情報過多の世界①
「うわゎゎゎぁぁぁぁぁっっっ……って、、、、どこだ、ここは?」
見知らぬ天井、見知らぬ布団。
何より、自分の体に違和感がある。
マジで転生してやがるのか?
あのプレゼンは夢じゃなかったってことなのか?
「……クックック…、…成功、……成功や…。ワイは……ワイはやり遂げた……。…こ……これで………美女たちのハートは…ワイの…モン……や…………、……ぐふっあ」
なんか目の前でモコモコしたグリフィンのぬいぐるみが、血を吐いて力尽きた。。。
………………死んだ?
あ、動いた。気絶だな。
…………もしかして、俺はこいつに呼び出された?
てか、美女たちのハートって何?
と、何か体に違和感がある。全体的に小さくなってる。明らかに。
と、いうことは………別の身体になってる?
「え、腕細っ!? 体軽っ!? なのに動かしにくい? なんだこれ? あ、腹筋が割れてねぇ」
俺は自分の体をペタペタ触ったりしながら確認する。こんな体じゃムーンサルトキックすらできねーよ、という軽い絶望が俺の心をちょーっとだけ蝕む。
細い。
なんて細いんだ、俺は。
さようなら、プロレスで鍛えた俺のマッスル。
つーか、マジで転生したんだな。
まあ、社畜よかマシだ。
気を取り直して現状を整理してみよう。
神様たちは言っていた。複数のゲームが混ざった世界だ、と。
そして、そのゲームは全て俺の知っているものだ、と。
ということは、オレはこの目の前のモコモコした生物を知っている?
何のゲームに出ていた奴だ?
……………………あ、モコフィンだ。
世界的に有名な落ちゲー『ぷにぷに』に出てくる主人公の相棒的ゆるキャラだ。ちょっと配色違うけど。
つまり、この世界は…………、
落ちゲーも混ざってる。
あんまり認めたくはないが、落ちゲーが混ざってる。
なにかを四つ以上続けて並べたら消える世界なんだろうか?
『ぷにぷに』にはストーリーモードは、めちゃくちゃ適当なギャグ漫画みたいな感じだったはず。
俺はギャグの世界に転生してしまったんだろうか?
いや、待て。
神様たちは、俺の身体のことを関西弁の情報屋系のモブと言っていた気がする。
そんな奴は『ぷにぷに』にはいない。
ということは俺はギャグキャラではない………はずだ。
まだこの世界がギャグ的な世界だと決めつけるのは早い。
というか、関西弁の情報屋系のモブって誰だ?
昔のバスケ漫画で「要チェックや!」って言ってた奴くらいしか思い浮かばん。
RPGだと関西弁で真偽不明の情報くれる奴は結構いるしな。
「気がついたようね」
「うわぁぁぁぁぁっっっ!」
考え事をしている最中の急な背後からの声掛けに、心臓が飛び出そうなくらい驚く。
まあ、実際は目ん玉も心臓も飛び出なかったから、この世界はギャグ世界ではなさそうだけど。。。
恐る恐る振り向くと、美女がいた。
服が違っても一発でわかる。
世界で一番売れた格ゲー『ストリートバトラーズⅣ』の現代女忍者。
一説では日本で一番コスプレされたキャラ。
氷堂セリカ。
落ちゲーの次は格ゲーかぁ。。。
「夜影野遼真」
「え?」
「その身体の元の持ち主の名前よ」
「……え゛」
夜影野遼真。
それは、男性向け恋愛シミュレーションゲーム、つまりギャルゲーに出てくる情報屋キャラの名前だ。
夜影野遼真の登場するゲームの名は『バハムートの如く』。
魔道ヤクザ『竜王組』の後継が主人公で、街では抗争に巻き込まれつつ、学園では普通の恋愛をしようと悪戦苦闘する物語だ。
夜影野遼真は学園での友人として、主人公にヒロイン、モブに関係なく学園の女子達の情報を提供する。
身長・体重・スリーサイズから、住所・家族構成・趣味や好み。さらには電話番号・メアド・SNSアカウントに至るまで……。
もはや分身の術を使って女子全員にストーカーしているとしか思えないレベルの情報量だ。
のみならず、裏社会の最新情報まで「そういえば噂で聞いたんやけど」と語り出し、挙げ句の果てには主人公とヒロインの親密度、次のレベルアップに必要な経験値という神のみぞ知るレベルの情報まで教えてくれる。
ゲームシステム上のご都合主義の権化と言っても過言ではない情報通だ。
それにしても、転生して30秒で3ゲーム目か。やべえな、この世界。
「言葉は通じているみたいね」
「え、あ、そうみたいっすね」
素っ気なく答えたつもりだが、内心ではテンション爆上がりだ。
だってあの氷堂セリカに話しかけられているんだぜ?
衣装は忍び装束じゃなくて、ライダースーツ風だけど、やっぱり美人かつカッコイイぜ!
そして声がカワイイぜ!
声と見た目のギャップがたまらんぜ!
「現状を説明させてもらいたいのだけど、その前にまず、貴方は別の世界から魂を召喚されたって自覚、ある?」
「……あります」
そーいや異世界に来ちゃってるんだったな。
一旦落ち着こう。クールにいけ。
推しキャラにテンション上げてる場合じゃねえ。
そういえば、夜影野遼真はファンの間で「国家機密も知ってんじゃねーの」とか言われていたが、この状況じゃマジでそうかもしれん。
なんせ氷堂セリカは、公安警察の秘密諜報部の若手エースみたいなキャラ設定があったはず。
氷堂セリカがここにいるということは、夜影野遼真もそっち側なのかもしれない。
だとしたら………
絶対に巻き込まれてはいけない!
俺は無力な一般人!!
公安警察とは国家公務員、つまりブラック企業だ!!!
何度生まれ変わろうと社畜にならないと誓った俺にとって、絶対に相容れない怨敵の一つ!!!!
いかに氷堂セリカといえど、気を許してなるものか!!!!!
「急に怖い顔になったわね?」
「もともとっす」
俺を社畜道にいざなう悪の前においてはな。
「ふーん、まあいいわ。話を続けるわね」
「押忍!」
「今から半年ほど前、夜影野遼真に『異世界英雄召喚』というスキルが発現したの」
「…………」
……異世界英雄召喚…………というスキル?
スキル??
なんじゃそら???
そらなんでSky????
夜影野遼真の登場する『バハムートの如く』にスキルはないぞ?
あるのは魔法と必殺技だけだ。
もちろん『ぷにぷに』にも『ストリートバトラーズⅣ』にもない!
つまり、4ゲーム目か。。。
「『異世界英雄召喚』は自分の命と引き換えに異世界から英雄を召喚するレアスキル。代償が大き過ぎて発現例はあっても、実際に使われた記録は一つもないの」
「命と引き換え?」
俺は側でピクピクしている(でも顔は満足そうな)モコフィンをチラリと見る。
「本来はね」
苦笑い。
まさに氷堂セリカはそんな感じで笑った。
チキショウ、やっぱり本物はカッコ可愛いぜ!
この世界でも推せるぜ!!!
「このバカは」
氷堂セリカは夜影野遼真の魂が入っているであろうモコフィンのぬいぐるみを指差す。
「召喚しても自分が死なない方法を編み出したの。身体は転生者に譲って、自分の魂は別のものに移す方法をね」
「スキルってよくわからないんですけど、それって難しいんですか?」
「スキルを弄るなんて最先端の研究でも何も進んでないはずよ。なのに、このバカには何故かできちゃったの。条件を上書きする形でね――自分が召喚した転生者の“使い魔”になる、って」
うーん、自分でスキルをカスタムできるゲームか……。3つくらい思い浮かぶけど、さてどれだ?
「ただし」
セリカが指先を立てる。
うーん、いちいちセクシー。
「スキルに余計な条件を組み込んだせいで、効力は弱まった」
「まあ、そうでしょうね」
「命を捧げること。それが『異世界英雄召喚』の代償。……でもその代償を回避したせいで、全然別のスキルになったの」
「つまり?」
「ちょっと言いにくいんだけど……、貴方を召喚したスキルは『異世界の英雄っぽい一般人召喚』よ」
「…………は?」
英雄っぽい一般人ってなんやねん。
転生情報屋 雪崩式ドラゴンスープレックスホールド @androll08
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転生情報屋 の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます