夜明けの鳥
@requiem_
プロローグ
例えば、夢見る時がある。
大きな白い羽を持った鳥が一羽、僕に向かって飛んでくる。
その見たこともない鳥が僕に近づき、朝日のような眩しく優しい微笑みをふわーと浮かべ話しかける。「大丈夫だよ。君はもう大丈夫。私が助けるから」その瞬間、涙が頬を伝った。僕はその大きな瞳に問いかける。「ここはどこ?あなたは誰?」するとその鳥は僕を優しく包み込んだ。涙が溢れて視界が滲む。まるで湧水みたいに身体中に広がっていく。「離れたくない、ずっとこのままでいたい。」ただその感情だけが今の僕を生み出している。するとその白い鳥は僕の胸に手を当て、火照命を灯した。そして来た時と同じように大きくて白い羽を羽ばたかせながら遥か彼方へ飛び立っていった。僕はその鳥にもう一度逢いたい。目が覚めてもずっと一緒にいたい。そんな奇蹟が起きればいいのにとずっと願っている。そんな奇蹟が起きないことは、分かっている。
カーカー、けたたましい鳥の囀りとともに黎明を告げる。目を覚ました時、僕は窓の外のその鳥の鳴き声をぼんやりと聞いていた。病院特有の強い毒液の匂い、ピコン、ピコン、無機質で不快な機械音が耳に響く。横たわったまま見上げたそこには白く光る無影灯がある。生きている、心臓は確かな鼓動を繰り返している。意識を集中させると、内部から音が聞こえてくるようだ。無数の細い針が刺さった手首を胸に置くといつもと同じ、静かで規則的な動きが伝わってくる。そしてようやく置かれた状況が理解できた。おそらくここは救急外来だろう。先ほどまで救命医から懸命な心臓マッサージを施されていた少年は15歳という若さにして命を落とした。はずだった。。そんな消え入りそうだった少年の命の灯火は今激しく燃えている。「どうして、こんなことが」目頭が熱くなって頬が濡れた。気づけば涙が溢れていた。この涙は嬉しいからじゃない、悲しいんだ。僕は心の中で叫んだ。「誰なんだ。死の淵にいた僕に声をかけてくれたのは、誰なんだ。僕を死の苦しみから救い出してくれたのは、」そのときだ。「成功したんだな、」どこからともなく男の声が聞こえた、医師や看護師ではない。脳に直接語りかけているような重い響きを持った不思議な声だ。「誰だ!」その声の方へ顔を向けると驚きのあまり目を見開いた。そこには黒のフードローブを着た骸骨が立っていたのだ。僕は一瞬焦った。ここは地獄では無いのかと、やっぱり僕は死んでいるのかと、だがその不安は一瞬にして覚めた。その骸骨のようなものは巧妙にできた仮面だっだ。黒い男が仮面とフードをとるとそこには20代前半のような、青年のような若人を感じさせるものがあった。軽くウェーブのかかった黒髪にヘーゼルアイの瞳、スッと通った鼻筋の下には薄い唇がある。整った顔立ちが印象的な男だ。だが僕はこの男の正体がまるで分からない、僕は恐る恐る聞いた、「成功した?どういうことだ?お前は誰だ!」「うるさい、男が喚くな見苦しい」そう言い放つと黒い男は一瞬にして僕が寝ているベッドの脇に移動してきた。どうやったのかは知らない、ただ全く見えなかった。こんなSF映画みたいなことが起こっているのに、僕がそれほど驚かないのには理由がある。まず周りの人にはこの黒い男が見えていないということ。そして僕たちは今、口を開かずにお互い意思疎通を図っているということ。そして今気づいたが、その黒い男には影がないということ。だからこの黒い男が何をしようとさほど驚きはしないのだ。まさに信じ難き事実。すると黒い男が突然しゃべり出した。「生きているのが不思議か?当然だ。お前は本来、ここにはいないはずの存在だからな。だが奇跡と呼ぶにはあまりにも都合が良すぎだとは思わないか?覚えておけ青年。命は等価だ。何かが生き延びるとき必ず何かが失われる。誰が何を差し出して、お前を生かしたのか。もし覚悟があるならお前の身に起こった全てを見せてやる。」僕はこの黒い男がいい加減な事を言っているとは思えなかった。なぜならその黒い男の瞳は少しも濁っていなかったのだから。
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