『俺達のグレートなキャンプ103 昆虫食を布教!ニイニイゼミ素揚げ(100kg)』
海山純平
第103話 昆虫食を布教!ニイニイゼミの素揚げ(100kg)
俺達のグレートなキャンプ103 昆虫食を布教!ニイニイゼミの素揚げ(100kg)
「よし!今日はやるぞー!」
石川の声が夏の森林に響き渡った。彼の目はキラキラと輝き、まるで宝物を発見した子供のような表情だ。手には巨大なフライパンを握りしめている。いや、よく見ればそれはフライパンではない。中華料理店で使われるような直径80センチはありそうな業務用の中華鍋だ。
(石川、両手で中華鍋を天高く掲げながら)「見ろ!この特注の超ビッグ中華鍋!重量15キロ!これがあれば100キロのニイニイゼミも一気に揚げられる!」
千葉は目を丸くして驚嘆の声を上げる。「うおおお!すげー!石川さん、どこでそんなもの手に入れたんですか!?」彼の瞳は純粋な好奇心で満ちあふれ、まるで師匠の技を見つめる弟子のようだ。
一方、富山は顔面蒼白で両手を頭に当てている。「ちょっと待って石川!100キロって...100キロよ?!ニイニイゼミを100キロって一体何匹になるのよ!?」声は上ずり、額には早くも汗が浮かんでいる。
石川はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。「計算したぞ富山!ニイニイゼミ1匹約0.5グラム。つまり...」指を立てて天を指す仕草。「20万匹だ!」
「にじゅうまんびき!?」千葉と富山の声が見事にハモった。
キャンプ場の他の利用者たちも、この異様な光景に気づき始めている。隣のサイトの家族連れは、お父さんが缶ビールを持ったまま固まり、お母さんは子供たちを自分の後ろにかばうような仕勢をとっている。向かいのサイトのソロキャンパーの男性は、焚き火の薪を持ったまま口をぽかんと開けている。
「石川よ...」富山は深いため息をつく。「今度こそ他のキャンパーさんたちから苦情が来るわよ...」
「大丈夫だって!昆虫食は未来の食文化だぞ!みんなもきっと興味深々さ!」石川は楽観的に手をひらひら振る。
その時、森の奥から「ニイニイニイニイ...」という鳴き声が聞こえてきた。
千葉が耳をそばだてる。「あ!聞こえますよ石川さん!ニイニイゼミの鳴き声!」
「よし!作戦開始だ!」石川は迷彩柄のバンダナを頭に巻き、まるで戦場に向かう兵士のような表情になる。「富山、油の準備!千葉、捕獲網の配布!」
富山は観念したような表情で巨大なポリタンクから油を中華鍋に注ぎ始める。ドボドボと音を立てて流れる大量の油。「はあ...なんで私こんなことやってるのかしら...」ぶつぶつとつぶやきながらも手は止まらない。
千葉は興奮で頬を紅潮させながら、虫取り網を次々と地面に並べていく。「石川さん!網、50本用意完了です!」
「よーし!みんな、聞いてくれ!」石川は中華鍋の前に仁王立ちし、両手を広げる。「今日我々は歴史を作る!日本初!いや、世界初かもしれない!ニイニイゼミ100キロ素揚げプロジェクトの開始だ!」
隣のサイトの小学生の男の子が目をキラキラさせながら近づいてくる。「おじちゃん!虫を食べるの?」
石川の目がさらに輝く。「そうだ少年!昆虫食は栄養満点!タンパク質豊富で環境にも優しい!」
男の子の母親が慌てて駆け寄る。「すみません!勝手に...」
「いえいえ!お構いなく!」石川は人懐っこい笑顔で手を振る。「お子さんも一緒にどうですか?食育にもなりますよ!」
母親の顔が青ざめる。「け、結構です...」
富山が石川の袖を引っ張る。「石川、人様を巻き込まないで...」
しかし石川はもう止まらない。「さあ!第一班、樹木からのニイニイゼミ採集開始!」
千葉は虫取り網を両手に持ち、まるでサムライが刀を構えるような格好で木に向かっていく。「はい!」
森の中で「ニイニイニイニイ...」という鳴き声に混じって「そーれ!」「おっと!」「逃げられた!」という人間の声が響く。
30分後。
「石川さーん!第一回収穫です!」千葉が息を切らしながら戻ってくる。虫かごには5匹ほどのニイニイゼミがいる。
石川は虫かごを覗き込む。「うむ...5匹か。ということは2.5グラム...」暗算し始める。「100キロまであと...99キロ997.5グラム...」
富山がガクッと膝をつく。「無理よ石川...どう考えても無理よ...」
「弱気になるな富山!」石川は力こぶを作って見せる。「俺たちには時間がある!夕方まで...」腕時計を見る。「あと8時間もある!」
その時、キャンプ場の管理人のおじさんがゆっくりと歩いてきた。手にはメガホンを持っている。表情は困惑と心配が入り混じったような複雑な顔だ。
「えーっと...石川さんでしたっけ?」
石川は満面の笑顔で振り返る。「はい!いつもお世話になってます!」
「あの...何をされているんですか?他のお客さんから...その...」管理人は言葉を選んでいる。
「昆虫食の普及活動です!」石川は胸を張る。「これからの時代、タンパク質不足解決の切り札ですよ!」
管理人は額の汗を拭う。「そ、そうですか...でも、あの...火気の使用には注意していただいて...」
「もちろんです!」石川は中華鍋を指す。「ちゃんと安全な場所に設置してますし、消火器も3本用意してます!」
確かに中華鍋の周りには消火器が3本、まるで護衛のように配置されている。さらにバケツに入った砂まで用意されている。
千葉が虫取り網を振り回しながら叫ぶ。「管理人さんも一緒にやりませんか!?すっごく楽しいですよ!」
管理人の顔がさらに困惑する。「い、いえ...遠慮しておきます...」
「第二班、出動!」石川の声が響く。
今度は富山も観念したような表情で虫取り網を手に取る。「やるなら早く終わらせましょう...」
1時間後。
「成果報告!」千葉が汗だくで戻ってくる。「合計23匹です!」
石川が計算する。「23匹...11.5グラム...あと99キロ988.5グラム...」
富山が地面にぺたりと座り込む。「石川...現実を見なさいよ...」
「まだまだ!」石川は諦めない。「作戦変更だ!夜の部もある!ニイニイゼミは夜も活動するからな!」
隣のサイトから小さな拍手が聞こえる。さっきの小学生の男の子だ。「おじちゃん、頑張って!」
石川の目がさらに輝く。「見たか富山!応援されてるぞ!」
男の子の父親が慌てて息子を引っ張る。「こら、あまりご迷惑をかけちゃいけません...」
「全然迷惑じゃないです!」石川は手をぶんぶん振る。「むしろ励みになります!」
2時間後。
キャンプサイトには小さな山ができていた。虫かごの山だ。中には捕獲されたニイニイゼミたちがいる。
千葉は満足そうに汗を拭う。「石川さん!合計78匹になりました!」
石川が電卓を叩く。「78匹...39グラム...」電卓を見つめる。「あと...99キロ961グラム...」
富山が虚ろな目でつぶやく。「まだ0.04%しか達成してない...」
その時、意外なことが起こった。
「すみません...」
振り返ると、向かいのサイトのソロキャンパーの男性が恐る恐る近づいてきた。30代くらいの眼鏡をかけた真面目そうな人だ。
「何か?」石川が振り返る。
男性は緊張した様子で口を開く。「あの...昆虫食...興味があるんです...」
石川の顔がパアッと明るくなる。「おお!同志発見!」
「実は...」男性は眼鏡を直す。「大学で昆虫学を専攻してまして...食用昆虫の研究も少し...」
千葉が飛び跳ねる。「すげー!専門家だ!」
富山も少し興味深そうに顔を上げる。「へえ...」
男性は照れくさそうに頭をかく。「田中と申します。あの...もしよろしければ、お手伝いを...」
「大歓迎だ田中さん!」石川は力強く握手する。「石川です!こちら千葉、富山!」
田中は虫かごを覗き込む。「おお...立派なニイニイゼミですね。ただ...100キロは現実的ではないかもしれません...」
石川の表情が一瞬曇るが、すぐに笑顔を取り戻す。「じゃあ現実的な目標設定をしよう!田中さん、どのくらいが適正だと思います?」
田中は真剣に考える。「そうですね...4人で1日でしたら...1キロが限界かと...」
「1キロ!」石川の目が再び輝く。「よし!目標変更!ニイニイゼミ1キロ素揚げプロジェクト開始!」
千葉が拳を突き上げる。「やったー!これなら達成できそう!」
富山もほっとした表情になる。「それなら...なんとかなりそうね...」
4時間後。
キャンプサイトには甘い香りが漂っていた。中華鍋からは「ジュウジュウ」という音が響いている。
「おお!いい音だ!」石川が興奮しながら中華鍋を覗き込む。
田中が科学者のような真剣な表情でストップウォッチを見ている。「揚げ時間3分経過。そろそろです。」
千葉が皿を並べる。「わくわくする!人生初の昆虫食だ!」
富山は複雑な表情で様子を見ている。「本当に食べるのね...」
「よし!上がったぞ!」石川が網じゃくしでニイニイゼミをすくい上げる。キツネ色にカラッと揚がったニイニイゼミがお皿に盛られる。
田中が塩をパラパラとかける。「塩だけでも十分美味しいはずです。」
「いただきまーす!」
四人の声がハモった。
石川が最初にパクリと口に入れる。咀嚼音。「お!」顔がパッと明るくなる。「うまい!サクサクしてて、ちょっとエビみたいな味がする!」
千葉も恐る恐る口に入れる。「...あ!意外と普通に食べられる!むしろ美味しい!」
田中は満足そうにうなずく。「そうでしょう。昆虫食は偏見を持たずに食べれば、とても美味しいんです。」
富山だけがまだ躊躇している。「うーん...」
その時、また意外なことが起こった。
「すみません...僕たちも...」
振り返ると、隣のサイトの家族連れが恐る恐る近づいてきた。さっきの小学生の男の子が先頭に立って、お父さんとお母さんが後ろからついてくる。
「息子がどうしても食べてみたいと言って...」お父さんが苦笑いする。
石川の顔が喜びで輝く。「もちろんです!どうぞどうぞ!」
小学生の男の子が目をキラキラさせながらニイニイゼミの素揚げを見つめる。「うわー!本当に虫を食べるんだ!」
お母さんは顔を青くしているが、息子の好奇心を止められずにいる。「大丈夫なんでしょうか...」
田中が優しく説明する。「はい、昆虫は栄養価が高く、世界中で食べられています。安全ですよ。」
男の子が勇敢にも一匹手に取る。「いただきます!」パクリ。
しばらく噛んでから、男の子の顔がパアッと明るくなる。「美味しい!本当にエビの味がする!」
お父さんも恐る恐る一匹食べてみる。「...確かに。思っていたより全然普通に食べられますね。」
お母さんだけは最後まで躊躇していたが、家族の「美味しい」の声に押されて、ついに一匹口に入れる。「...あ、れ?本当に普通...」
石川は満足そうに周りを見回す。「どうだ富山!みんな美味しく食べてるぞ!」
富山もついに観念して一匹食べる。咀嚼。「...まあ、確かに食べられないことはないわね...」
するとまた別のサイトからも人がやってきた。若いカップル、中年の夫婦、大学生のグループ。次々と集まってくる人たち。
「昆虫食って聞いたんですけど...」
「テレビで見たことがあるんです」
「興味があったんですよね」
気がつくと、石川たちのサイトは人だかりができていた。
石川は大興奮で中華鍋を振り回す。「よし!みんなで昆虫食パーティーだ!」
千葉も興奮して虫取り網を振り上げる。「僕、もっと捕まえてきます!」
田中が冷静に計算する。「これだけの人数だと、もう少し材料が必要ですね。」
富山はようやく笑顔になる。「まさか本当にみんなで楽しめるなんて...」
キャンプ場の管理人も遠くから様子を見ている。最初は困っていたが、今は微笑ましそうに見守っている。
夕方。
キャンプ場の一角で、石川たちを中心とした大きな輪ができていた。子供からお年寄りまで、約20人の人がニイニイゼミの素揚げを囲んで楽しそうに食べている。
「乾杯!」
缶ビール、お茶、ジュース、それぞれの飲み物で乾杯の音が響く。
石川は感動で目を潤ませている。「みんな...ありがとう...俺の夢が叶った...」
千葉が石川の肩を叩く。「石川さんの『奇抜でグレートなキャンプ』、今回も大成功ですね!」
田中が眼鏡を光らせる。「昆虫食の普及に、こんなに貢献できるとは思いませんでした。」
富山も満足そうにうなずく。「100キロは無理だったけど、結果的に一番良い形になったわね。」
小学生の男の子が石川に駆け寄る。「おじちゃん!今度はバッタも食べてみたい!」
石川の顔がニヤリと不敵な笑みになる。「よし!次回予告だ!『俺達のグレートなキャンプ104 バッタ軍団襲来!トノサマバッタの天ぷら祭り』!」
富山が頭を抱える。「もう...また何か企んでる...」
千葉が拳を突き上げる。「やったー!次回も楽しそう!」
夜空には星が輝き始め、キャンプファイヤーの炎が踊っている。その周りで、年齢も性別も様々な人たちが一つの輪になって、昆虫食という新しい体験を共有している。
石川は星空を見上げながらつぶやく。「食べ物って不思議だな。最初は『気持ち悪い』って思ってても、みんなで食べると美味しくなる。」
田中がうなずく。「そうですね。食事は文化であり、コミュニケーションでもありますから。」
千葉が満腹でお腹をさすりながら言う。「今日一日で、僕の価値観が変わりました。見た目で判断しちゃいけないんですね。」
富山も微笑みながら空を見上げる。「確かにね。石川の突飛なアイデアも、結果的にはみんなを笑顔にしてる。」
キャンプファイヤーの火が「パチパチ」と音を立てる中、石川は立ち上がる。
「みんな!今日はありがとう!」石川の声が夜空に響く。「食べ物に国境はない!昆虫食に偏見はない!美味しいものは美味しい!そして...」
一呼吸置いて、満面の笑みで叫ぶ。
「『どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる』!」
「おおー!」
参加者全員の歓声が星空に響いた。
遠くから見ていたキャンプ場の管理人も、思わず拍手していた。
こうして、石川たちの『俺達のグレートなキャンプ103』は、予想を遥かに超えた大成功で幕を閉じた。100キロのニイニイゼミは揚げられなかったが、それ以上に価値のあるものを手に入れた。
新しい友達、新しい体験、そして食を通じた心の絆。
千葉が寝袋にもぐりながら言う。「石川さん、次回のバッタの件ですが...」
石川はすでに企画書らしきものを書き始めている。「ああ、実はもう色々と調べててな...」
富山が深いため息をつく。「また始まった...」
でも、その表情はどこか楽しそうだった。
星空の下、キャンプファイヤーの炎が静かに燃え続ける中、石川たちの新しい冒険への準備が静かに始まっていた。
明日もまた、『奇抜でグレートなキャンプ』の物語は続いていく。
(終)
『俺達のグレートなキャンプ103 昆虫食を布教!ニイニイゼミ素揚げ(100kg)』 海山純平 @umiyama117
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