ルクスミーア

@UzukiRui

第1話

プロローグ

風鈴の音が聞こえる。

花火大会特有の喧騒に耳を澄ませながら声をたどる。

お願い。どうか生きていて。

あなたは.....私の光なのだから。

1夢うつつ

「....なた」

お母さんの声が聞こえる.

目を開けると、いつもの光景が広がっていた。

夢を見ていた気がする。何か都合のいい夢を。

「起きたのね、早く支度をして行きなさい」

いつもの1日が始まってしまう。

「おかあさーん!いってきまーす」

「いってらっしゃいー」

彼方はもう行くのか.

成績も見た目もなにもかも普通な私とは違い、双子の妹の彼方はダイヤモンドの原石だった。

きっと私とは頭の作りが違うのだろう。

急いで支度を済ませて、家の扉を開ける。爽やかな朝の香り。

桜並木を進み、この辺りで一番大きな平地に着く。

「大きいな......」

そこには、今年樹齢4000年になるホウノキがある。

この辺は土があまり良くはなく、作物はおろか植物すらも育つのが難しい。

それなのに、日本人がまだ土器を作っている時代から生きてきたこの木は、少しも枯れる姿を見せない。そんな奇妙な木だからこそ、私が生まれたあたりからは怪談話のネタにされていた。

あの木にはあの世とこの世をつなぐ穴があるだとか、土地改革をするまでこの辺が荒地だったことをいいことに昔死んだ人の怨念が込められてる、だとか。

中でも一番有名なのは木を守るひがんさま、の話。

この木には神様の力がこもっていて、その力がなくならないよう木に魔法をかける番人。

「.....っ」

そしてその番人はあの世とこの世を彷徨えて......死んだ人を、この世に戻すこともできるらしい。

忘れたことなんてない。

一年前の花火大会の日。りんご飴片手に屋台の周りを練り歩いていたら、途中にある横断歩道で車がつっこんできて。

私の大好きな人、拓也くんはいなくなってしまった。

それからというもの.

拓也くんのいない学校は地獄だった。仲間外れにされたり、物を隠されたり。

もう誰も守ってくれはしない。

そんな気持ちになってから、もう学校に行けてない。足に力が入らなくなるからだ。

そんな時耳にしたのがこの噂だった。

拓也くんがもう一度戻ってきてくれるならきっとまたあの幸せだったころに戻れる。

だから。

ひがんさまを呼び出す方法。まずそのいち。

木の幹に触れながらゆっくり唱える。

「ひがんさま、ひがんさま。此岸へお越しください」

計3回唱えて目を瞑れば、桜が作る風で、ひがん様が現れるーーーー。

なんて。まあ流石に違うよね。そう思い、重い足を動かした時。

散って落ちてきていた花びらが縁を描くように空へと舞い上がり出し、温かい風が吹き始めた。

やがて空へと舞い上がった花びらは木の幹のちょうど下、さっきまで私がいた場所でゆっくりとち地上へもどった。

「なに、今の.....」

慌てて幹の下へ戻ろうとすると、頭上から声がした。

「驚いた?」

「きゃあっ!!!」

「出た、幽霊、亡霊....出たあ〜!!」

びっくりして大声をあげてしまうと、くすくすと笑い声が聞こえてきた。

「驚かせちゃったみたいね、ごめんなさい」

声のする方へ目を向けると、そこにはロングヘアの大人っぽい女の子が立っていた。そこだけ見ると普通だけれど、明らかに人間ではないと思えるところがある。

半透明の状態で浮かぶ体、足元に描かれているいかにも漫画に出てきそうな魔法陣。まさか......

「ひがんさま....?」

するとその子は、ゆっくりと頷いて口を開いた.

「私はこの地域の都市伝説。あの世とこの世を繋ぐ亡霊、ひがんさま」

「ふふ、私を呼んだのはあなた?雪代日向」

ひがんさまは、本当にいたんだ......

「....はい」

そう答えると、ひがんさまはため息をついて話し出した。

「久しぶりに此岸に来たけど、あんま理解かわってないんだね〜。あ、私は沙耶。ひがんさま芸名みたいなもんだから。日向には特別に呼ばせてあげる」

「....」

さっきまでの雰囲気とは違う。ずいぶん大人っぽく見えたけれど、もしかしたら同い年ぐらいかも。

「....わかった、沙耶ね」

すると、ひがんさまーーー沙耶は、満足そうに頷いた。

「それでーーーー。日向はなんで私を呼び出したの?」

そうだった、本題はそれだ。

「一年前、花火大会の日に私の大事な人が亡くなって.....そのとき、町の子たちに聞いたの。死んだ人を甦らせてくれる都市伝説の話」

「なるほどねー。」

木の枝に腰掛けながら沙耶は口を開いた。

「ようはそいつを生き返らせて欲しいってこと?」

 「うん」

すぐに頷くと、沙耶は小さくため息をついた。

「はあ.....たかが人間だよ?そんなやつ生き返らせてどうしたいのさ」

....たかが人間?拓也くんのことを何も知らないのに。

「拓也くんは私の大切な人だし!生き返ってほしいの!」

口調を荒げてそう答えると、沙耶は言う。

「.....言っとくけど、私は知らないよ?そいつが日向を裏切るかもしれないし。人のことなんて完全にはわかんないんだから」

沙耶は、...なんでここまで言うのだろうか。私にとって拓也くんがどれほど大切かなんてわからないくせに。

「....それでも良いよ」

「ただ、ありがとうって言いたいだけだから」

そう言うと、沙耶は驚いたように瞬きをして、すぐに目線を下げた。

「....あっそ。わかりましたよー」

そう言って木に手をかざすと、大量のモニターのようなものが現れた.

「なに、これ?」

「ああ、これ?これはあの世から逃げ出そうとしたりする人がいないように見守るーーーーーーまあ、ほぼ監視カメラだね」

監視カメラ、と相槌を打つと、けろっとした顔を沙耶が続けた.

「スナイパーで逃げようとする奴らを攻撃する以外はね〜」

攻撃って......さっきからずっとなんか銃みたいな音聞こえるんだけど...まさかこの音じゃないよね?

「.....えーまた抜け出そうとしてる、この人頭悪いのかな〜」



















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