第6話 NとLの混同

つづいて丁までをみていくと


『爾雅』バージョン

旃tan 柔nu 兆lɯʔ 強圉(Gaṅgā)


『史記』バージョン

端tor 游lu 兆lɯʔ 彊梧(Gaṅgā)



歯音の並びについて


「唇音」の次は「歯音」となる(サンスクリットとは順序が逆だが、中国の体系――三十六字母など――は唇音から始まる。もっともこの時代=戦国期には音韻学として整備されていたわけではない)。


それでも見事に t・n・l の歯音が揃っている。


『爾雅』:旃 (t)、柔 (n)、兆 (l)、強圉 (Gaṅgā)


『史記』:端 (t)、游 (l)、兆 (l)、彊梧 (Gaṅgā)


……と言いたいところだが、『史記』では 游 lu と兆 lɯʔ が並んでいて混乱している。



n と l の混同


おそらく n と l の混同が原因である。

『爾雅』バージョンはその点きちんとしているが、端 tor、柔 nu、兆 lɯʔ、游 lu と並べると、すべて -u 系の音になるのに(端は正確にはtōrで-uに近い)、旃 tan だけ外れているのが気になる。

理想的には「端 tor、柔 nu、游 lu」の三つで並べたいところだ。

つまり「游 lu」は本来 nu とも読まれていたため、『史記』バージョンでは誤って n 系の位置に入ったのではないだろうか。


さてそうなると強圉・彊梧(Gaṅgā)とはなにものか、となるがnとlを間違いやすいとすると、これはどちらかを示すサインであると思われる。

ことによったら兆lɯʔ自体が、中古音のtɕiewHに近い音になってきたためあえてlであると表示したのかもしれない。

サンスクリットに関する本を読んでもGaṅgāが鼻音を指すか流音を指すかといった情報がないため、とりあえず『爾雅』の

柔nu 兆lɯʔ 強圉(Gaṅgā)

の並びから鼻音を指す可能性は低い、よってこの時点では流音を表すものとしておく。


よって

『爾雅』バージョン

旃t 柔n 兆l 強圉(Gaṅgā=流音?)


『史記』バージョン

端t 游n(本来はl) 兆l 彊梧(Gaṅgā=流音?)


となる。

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