第5話 俺、聖光竜を見上げる
「ようこそお越しくださいました。わたくし、セント・ルミナ教会のシスター、ミレアと申します!」
ミレアの年齢はアリシアと同じくらいだ。
銀髪のロングヘアに青く丸い瞳、背丈は140センチくらいで、こちらを見上げるように立っている。
まじめで信仰心が深く、そして…。
「お荷物お持ちいたしますね!ではご案内…ぐあぇっ」
何も無いはずの地面で何かに躓いたミレアが、俺のほうに突っ込んできた。俺はまるで感動の再会シーンみたいに、それを受け止める。
ミレアの体の感触がアリシアの体に広がる。ああ、なんて柔らかいんだ。女の子同士で抱き合うと、こんなにも心地よいのか……。いや、そもそも前世の俺も女の子を抱いたことなどないのだが。
「だ、大丈夫…?」
ミレアは、慌ててふためいて飛び上がった。
「も、申し訳ございませんっ!!!お怪我はありませんか…?ああ、本当に申し訳ございませんんん……。」
「ええ、大丈夫。ミレアこそ、怪我はない?」
もう少し堪能していたかったとか、修道服の下に隠れた設定通り豊かな胸のことなどに思いを馳せながら、伯爵令嬢の俺はミレアを気遣った。
「は、はい、わたしは大丈夫です…。ほんとうに、申し訳ございません…。」
赤面して目を逸らすその仕草は、素直にかわいらしい。
そう、ミレアは"ドジっ子シスター"だった――。
―――――――――――――――
すっかり恐縮しきったミレアに案内され、俺とエレナ、ユウシは教会へと向かった。
そういえば、俺のシナリオではミレアを受け止めるのはアリシアではなくユウシだったような…。些細な違いではあるが、もしかすると俺というノイズがこの世界のシナリオに歪みを与えている、という可能性もあるか。
そのあたりの理解はこれから深めていく必要がありそうだ。
教会の前に着くと、ひとりの初老くらいの男性が立っていた。
「おお、いらっしゃいませ、ルミナリア伯爵令嬢様。お初にお目にかかります。わたくしセント・ルミナ教会の司祭でございます、ドミニクと申します。」
「はじめまして、ドミニク。アリシア=ルミナリアです。こちらは侍女のエレナと、護衛のユウシです。」
「わざわざご足労いただき、誠に感謝申し上げます。ささ、中へ入って少しお休みください。後ほど、孤児院の方もご案内させていただきます。」
そう言ってドミニクは俺たちを教会へと招き入れた。
教会に入ると、そこは礼拝堂のようだった。高い天井には、それは立派な絵画が描かれている。中心には白く美しいドラゴンが太陽の下に羽ばたき輝いていた。
「これは…」
天井を見上げながら俺が呟くと、ドミニクが、ああ、と同じく天井を見上げながら、話し始めた。
「立派でしょう。ルクシオンほどではありませんが、ここアウレリアの国の中にもこうした絵画はいくつか残されているのです。ルクシオンに次いで、古くからルーラ教のご加護があった地だと言われております。」
アウレリア王国――ルミナリア領が属する国だ。
ルーラ教を国境とし、聖地でもある隣国のルクシオン神聖国の名を挙げて、ドミニクは誇らしげだった。
「ええ、話には聞いていましたが、このような街の教会にも根付いているのですね。」
「このような貴重なものを維持できているのも、ルミナリア伯爵のご支援あってのことです故、本当に感謝しております。」
そう言ってドミニクは俺に頭を下げる。
「あの、このドラゴンは…?」
ユウシは話についていけないという様子でドミニクとミレアに問いかけた。
ミレアが出番だと言わんばかりに話し始める。
「その昔、世界は2体のドラゴン、聖光竜さまと邪竜によって分断されていました。ある日、邪竜は世界を闇で覆い尽くそうとしますが、聖光竜さまがそれを打ち破り、世界に光をもたらしたのです。それを機に聖光竜さまは眠りにつくのですが、そのご加護を後世に伝え残していくため、聖光竜さま…主と、主がもたらした光を信仰するのが我々ルーラ教なのです。」
ドミニクが続けた。
「その聖光竜が眠る地と言い伝えられているのが、ルクシオンの首都・サンクティアであり、我々の本山でもあるサンクティア大聖堂なのですな。」
「ドラゴンが神様、ってことか…。」
ユウシもその絵画に圧倒された様子で、しばらく天井を眺めていた。
ミレアも天井を眺め、胸に手を当てながら噛み締めるように続ける。
「私、この教会の孤児院にいたんです。両親の顔も分からなくて、捨てられたんだろうな、って。世界が怖かった。でも教会で司祭さまの話を聞いて、おひさまの光は聖光竜さまのご加護なんだって。今も私達を包み守ってくれているんだって知って。それからは何も怖いものなんてなくなったんです。主が残した光が、今も世界と、私たちの心を照らしてくれているんです。……ってすみません!私の話なんて興味ないですよねっ!!」
ミレアはまた赤面して慌てていた。
「ううん、素敵だと思う。ミレアにとっては聖光竜さまがお母さん…みたいなものなのかもしれないね。」
俺は思うまま、ミレアに言った。
「お母さんだなんて恐れ多いです…!でも、そうですね、私を守ってくれる方、なんです。えへへ…。」
ミレアは照れたように、でも嬉しそうに、また天井を眺めていた。
そんなミレアに温かな眼差しを向けていたドミニクは、ミレアの頭にポンと手を載せた。
「さ、応接室はこちらになります。どうぞ。」
俺たちはドミニクに案内され、応接室に入った。
―――――――――――――――――
「少々準備をして参りますので、恐れ入りますがこちらでお休みになられていてください。」
ドミニクはそう言って応接室を出た。
ミレアはいそいそとお茶を用意したり、茶菓子を用意したり、おもてなしをしてくれている。熱いものを持っているときなどは大層ヒヤヒヤさせてくれるが。
ミレアルートの先取点は
だが、このあとミレアを惚れさせるには、アリシアという女性を恋愛対象として認識させなければならない。母でも姉でも友人でもなく、あくまで俺を好きにさせたいのだ。その点ではやはりユウシに分があることは確かだろう。何か作戦を練らなければ…。
「何か難しい顔をされていますね。何か気になることでも?」
ユウシが俺に話しかけてきた。
「ひあえっ!?い、いいえ!なんでもないですよ。ええ、なんでも。」
急なことに素頓狂な声を上げてしまった。まさかユウシに恋のライバル宣言なんてするわけにもいかない。
「そ、そうですか…?」
ユウシは訝しげにこちらを見ている。
「アリシア様が変な考え事をしているなんて、よくあることですからね。そしてその後はロクなことにならないから。ユウシさんもお気をつけて。」
エレナが俺のほうを横目に見ながら、ユウシに言った。
「はは、そうなんだ。肝に銘じておきます。」
「もう。エレナまで…。なんでもないの!」
その時、扉が勢いよく開いて、ドミニクが入ってきた。その顔は青ざめている。
「た、大変です!!!孤児院が…!」
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毎週 土曜日 19:00 予定は変更される可能性があります
自作小説のヒロインに転生したので、俺ルートは全力回避で百合ハーレム作ります! 世鳴ソバ @yonaki_soba
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