後編

「ううむ………」


 織田信長もまた、自身の首が胴体から離れ、泥濘に転がる光景を最後に、意識を手放した。

 そして、次に目を開けた時、彼はその日の朝に戻っていた。


「まさか……」


 信長はすぐに状況を把握した。

 十倍の兵力差で持久戦をしていても勝てない。必ず敵に通じる裏切者が出るし、隙をついて斎藤義龍が侵攻してくる。

 そうであれば運を天に任せて今川本陣に突撃するしかない。

 桶狭間山に陣を張っているのであれば、本陣には数千人しかいないはずだ。互角の兵数で戦える。

 問題は本陣に到達する前に見つかり突撃部隊を潰されることだ。


「どうしたものか」


 そう考える信長に進言して来たものがいる。

 草履取りとして彼の側に仕える木下藤吉郎という小物だ。


「桶狭間山は天気が代わりやすく、今の時期は急に豪雨が降ると現地の者がいっておりました」


 それに賭けるしかない。

 信長は熱田神宮に願をかけると、二千の兵を引き連れて自らが先頭に立ち突撃した。

 運を天に任せた正面突撃である。

 だが、それは失敗してしまった。

 自らの首が胴から離れた時に賭けに失敗したのを悟った。


 だが、死に戻って来た。

 天は我に勝利せよと言っている。

 信長は再び今川本陣に突撃する。


 首を刎ねられる。

 死に戻る。


 進軍ルートを変えてみる。


 首を刎ねられる。

 死に戻る。


 丸目砦に救援を送る。


 首を刎ねられる。

 死に戻る。


 籠城戦をする。


 首を刎ねられる。

 死に戻る。


 やはり突撃を繰り返す。


 首を刎ねられる。

 死に戻る。


 兵を分けて少数で突撃する。


 首を刎ねられる。

 死に戻る。



「くそ……なぜだ……なぜ、何度やっても勝てないのだ!」


 信長は苛立ちを隠せなかった。何度も何度も首を刎ねられる。

 どうやっても今川義元には勝てない。

 勝てないのであれば、天はどうして何度も繰り返させるのか。

 

 そして、十回目の死に戻り。


「雨だ……雨さえ降れば………」


 信長はそう考えた。そして、彼は大胆な行動に出た。


「雨男を集めよ!」


 彼は領内から雨男として評判の男たちを集め、彼らに祈祷をさせた。

 そして次の突撃では今川本陣に迫る数分前に突然の豪雨が彼らを襲う。

 これこそが天の恵みの雨だった。


「これで……」


 信長は勝利を確信した。

 数分後、豪雨が晴れると目の前に今川軍の本陣があった。


「義元の首を取れ!」


 信長が叫ぶ。

 その叫びに呼応して彼の馬回り衆が今川義元に襲いかかった。

 そして、義元の首が宙に舞う。


「勝った……ついに、勝ったのだ!」


 信長は歓喜に震えた。


 次の瞬間、信長の意識は六時間前に戻った。




「ううむ……」


 今川義元は目を覚ます。

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桶狭間は今日も雨 マー爺 @mokota1104

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