第36話 技術の融合を目指す

「なるほど、ヴェルトリアでは光の干渉を用いて回路を作っているんですね」

ヴァルグの説明をひとしきり聞いたソーマが、理解を確かめるように言った。


「その通りだ。ヴェルトリアはアルディナほど魔石を大量に得ることができない。

 先人が工夫の末に辿り着いたのが、ガラスを利用した制御回路なのだ。

 光の位相を精密に制御すれば、魔力をほとんど消費せずに演算できる。」


ヴァルグの言葉に、部屋の空気がわずかに温まる。

透明な管を流れる干渉光は、まるで心臓の鼓動のように脈動していた。


エルドランが腕を組み、独り言のように呟く。

「ヴェルトリアとアルディナの技術を組み合わせて、

 魔石の使用を抑えながらも、作成に手間がかからない魔導回路が作れれば……両国の架け橋となりえる、か」


リィナも悩ましげな表情でつぶやく。

「そんなことが、できるんでしょうか?」


「難しいだろうが、不可能ではない」ヴァルグが答える。

「問題は、二つの技術がまったく異なる原理で成り立っていることだ。

 光は連続的な位相で計算するが、魔導回路は離散的な魔力の流れで動く。

 同じ“信号”として扱うには、何らかの橋渡しが必要になる。」


ソーマは腕を組み、考え込むように水晶板を見つめた。

「それ自体はできます。事実、ヴァルグさんが作っていた偽ノードでは、そうやって魔導回路に干渉していました。

 問題は、それをするだけのメリットがある利用例ですが……」


ヴァルグが申し訳なさそうな表情で言う。

「その節はすまなかった。」


「まあまあ」とソーマは笑って制しながら言った。

「そういえば、偽ノードはずいぶん早く信号を返していましたね。あれも光回路のメリットですか?」


「そうだ。光による干渉では、魔導回路のように複雑な演算を積み重ねる必要がない。

 処理したい情報を投入しさえすれば、あとは速い。

 私もヴェルトランでその動作を見たときは驚いた。」

ヴァルグがうなずく。


「……データを投げ入れさえすれば速い。

 それなら大容量のスイッチに使えるんじゃないですか?

 それがあれば、魔導回路と組み合わせて――FPGAが作れる!」

ソーマが顔を輝かせて大きな声を上げた。


「FPGAとは、そなたが作りたいと言っていた魔導回路のことか?」

エルドランが尋ねる。


「そうです。FPGAは、あらかじめ作っておいた魔導回路の上で、

 さまざまな魔導回路を模倣できるようにする仕組みです。

 そのためには、基本的な魔導素子と、それらをつなぐ“パス”が必要なんです。

 でも今の魔導回路では、そのパスがどうしても上手く作れなかった。

 いえ、作れたとしても、使いものにならないほど遅かったんです。」

思わずというように、ソーマが早口で説明する。


「けれど、光の回路で高速な応答ができるなら――

 それをスイッチとして使えば、両方を組み合わせてFPGAが作れる!」

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FPGAで世界を救うなんて聞いてません! よしたけ @author_7400

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