銀英伝(本伝)はいいぞ。※好きになったきっかけはとんでもなかったけど
実緒屋おみ《忌み子の姫は〜書籍発売中》
一生の推しに出会ったきっかけはとんでもなかった。
「スペオペ(スペースオペラ)でBLしてる小説あるよ」
あれは中学生の頃。そんなことをオタク仲間に言われた。
はっきり言って私は『BL(ボーイズラブ)』に興味はないのだが、どうして彼女がそんなことを言い出したのか、きっかけも思い出せない。
ただ、私が本の虫であったこと、SFでもファンタジーでも何でも読むことを、友人は知っていたから……だと思う。
「なんてタイトル?」
「『銀河英雄伝説』だよ」
「ふーん、今度読んでみるわ」
「あっ、アニメもあるんだ~。それも面白いよ」
なるほど、アニメがあるのか。オタクにとってはありがたい限りである。
いきなり原作である小説を読んでもいいのだが、私と作家さんとの文体の相性が合う・合わないがあることを、これまた彼女は知っていたのだろう。
「今度読む・見る」と約束を交わし、しばらくの時が過ぎた。
私は『銀河英雄伝説』のぎの字も忘れ、ある日、テレビのチャンネルをポチポチしていた。
すると、何やら古臭いアニメがやっていたではないか。
古風的なセリフの言い回し。90年代より前くらいのセル画アニメーション。声は……あ、堀川さんだ。
濃厚なキャラクターデザインが気になった私は、少し手を止めてその番組を見ていた。
「なんだこれ……なんてタイトルだろう」
タイトルをチェックしてみる。テレビのタイトル欄にはでかでかと『銀河英雄伝説』の文字があった。
おお! これが話に聞いた「スペオペでBLしている作品」か。
見てみることにする。BLには興味は本当にないのだが、スペースオペラというところが気になった。
どうやら次回で最終話らしい。えっ何、109話目? 今見てるの最終話の前? キャラクターも話もよくわからないんだけど、いやそれより110話もあるのかい!!
などと思いつつ最終話まで見てみることに。
………………いや待て。
「どこにBL要素があるんだこれ?」
オタク友人の彼女は言っていた。金髪さんと赤毛くんの組み合わせが萌えるのだと。
待て待て。赤毛くん? 金髪さんは多分この長髪……堀川さんが声を担当しているキャラクターだろうが。しかし赤毛なんていないぞ?
あっ。金髪さん死んだ。……死ぬの……?(しかも奥さんと子どももいたよ?)
「こ、これは最初から見てみないと、作品の良さがわからないな!」
そう思った私は、次からの再放送を待つことにした。来週、再び1話からやってくれるらしい。期待半分興味本位半分、という感じで日々を過ごす。
こ れ が 沼 に 落 ち る 間 際 だ と 知 ら な い で 。
迎えた『銀河英雄伝説』再放送日。
菓子を食べながら1話を見る。確かにそこには友達のいう「金髪さんと赤毛くん」がいた!
どうやら宇宙で戦争をしているらしい。なるほどね、ナレーションもわかりやすくて、各キャラクターの声優さんがたもあってる。絵も、古いがきらいじゃない。
10話までぶっ通し、5時間かけて見た。
「BLしてねーじゃねーか!!!!」
最後に私はリモコンを投げつけそうになった。
なんて布教の仕方をしているんだ、ヤツは。あんなんBLがきらいな人だったら見向きもしなくなるぞ……こんなに面白いのに。「BL要素あるなら見ない」と勘違いして!
などと憤りつつ、私は作品に夢中になってしまった。
キャラクターの造形もさることながら、艦隊戦の迫力、オーケストラのBGM、そして何より……各キャラの内面や思想を描く『群像劇』が面白い!
これはもしかしたら、私にとっての掘り出し物かもしれない。原作である小説は(文体の好みがあるので)合うかどうかわからないが、少なくともこのアニメは、いいぞ。
そう思った私は、とりあえずアニメを最後まで見てから原作を読む、ことを目標にした。
残念なことに私の場合『金髪さんと赤毛くん』よりも、『うだつの上がらないベレー帽の青年』たちが好きになってしまったのだが。
これは好みがあるので、個人差が出るのはしかたがない。それほどまでにこの『銀河英雄伝説』には個性的なキャラクターたちが出てくる。目移りだってしてしまう。
数週間かけてアニメを見た。見果てたり。見事全話、見果てたり……。
難しい言い回し、言葉はあるが、政治思想や哲学といったある意味アレルギーを起こしそうな作品がスペースオペラとして、各キャラの考えとしてここまで徹底的に落とし込まれている小説。
興味が出てきた。どんな風に
とりあえずオタクの彼女に連絡を取る。紹介してくれたことのお礼も言いたい。
「銀河英雄伝説見たよ、アニメで。面白いわあれ(BLしてないけど)」
「ハマるよね! 小説は2巻からが本番だよ」
「へー……じゃあ1、2巻買ってみるね」
また彼女は金髪さんと赤毛くんのことをつらつらと語っていたが、それは右から左に聞き流しておいた。
そして本屋で探したところ、全10巻だということが判明。まあ最初の方だけでも……と手を出したのが、ダメだった。
面白いのである。
アニメに劣らず面白いのである。
戦記物だがスラスラと入ってきて、かつセリフ回しもアニメそのもの!
ちょっと戦闘シーンの戦術・戦略部分が難しかったけれど、アニメを見ていたおかげで脳内再生が余裕だった。
キャラクターの書き分けも非常に秀逸。似たような口調(帝国側の人間は古風な言い回しをするから余計に似通う)なのに「○○と××」ときちんとわかるのが凄い!
なぜ2巻からが本番なのか、その理由も判明した。1巻は全体の説明であり、2巻から本格的に物語が動き出す。スロースタートもいいところだが、逆にそれが丁寧なものだと感じられてイメージがいい。
一日で2冊を読み終えた私は、次の日、即残りの8巻を集めてしまった。小遣いがなくなっただけでなく親に小遣いの前借りをした。情けないが面白いものに糸目をつけたくないのである。
するとうんざりした顔の母親が、こんなことを言ってきた。
「こないだからなんのアニメ見てんの? 買うの、その小説なの?」
ほほう、知りたいか。よろしい、本懐である。
とりあえず母にも見せてみることにした。家にDVDデッキがあって心から感謝である。
母はもともと軽いゲーマーであり読書家で、オタクにも優しい。理解がある。一緒にアニメを見たりする程度には仲も良かった。ただ、母の好みはかなり偏っていたりするため、私と合わないときもあるのだが。
さて、今回はハマるかどうか……。
「面白いねー、これいい作品だわ」
あっ、チョロい。
どうやら硬派な部分と絵のタッチが気に入ったようだ。特に『金銀妖瞳の男』が好きになったらしい。
こうして無事、私たち親子は『銀河英雄伝説(本伝)』を推す日々を送ることになった。
あの日、あのとき「スペオペ(スペースオペラ)でBLしてる作品あるよ」と言ってくれた友人よ、ありがとう。私も一生の推しに出会えた。
『銀河英雄伝説』は現在、新規作画・監督・スタッフ・声優で『ノイエ版』という新作のアニメをやっている。しかし私が好きなのは、どうしても古い方の『本伝』なのだ。思い出補正かもしれないが、あの温かみのある作画と声が大好きなのだ。
それにしてもきっかけというものは、どのような形でくるかわからないものだなと思う。BL要素(これは完全にオタク友人の語弊だが)だけだったら見ていなかったように感じるが、スペオペだったからこそ見た。
また今度『銀河英雄伝説』を、1話目から見直そうと考えている。
色褪せないものがそこにあるから。
銀英伝(本伝)はいいぞ。※好きになったきっかけはとんでもなかったけど 実緒屋おみ《忌み子の姫は〜書籍発売中》 @mioomi_2432
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