」

「お互い様だ」

 恥らいながらゆらぎ、今度は正面から俺の目をみつめる晄の瞳たちは楽しそうに光る。

「お前が言い出すことだからきっと正解なんだろう間違っていても」

「かわい」

 俺は晄をぎゅっと抱き寄せる。

 正解なんか求めてねえから目をみせてくれ。

「もう一回やってから、話詰めない?」

「また?」

 俺らはこの日、一日のほとんどをベッドで過ごすおふとんの民になった。


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口ほどにものを言うのは 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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