『俺達のグレートなキャンプ104 新しい星座を見つけるか!』
海山純平
第104話 新しい星座を見つけるか!
俺達のグレートなキャンプ104 新しい星座を見つけるか!
夕暮れ時の山間キャンプ場に、焚き火の煙がゆらゆらと立ち上る。オレンジ色の炎が薪をパチパチと音を立てながら燃やし、その周りに三つの影が座っている。石川は両手を広げて夜空を仰ぎ、目を輝かせていた。
「よーし!今夜も『グレートなキャンプ』の時間だぁ!」
石川の大声が山にこだまし、近くでコーヒーを飲んでいたソロキャンパーのおじさんがカップを取り落とした。コーヒーが地面に染み込んでいく。
「石川、声が大きすぎるわよ…」
富山が眉をひそめて石川の袖を引っ張る。彼女の顔には既に心配の色が浮かんでいる。しかし石川の興奮は止まらない。彼の瞳は既に星が瞬き始めた夜空に向けられ、キラキラと輝いている。
「今回の暇つぶしはなんと!『新しい星座を見つける』だ!」
千葉がマシュマロを焼いていた串を空中で振り回し、目を丸くする。
「え!?星座って…あの星座!?空にある本物の!?」
「そうだ!88個しかない星座なんて少なすぎる!俺たちが新しいのを発見して、世界に名前を轟かせるんだ!」
石川がガッツポーズを決める。その勢いで焚き火の煙がくるくると舞い上がった。
富山が額に手を当ててため息をつく。彼女の肩がガクリと落ちた。
「ちょっと待ってよ…星座って、もう全部天文学者が調べ尽くしてるんじゃないの?素人が新しく見つけるなんて…」
「富山ちゃん!そんな後ろ向きじゃダメダメ〜!」
石川が富山の肩をバンバンと叩く。富山の体が左右に揺れる。
「コロンブスだって『地球は丸い』って言われて笑われたけど、アメリカ大陸発見したじゃん!」
「それ全然違う話でしょ!」
富山がツッコミを入れるが、千葉は既に完全に乗り気になっている。彼の瞳は好奇心で輝いていた。
「うおぉぉぉ!めっちゃロマンがある!『千葉座』とか『石川座』とか!」
千葉が飛び跳ねる。その拍子にマシュマロが串から飛んで、隣のテントの方向に放物線を描いて飛んでいく。テントの向こうから「何だ?」という困惑した声が聞こえてきた。
「あ、マシュマロが…すみませ〜ん!」
富山が慌てて隣のテントに謝りに走っていく間、石川と千葉は既に観測準備を始めていた。
石川がリュックから古ぼけた双眼鏡と、手作り感満載の星座早見盤を取り出す。星座早見盤は段ボールで作られており、所々にガムテープが貼られている。
「よし!これで完璧だ!」
「石川、それ小学校の工作みたいだけど大丈夫?」
千葉が心配そうに早見盤を覗き込む。
「大丈夫大丈夫!手作りの方が愛着湧くじゃん!」
石川が早見盤をくるくると回すたびに、ガムテープの部分がペリペリと音を立てる。
富山が戻ってくると、二人は既に夜空を見上げて何かをブツブツと呟いていた。
「お疲れさま…で、何してるの?」
「星座探し開始!まずは既存の星座を確認だ!」
石川が双眼鏡を覗きながら空を見上げる。しかし双眼鏡の向きが明らかにおかしい。レンズが下向きになっている。
「石川、双眼鏡逆さまよ…」
「え?あ、本当だ!」
石川が双眼鏡をひっくり返す。今度は正しい向きになった。
「よし!まずはカシオペア座から…あ、あった!Wの形だ!」
「どこどこ?」
千葉が石川の隣に駆け寄る。
「あそこ!あの…えーっと…」
石川が指差した方向には、確かにW字型に星が並んでいる。
「おお!本当だ!すげー!」
千葉が感動の声を上げる。富山も釣られて空を見上げた。
「あら、本当にあるのね…」
「でしょ?じゃあ次は…北斗七星!」
石川が早見盤をくるくる回しながら、別の方向を指差す。そこには確かにひしゃくの形をした七つの星が並んでいた。
「すげぇ!本当に柄杓の形してる!」
千葉が興奮して手をパチパチと叩く。その音が静かなキャンプ場に響いた。
三人が既存の星座確認に夢中になっていると、周囲のキャンパーたちがざわざわと騒ぎ始める。
「あそこのテント、星見してるのかな?」
「双眼鏡まで持ってるね」
そんな声が聞こえてくる。
「よし!既存の星座は確認完了!いよいよ新発見の時間だ!」
石川が双眼鏡を構え直し、既知の星座の隙間を丹念に探し始める。千葉も肉眼で必死に空を見つめている。富山は半信半疑ながらも、なんとなく空を眺めていた。
十分ほど経過した頃、千葉が突然声を上げた。
「あ!あそこ!あの星の並び、何かの形に見えない?」
千葉が指差した方向を見ると、確かに四つの星が菱形に近い形で並んでいる。
「おお!本当だ!これは…これは…」
石川が双眼鏡で確認する。
「うん!確実に何かの形だ!でも何の形だろう?」
三人が首をひねって考え込む。
「菱形…ひし形…」
「凧?」
「いや、もうちょっと潰れてる感じ…」
「お餅?」
「お餅座って…なんか微妙じゃない?」
石川が頭を掻く。髪の毛がぼさぼさになった。
「あ、でも待って!」
富山が突然声を上げる。
「よく見ると、真ん中にもう一つ小さい星があるわ!」
確かに菱形の中央に、薄っすらと小さな星が光っている。
「本当だ!じゃあ…目玉焼き?」
千葉が提案すると、石川と富山が同時に首を振る。
「目玉焼き座はないでしょ…」
「うーん…真ん中に点があるもの…」
三人が再び考え込む。焚き火がパチンと音を立てて火花を散らした。
「あ!わかった!」
石川が手を叩く。
「花!お花の形だ!花びらが四枚で、真ん中におしべがある!」
「おお!それだ!『お花座』!」
千葉が興奮して立ち上がる。
「でも…『お花座』って名前、ちょっと単純すぎない?」
富山が遠慮がちに口を挟む。
「じゃあ…『桜座』は?」
「桜の花びらは五枚よ」
「『梅座』?」
「梅も五枚」
「『椿座』?」
「椿も…」
三人が再び頭を抱える。名前を決めるのが星座発見より難しいことに気づき始めた。
「いっそのこと『四枚花びら座』は?」
千葉が苦し紛れに提案する。
「長すぎる!」
石川と富山が同時にツッコむ。
その時、隣のテントから声がかかった。
「あの…何を議論してるんですか?」
振り返ると、さっきマシュマロが飛んでいった中年男性が顔を出している。頭にまだマシュマロの破片がついていた。
「あ、すみません!新しい星座を発見したんですけど、名前が決まらなくて…」
石川が正直に答える。
「星座?」
男性が興味深そうに近づいてくる。
「あそこです!あの四つの星と真ん中の小さい星!」
千葉が指差して説明する。
男性が空を見上げて、しばらく考えた後、ポンと手を叩いた。
「あー!あれね!あれは『ぼたん座』よ!」
「ぼたん?」
「牡丹の花。四枚の花びらで真ん中におしべがある。立派な花だよ」
男性が得意げに説明する。
「おお!ぼたん座!いいじゃん!」
石川が納得したように頷く。
「でも待って、これって本当に新しい星座なのかしら?」
富山が心配そうに呟く。
「大丈夫だよ!俺が子供の頃から星を見てるけど、その並びは気づかなかった」
男性が太鼓判を押す。
「よーし!『ぼたん座』発見記念に乾杯だ!」
石川がペットボトルのお茶を取り出す。
三人と男性でお茶で乾杯をしていると、さらに周囲のキャンパーたちが集まってきた。
「星座発見ですって?」
「どこですか?」
「私にも見せてください!」
あっという間に十人近くのキャンパーが集まった。石川は大満足の笑顔で説明を始める。
「えーっと、あそこの四つの星と真ん中の小さい星で『ぼたん座』です!」
「あー!本当だ!花の形に見える!」
「きれい!」
みんなが感動の声を上げる。
調子に乗った石川は、さらに空を探し始めた。
「よーし!第二弾だ!他にもないかな?」
「あ!あそこ!」
今度は主婦らしい女性が指差した。
「あの三つの星、三角形になってる!」
確かに三つの星がほぼ正三角形を作っている。
「おお!これも新発見だ!」
石川が双眼鏡で確認する。
「でも三角形って…何座にしよう?」
またも命名問題が発生した。
「三角座?」
「もうある」
「サンドイッチ座?」
「なんで?」
「三角だから…」
みんなで頭を悩ませていると、小学生らしい男の子が手を上げた。
「おにぎり!」
「おにぎり座!」
みんなが感嘆の声を上げる。
「それだ!『おにぎり座』!」
石川が大興奮で叫ぶ。
「でも…おにぎり座って…」
富山が複雑な表情を浮かべる。
「いいじゃん!親しみやすくて!」
千葉が賛成する。
こうして『おにぎり座』も正式に認定された。
調子に乗ったキャンパーたちは、次々と空の星を探し始めた。
「あそこの五つの星、Hの形に見えません?」
「本当だ!『エイチ座』!」
「あそこの星の並び、靴に見える!」
「『くつ座』発見!」
「あの星とあの星をつなぐと、釣り竿の形に!」
「『つりざお座』!」
星座発見ラッシュが始まった。しかし、名前を決める度に議論が白熱する。
「『エイチ座』って、もうちょっとかっこいい名前ないかな?」
「『門座』は?Hって門に見えない?」
「おお!『門座』!」
「『くつ座』も…『長靴座』?」
「『ブーツ座』の方がおしゃれじゃない?」
「でもカタカナはちょっと…」
命名会議が延々と続く。気がつくと夜も更けて、気温が下がってきた。みんな焚き火の周りに集まって、温まりながら星座談義を続けている。
「結局、今夜は何個発見したんだ?」
石川が指を折って数える。
「『ぼたん座』『おにぎり座』『門座』『長靴座』『つりざお座』…あと『やかん座』と『めがね座』!全部で七個!」
「すげー!俺たち歴史に名前残るんじゃない?」
千葉が興奮して跳ね上がる。
「でも…本当にこれ、新発見なのかしら?」
富山がまだ心配そうにしている。
その時、キャンプ場の管理人がやってきた。懐中電灯を持って、困ったような表情を浮かべている。
「あの…皆さん…ちょっとお聞きしたいことが…」
みんなが振り返る。
「星座を発見されたとお聞きしましたが…」
「はい!七個も発見しました!」
石川が得意げに答える。
「あの…実は…」
管理人が申し訳なさそうに続ける。
「その星座たち、全部既に名前がついてるんです…」
一同、シーンと静まり返る。
「え?」
「『ぼたん座』は『りょうけん座』の一部、『おにぎり座』は『こぐま座』の尻尾の部分、『門座』は『ヘルクレス座』の腰のあたり…」
管理人が詳しく説明する。
「そ、そんな…」
みんなの顔が青ざめる。
しかし石川だけは、なぜかニコニコしている。
「いいじゃん!」
「え?」
「俺たちは俺たちの星座を見つけたんだ!既存の星座の中に隠れてた、新しい見方を発見したんだよ!」
石川の言葉にみんなの表情が明るくなる。
「そうか!新しい視点での星座発見だ!」
「これはこれで価値がある!」
「『隠れ星座』ってことね!」
みんなが再び盛り上がる。
管理人も困ったような、でも楽しそうな表情を浮かべた。
「まあ…静かにしていただければ…他のお客様も寝ておられますので…」
「はーい!」
みんなが小声になるが、テンションは相変わらず高い。
深夜になって、星座観測会もひと段落。他のキャンパーたちが自分のテントに戻っていく。
「楽しかった!」
「また明日もやりましょう!」
「今度は『隠れ星座』専門で探そう!」
みんなが満足そうな表情で帰っていく。
三人だけになった焚き火の前で、石川がマシュマロを焼きながら振り返る。
「いやー、まさか七個も見つけるとは思わなかった!」
「でも全部既存の星座だったけどね…」
富山がため息をつくが、その表情は穏やかだ。
「でもさ、みんな楽しそうだったじゃん!それが一番大事だよ!」
千葉がマシュマロにかぶりつく。
「そうそう!『グレートなキャンプ』ってのは、みんなを巻き込んで楽しくすることなんだ!」
石川が得意げに胸を張る。
「まあ…今日は確かに楽しかったわね」
富山が素直に認める。
「よーし!明日は『隠れ星座』の続きをやろう!今度は動物シリーズで!」
石川が突然立ち上がる。
「また?」
富山と千葉が同時にツッコむ。
「もちろん!『パンダ座』とか『キリン座』とか!」
「キリン座は既にあるわよ…」
「じゃあ『コアラ座』!」
石川の興奮は止まらない。
翌朝、テントから顔を出すと、昨日知り合ったキャンパーたちが石川たちのテントの前で待っている。手には双眼鏡や星座早見盤を持っている。
「おはよう!今日は動物の隠れ星座だって?」
「私も参加します!」
「双眼鏡買ってきました!」
石川が大満足の笑顔で腕組みをする。
「よーし!今日も『グレートなキャンプ105』の始まりだ!」
「また数字が増えてる…」
富山が頭を抱える中、千葉は既に青空を見上げて雲の形を探し始めている。
「あ!あの雲、コアラに見えない?」
「それは昼の部だ!『隠れ雲座』発見!」
キャンプ場に再び賑やかな声が響く。今日もまた、石川たちのグレートなキャンプが始まろうとしていた。
結局、本当の新星座は発見できなかったが、みんなで星空を見上げて楽しむという、もっと大切なものを発見した一夜だった。そして石川の『グレートなキャンプ』は、また新たな伝説を作り上げていくのだった。
『俺達のグレートなキャンプ104 新しい星座を見つけるか!』 海山純平 @umiyama117
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