年下のかわいいおねえさんに養われたい

秋乃光

episode1【完】

 目を覚ましたら、知らない天井に見守られていた。


「どぉあっはぁ!?」


 確か、俺は、


「おはよう」


 知らない女の子があいさつしてきて、回想は中断された。


 徐々に五感が起動する。ぼやけていた視界が、幾分クリアになってきた。知らない部屋には、あまくていいにおいが漂っている。


「おはよう……」


 俺の母校の制服を着た女の子だ。とっさに、掛け布団で身体を隠す。なんで俺は全裸なんだ?


 というか、なんか、あれ。

 俺の声、違う気がする。


「ん、ああ、あー」


 違う気がする!


 俺、縮んでない?

 ふとんがでかすぎるだけ……じゃないな!?


「よくねむれた?」

「どうなんでしょう……?」


 知っている要素は女の子の制服ぐらいなもので、何故ここにいるのか、っていうかここはどこなのか、どうして俺はのか、わからないことだらけ。混乱する。


 別に俺は高校生探偵ではない。デート中に黒の組織を見かけて、追いかけていったら薬を飲ませられた――とかいう、ゴールデンウィーク辺りに公開される映画のお決まりの『つかみ』のようなシチュエーションがあった、わけじゃない、はず。


「朝ごはん、ホットケーキでいいよね?」


 ワンルームにキッチン付き。この『あまくていいにおい』の正体は、ホットケーキだった。女子高生(ということにしておこう)の持っている皿の上に、焼きたてでほかほかのホットケーキがある。


 謎の女子高生の顔をよくよく見ても、どこの誰なのか思い出せない。かわいいことはわかる。せめてこの子のことがわかれば。こんなかわいい子、どこかで会っていれば覚えていそうだけども。


「君は、」

って呼んで」

「……」

「おねえちゃんって、呼んで?」


 同じ内容を、一回目は強めに、二回目はお願いするように。この子は俺に『おねえちゃん』と呼ばれたがっているが、俺は、――俺は、何をしていたんだっけ?


 い、いや、高校を卒業したのは確かだ。

 卒業式の日に、同級生に告白して、……まあなんか、当たり障りなく、ごめんね、って、断られた。


 卒業してからは、たまに高校の頃の友だちと会うことはあっても、高校に行く用事は特にこれといってなくて、この制服を着ている子を見たのは久々。駅も逆方向だし、見かけない。


「ここは、どこ?」


 質問してみよう。俺は実家暮らしだ。だったはず。だよな。自信がなくなってきた。


、は?」


 おねえちゃん呼びをしないと答えてくれないようだ。俺に姉は……いなかったと思う……。そもそも、年下のおねえちゃんって何。そんな逆転現象、起こらないよ。俺は年を取ると若返っていく、なんだっけ、あの、映画……ベンジャミンバトン? の主人公でもないんだから。


「おねえちゃん、ここはどこ?」


 仕方ないので、お望み通り、おねえちゃんと呼んでみる。どこだかわかれば、助けも呼べそうだ。ところで、俺のスマホはどこに行ったんだろう。


「ここはね、キミとおねえちゃんの家だよ!」

「はい……?」

「キミを、おねえちゃんが養ってあげる♪」

「?」

「キミは、この家で好きなことをしていていいの。家の外に出なければ、何をしていてもいいよ。欲しいものがあるなら、おねえちゃんに言ってね。おねえちゃんが全部、用意してあげるからね❤️」


 なんだそれ。

 そんなうまい話があるか。


 俺は、……いや待てよ。この姿で友だちに会ったとして、俺だってわかってもらえるか?


「俺は、俺の家に帰る!」


 友だちより警察だ。子どもが丸裸で交番に行けば、おまわりさんは保護してくれる。


 かわいいけれども、怖すぎる。何かの罠かもしれない。この女子高生と仲良くしていたら、怖いオニーサンがやってきて、ひどい目にあう――そう、ハニートラップ! ハニートラップの気配がする!


「ここがキミの家だよ?」

「だったら!」


 自称おねえちゃんが行く手を阻む。ドアから外に出られないのなら、窓から出るしかない。俺は敷き布団を担いで、窓を開けた。この家は何階にあるのか知らないが、なんか、こう、布団がいい感じにクッションになって!


「外には! !」

「ぐげっ!」

「あっ……ごめん……」

「……」


 おねえちゃんのハグで腹部が圧迫され、死ぬかと思った。それだけ強い力で俺を止めようとしてくれたってことだ。死ぬかと思ったが。


「突如として、この世界にダンジョンが現れました。ダンジョンはウイルスをまき散らし、このウイルスは、人体に不可逆的でランダムなダメージを与えます。ウイルスに適合しなかった人はゾンビとして徘徊し、適合したキミのような人には、様々なスキルをもたらしています。ってなわけで、キミの場合は『若返り』ってことね☆ おねえちゃんは、ウイルスの研究者の一人として、キミを保護します。よろしくねっ!」


 さらっと説明してくれた。なんだか大変なことになっているらしい。……ダンジョン?


「じゃあ、女子高生ではないってこと?」

「なんだよお。好きな服を着てていいじゃんかよお」

「はい……」

「制服は替えが手に入りやすいし、かわいいし」

「……」

「あ。ダンジョンについては、朝ごはんを食べてから説明してあげるね。キミ以外の適合者の中で、特に戦闘系のスキルが覚醒した人が、このダンジョンを破壊し尽くして、なおかつ、おねえちゃんみたいな研究者が、ワクチンを開発したときに、人類は勝利するってわけ❤️」

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年下のかわいいおねえさんに養われたい 秋乃光 @EM_Akino

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