ご都合主義なんてね、それがあるって思いたいだけの空想でしかないんだ

「危ねぇユウトっち!!」




 ガキン!という音がなり、それと同時にライナーが何かを吹き飛ばしていた。




 優斗は自分の胸を触ると、そこに肉体が存在していることを確かめる。




(ある………貫かれて………!!??)




 それと同時に、先程の光景を思い出した。




(殺気!?まさか!幻覚!)




 恐らく、優斗は一瞬気を失っていたのだろう。あの獣の殺気にあてられ、自分の身体が貫かれる夢を見てしまっていた。幻覚で助かった。あの獣が意図して見せていないにしても、優斗は本能で理解してしまった。




(あの獣には、勝てない!)




 わかってしまったから、優斗の身体は今、動けなくなってしまった。




「ガゥゥ………」




 その獣は白色の毛並みをしている。巨大な豹のような見た目だった。




「あ、アイスフェンリル………」




 エレンがその白い獣を見てそう言う。恐らくそれが奴の名前。種族名なのだろう。


 アイスという名の通り、アイスフェンリルの足元は凍てついている。




「ユウト、動けるか?」




 キースが肩を叩いたことで、優斗の硬直が解かれた。




「あっ………」




 それと同時にその場に座り込んでしまう。




「腰が抜けたか………エレン」




「わ、わかった!」




 エレンはキースの言葉に了解の意を示すと、睨み合っていたライナーとアイスフェンリルの間に割って入る。




「来い!〈デコイ〉!〈挑発〉!!〈シールドウォーリア〉!!!」




 自身に集中させるスキルと、攻撃の意識を高めるスキル。そして防御力を高めるスキルを使い、キースはアイスフェンリルの攻撃を受け止める覚悟を見せる。だが、




「グルル………ガァ!」




 アイスフェンリルは彼我の距離を一瞬で縮めると、盾に攻撃を入れた




「ぐっ!防御を上げてこれか………」




「キース!!」




 エレンが叫んだことによってキースを注視すると、よく見ると盾にヒビが入っていた。




「う、嘘だろ………」




 ゴブリンナイトの攻撃にもビクともしなかったキースの盾に、一瞬でヒビが入った。




「離れなアイスフェンリル!〈ライトニング〉!!」




 ライナーが放った雷撃も、アイスフェンリルは楽々も躱したかと思えば、次はライナーに向かって攻撃を仕掛ける。




「は?〈デコイ〉が、囮スキルが通用してない、のか?」




 どうなっているんだ。そう考えてしまうのもおかしくは無い。




「く、クソ………〈エンチャント・炎〉!〈ファイアーブレード〉!!」




 〈付与魔法〉によって剣に炎を纏わせると、ライナーはそのまま剣を振り抜いた。




「ガァ………グルル………」




 アイスフェンリルは引いたかと思えば、周囲を凍てつかせながら隙を伺ってる。




「キース。盾の氷は?」




「かなりやばいな。あともう一発喰らえば壊れそうだ」




 キースの盾は限界一歩手前。ライナーは目線こそアイスフェンリルから逸らしていないが、剣を振っている。




「やっぱり、話しに聞いてた通り厄介なモンスターだな、アイスフェンリル。攻撃対象をそのまま凍てつかせる、なんてな………」




 ライナーは能力を確認しながらも、目は離さない。それよりも




「相手を凍てつかせるって………壊死させる気かよ」




 凍傷も狙っているのだとしたら中々狡猾な生き物だ。あのアイスフェンリルは。


 氷と聞けば綺麗に聞こえるが、実際はこれ程までに殺意に満ち溢れた能力だと、優斗は初めて知った。




「なあ、ユウトっち」




 すると、ライナーはユウトの方を見ることなく話しかけてくる。




「このまま、逃げてくれないか?」




「………は?」




 何を、言っているのだろう。




「そんなこと………」




「エレンから聞いてるぜ?〈転移の宝玉〉を、持ってるんだろ?だったら、それを使って………」




 ライナーが言い終わる前に、アイスフェンリルは仕掛けてきた。




「来い!」




 キースは盾を構え、ライナーに向かおうとしているアイスフェンリルを止めた。しかし、その盾はバリン!という音を立てて壊れてしまった。




「!?まだだ!」




 キースはそう言うと、アイスフェンリルの前足を掴み、投げ飛ばした。




「今だ!2人とも!!」




「よくやったキース!〈エレキネット〉!!」




 ライナーは電気の網でアイスフェンリルを捉えるも、アイスフェンリルは電気ごと網を凍てつかせる。




「確かにそれなら脱出も簡単だろうよ!でもな!!」




 隙を作ることには変わりは無い。




「〈チャージ〉満タン!出力マックス!!行くよ!〈狙撃〉!!!」




 エレンが準備していた矢はアイスフェンリルに向かって飛んで行き、




「ガァァ!!」




 アイスフェンリルはその矢が被弾する前に網から解き放たれると、飛来する矢と自身の間に氷の壁を築いた。




「………え?」




 防御された。飛来した矢は氷の壁を貫通したが、貫通した先にアイスフェンリルはいなかった。




「ガァ!!」




 代わりと言ってはなんだが、姿を消したアイスフェンリルはエレンの前に姿を現すとその爪でエレンを引き裂こうとし………




「〈カバームーブ〉!!」




 守護対象の前に瞬間転移することが出来るスキルを使い、エレンの前に現れたキースの鎧が粉々に砕かれた。




「キース!!」




 エレンの悲痛な叫びが森に響く。




「この程度!」




 キースはそう言いながらアイスフェンリルを殴り飛ばす。




「ギャガァ………」




 だが、アイスフェンリルは殴られる直前に顔の一部を氷で守り、ダメージを軽減させていた。それに対してキースは




「キース!今ポーションを………」




「ダメだ!まだ奴はそこにいる!今隙を作れば、俺たちは全滅するぞ!!」




 エレンによる応急処置を拒否し、立ち上がった。


 キースには、もう盾も鎧もない。そして、前足を掴んだその手はもう既に凍りついており、先程殴ったことによって右手にはヒビまで入っていた。


 身体も悲惨なもので、アイスフェンリルの爪が鎧を貫通してその身体にまで届いていたのだろう。攻撃された箇所が凍りついていた。




「てめぇ!よくもキースを!」




 ライナーも剣を手にしながら怒りをアイスフェンリルに向ける。




「〈神速〉!」




「っ!?待って、ライナー!」




 〈神速〉というスキルを使ったライナーは優斗の目には見えない速度でアイスフェンリルに近づき、




「死に晒せ!」




 その顔に傷をつけた。




「ギャアッ!!」




 どうやら、当たる直前に身を引いたようで完全に斬ることは叶わなかったが、それでも左目を斬った。これで視力は下がるはず。なのに




(威圧感が、消えない………)




 それどころか、先程よりも上がっている気がする。




「ユウトっち!はやく逃げろ!」




 だからか、ライナーは再度優斗に逃げろと言った。




「で、でも………」




「あいつはアイスフェンリル!フェンリル系のモンスターの中でも最上位クラスのモンスターだ!推奨討伐レベルは80!フェンリル系のモンスターは上級者殺しとも言われてる!俺たちでもこのままじゃ勝てるかも怪しい!だから」




 ライナーはそこまで一気にいい終えると、また襲いかかってきたフェンリルの攻撃を紙一重で受け止める。




「こんの!」




 ライナーはそのまませめぎあい、又もや剣に炎を纏って1度退け、体制を立て直す。




「キース!ポーション………」




 エレンはその隙を見てキースにポーションを振り掛ける。




「助かった。凍傷の方は………」




「ごめん、難しい………〈中級神聖魔法〉か〈エリクサー〉じゃないと治癒は難しそう………」




 〈中級神聖魔法〉が必要。ということは、キースの治癒に優斗は役に立てないのだ。




「いい。それよりも、直ぐに加勢しないとライナーが………」




「その傷で加勢するの!?無茶だよ!」




「無茶でもやるんだよ。お前もそのつもりだろエレン!」




 確かに、エレンの手からは弓は離されていなかった。




(なんで、戦うんだ?)




 エレンは昨日言ったじゃないか。逃げてもいいと。引き際を見極めるのは大切だと。なのに何故………




 優斗だって、逃げたい。ゴブリンナイトとは明らかに違う化け物。叶うならば逃げたい。だけど




(みんなを置いて、逃げたくない………)




 それは優斗の我儘だった。感情的なものだった。ここで逃げたら、もう二度と会えなくなる気がしたから。




「ユウトくん!」




 そうしていると、アイスフェンリルは優斗に向かって牙を向き




「死なせて、たまるかぁ!!」




 ライナーの声が聞こえると同時に優斗は目を閉じて痛みに備えた。




 だが、目を瞑っても痛みはやってこなかった。疑問に思った優斗が目を開いた先には




「ゴホッ」




 左手を失い、右肩を噛み付かれたライナーの姿だった。

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