最弱スキルが本当に最弱スキルなんてことある?

明月冬(めいげつふぶき)

スキル「」

真っ白な空間。

ラノベで見てきたシチュエーションだ。

――あぁ、俺は死んだのか。


「おぉ、物わかりの良い奴じゃ」


ふわふわ浮いている白い玉が話しかけてきた。


「あんたは……」

「適当に神とでも呼んでくれ」

「神が俺に何の用だ?」

「そうつっけんどんな態度で良いのかなー」


そう言ってチラつかせる箱。

――まさか!


「そのまさかじゃ。やっぱ説明いらずって良いのぉ。ほれ、引くといい」


差し出される箱……くじ引きか?


「……何かこう、もっと良い具現化できなかったんですかね」

「お主の頭の中で一番印象的だったみたいだからのぉ」


いや、まぁ嫌な思い出だから覚えてるけど。

こう……ガチャガチャみたいにして欲しかったなぁ。


「引かんのか?なら……」

「いや引くから待て待て」


箱に腕を突っ込んでかき混ぜる。

そしてピンときたくじを握りしめ――


「これだああああああ!」


突きあげた拳が光り輝く。

ワクワクしながら紙片を広げると――


『裁縫』


――ん?

目を擦って何度確認しても現れる『裁縫』の二文字。


「ほぅ、裁縫……くくっ」

「な、なぁ神、このスキルって……」

「最弱スキルじゃ。さ い じゃ く。なぁんも役に立たんな。選べるスキルの中で最下位じゃぞ」


笑い転がる神。

あぁ、ぶん殴りたい衝動を抑えられそうもない。


「ほぅれ、転生じゃ」


体がぐんと引き寄せられるような感覚と共に、闇が視界を覆っていった。

――待て、一発殴らせろよ、神!


______________________________________


転生して早くも7年が経つ。

俺は騎士の家に生まれたらしい。

父は基本的に魔物討伐で家を空けている。傷だらけで帰ってくることも少なくないが、母の献身的な手当てで数日経てば元気に走り回っている。


「――ふっ!」


私は細剣を突き出す。

更に二度、三度と連撃で。

残心には意識しつつ、構えを解いた。


「……はぁ」


裁縫スキルを活用できるかと思って訓練しているが、全然そんなことない。

なんなら剣術の才能無いんだけど!なんでだよ!

そもそも転生した時にもらえるスキルにはずれを作んなよな!聞いてるか、神!!


父は訓練しているときに褒めてくれたり、アドバイスをくれたりするが、俺は知ってる。二歳下の弟の方が可愛がられていることを。

弟の持つスキルは『天命』

いわゆるカリスマを意識して扱える凶悪なスキルだ。

おそらく国家転覆だって難しくないんじゃないか。だから父と母だけでなくもっと上の殿上人にも媚びを売られているとか。可愛い婚約者も居るらしいし、弟のくせに生意気だ。

なぁ、くれよそのスキル。


なんで異世界に来てまでみじめな思いしないといけないんだ。

俺は汗を拭い、細剣を台に戻して部屋に帰った。


                 ◇ ◇ ◇ ◇


……何時からだろう。父も母も顔を見せなくなったのは。

二人は豪華な服を着て朝早くから家を空けることが多くなり、帰って来るのも深夜だ。メイドさんを雇う訳でもなく、必然的に俺が一人で家の掃除や飯を作らなければならなかった。


……弟を連れてパーティ三昧、か。

視界がにじむ。テーブルの乾拭きが一向に終わらない。


「くそっ!あぁ、なんでだよ!!」


布巾を投げ捨てテーブルを思いっきり叩く。

血痕が残ってかなり痛い。でも、だとしても!


――俺は、次の瞬間には細剣を以て駆け出していた。

行く当てなんてない。けれど、あんなみじめな思いするくらいなら、別の所に居た方がマシだ。

遠くへ、遠くへ。

日が暮れてもずっと走り続ける。


「うわっ――!」


顔が泥に汚れてしまった。口の中が気持ち悪い。

歯を食いしばって立ち上がろうとしても、もう足に力が入らない。

視界も暗くなってきた。


……あぁ、また死ぬのかな。









「……すか!大丈夫ですか!」


ゆさりゆさりと意識が呼び起こされる。

まぶたを上げると、暗闇に一人の女性が居た。

――夢、か?


「今家で治療しますから!大丈夫です、ちゃんと意識を保っててくださいね!」

「ぅぁ……あなたは……?」

「よ、いしょ。早く、治療します、から……ね!」


そのまま背負われて、彼女が辿りついた先は一見の家だった。

ふかふかのベッドに横になり、彼女は触診を開始する。

くすぐったいけど体は動かせない。


「命の危険はなさそうですね……あぁ、起きてましたか」

「あなたは……」

「あ、自己紹介してませんでしたね。緊急だったのでごめんなさい」


彼女は舌を出して笑ってみせる。とても可愛らしい。

彼女の話を聞くと、此処は元居た街から百数十キロ離れた村の診療所らしい。

彼女が夜中に一人で出掛けていたのは、なんだか嫌な予感を感じたからだそう。それが俺の行き倒れ、ってことか。


「行く当てが無いんでしたら、この村で暮らしませんか?狩人が減って困っていたんですよ」


俺の細剣を見つめながら。


「部屋はこの診療所にたくさん余ってますし、どうですか?」


悪くない話、だと思う。

あの家には俺が居ても居なくても変わらない。もう俺を縛るものは何もないんだ。


「……お願いします」

「良かった。それじゃ、傷が治ったら、お願いするね」


それから数日後、村の狩人数名と森に向かった。

皆サクサクと狩って羨ましかったが、何度も何度も呼び出されるうちに捕獲数は並ぶようになった。

始めはイノシシやシカがメインであり、時々小型の魔物を討伐する事もあった。

たとえ怪我をしても彼女が見てくれる。多少の無茶は皆許してくれた。


何ヶ月か過ごして、俺は彼女に惹かれていった。

誠意ある姿。何より可愛い。

同じ年頃の女性と関わってこなかった所為でしどろもどろしてしまうけれど、俺は確かに彼女の側に居たいと思うようになっていた。


ある時、勇気を出してこの想いを告白した。

彼女は少しだけ困ったように、それでも確かに可憐な笑顔で、この誓いを受けてくれたのだ。


俺は、十分に人生を謳歌したように思う。

始めこそ嫌な思い出だったが、今になってみればアレのお陰で彼女と共にいられたと考えると、案外悪いものでは――


「ほっほ。それは良かったのぉ」


前言撤回。あの時期は俺にとって最悪だった。

だが、神よ。お前は俺に最悪な好機を与えてしまったな。

真っ白な空間から細剣を生み出し、神に向かって突き出しーー既の所で止めてしまった。


一度見た箱である。


「やり直したいとは思わんかね?」

「……一度きりじゃないのか?」

「それでも良かったんじゃがのぅ……ハズレを引いた者には機会を与えよとの決まりなのじゃ。ほれ、早く引け」


腕を突っ込んで出てきた紙片。

今度こそ最強スキルを――


『裁縫』


「くそったれがあああ!」

「ほぅれ、転生してこい」


視界が暗転した。


______________________________________


二度目の転生を経て、此方もまた謳歌できただろう。

ある商人の跡取りとして生を受け、何不自由なく暮らせた。幼馴染であった隣の工場の女性とも結ばれ、丈夫な子供たちに看取られた最期だった。


「なんじゃ。随分楽しんどるようで良かったのぉ。羨ましいわい」

「……お前が一番楽しそうなのが腹立つんだよ」

「知らんのぉ。ほれ、もう一回じゃ。今度こそアタリを引くんじゃぞ」


腕を突っ込んで手繰り寄せた紙片。

期待を胸に開いて見れば、


『裁縫』


この時、俺の中で何かが壊れる音が聴こえた。

そこで俺の意識は一度途絶える。


目が覚めた時、俺の目の前には穴だらけの球が転がっていた。不細工な球だ。サッカーの要領で軽く蹴飛ばしてやる。


『神格の消失を確認

 討伐者に神格を付与します

 ……成功しました

 続いて【簒奪者】の称号を付与します

 成功しました

 所持スキル『裁縫』は『神縫』に進化しました

 

 終了します』


突如響き渡った無感情な音声。

そして同時に光を失った足元の球。

先程の音声を反芻し、状況を整理する。


「――くくっ」


ようやく……ようやく俺は最強のスキルを手に入れたのか。

あぁ、力が漲ってくる。なんて心地の良い気分なんだ。

あぁ、世界よ!俺の力に震えるが良い!!





______________________________________

             後書き、と言う名の言い訳

 先にここまで読んでくれたことに感謝する。そして謝罪する。

私は今回ラノベらしく書けるかやってみたものの、完成した作品はこの有様。簡素なつくりで、ただ設定を書き連ねたような事になってしまった。全く面白くなかったでしょう?ごめんね……

 一応もしこの設定が好評なら10~15話程度で連載するけれど、その先の展開は考えるつもりなし。私は自身の作品で脳を焼かれたくないからね。簒奪者。つまりそういう事さ。

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