番外No.3 あの丘のオーベルジュ / 日向風 様
深夜テンションがあるなら昼間テンションもあるべきだ!
という良く分からない論法で開始した昼間の辻感想。
やっぱり辻感想というからには、通りすがりに作品を聞き出して感想!
そんな今回の被害者は、
唐突な提案に乗っていただきありがとうございます!
日向風さんのイメージ。
Xでご存知の方は誰もが「飯テロの人」と言うように思います。
実際、いつも魅惑的な料理画像が毎日のように流れてきます。
でも私はXのプロフ背景の、小説キャラの真剣な横顔と、アイコンでそのキャラがおにぎりを食べているイメージが先行してます。
Xのアイコン可愛いです。好きです。Xで交流のある方で断トツ1位かも(笑
そんな日向風さんの作品を眺めると……お料理、お好きですね。
食を中心に物語を紡がれたものが多い様子。
食は日に何度も遭遇するもの。
食を楽しめるということは、人生の半分は幸せに溢れていることでしょう。
素敵です!
それでは、本題の作品を見ていきましょう。
日向風さんからご提供いただきました作品はこちらです。
『あの丘のオーベルジュ』
https://kakuyomu.jp/works/16818622175503895294
はい、オルベージュ。えーと……知りません(汗
何語でしょう? 調べてきます……
グーグル教授>「オルベージュ」はフランス語の「Auberge」の発音違い(または誤記)で、レストランを併設した宿泊施設
だそうです。
なるほど、丘の上のレストハウスみたいなものですね。
概要も見てみます。
キャッチ:その一皿が、人生を変えることがある。
おお、料理で人生まで!
>調理師学校に通う真希が、紹介されて訪ねたのは、丘の上に佇むかつてのオーベルジュ。静かな海、風に揺れる木陰、そして一皿の料理。——それは、言葉では届かない何かを、確かに伝えてくれた。心を照らす小さな出会いの物語。
7000字程度の短編なので、概要も端的です。
なるほど、訪ねたオルベージュで出会った料理、と。
シェフ漫画はいくつか読んだことはありますが、小説は初めてです。
楽しみですね。
前置きが長くなりましたが本編です。
それでは読んでいきましょう!
-----------------------
> カタン、カタン。
> 電車が静かに走る。
> 真希は鞄の中から封筒を取り出し、もう何度目かわからないほど開いて中の便箋を見つめた。
冒頭、主人公?の真希が電車で手紙を読み返しています。
> ———拝復
> ご紹介、確かに受け取りました。
> 特別なことは教えられませんが、よろしければ、昼食をご一緒しましょう。
> 料理はひとり分もふたり分も変わりませんから。
タイトルでオルベージュのことを知っていることからすると。
これはオルベージュの主?からの返信でしょうね。
> それだけの、短い返信。あとは連絡先が書かれているだけ。けれど、彼の人柄がどこかにじんでいて、真希は思わず、その手紙を何度も読み返してしまうのだった。
誰かの紹介でしたか。
手紙で人柄を感じるとは、さっきの端的な文面でしょうね。
邪魔ではない。食べればわかる。気軽においで、と。
> きっかけは、真希の通う調理師学校の先生だった。
>「この人の料理は、すごいんだよ。……今の君に、勉強になると思う。行ってみないかい?」
> 真希は返事に詰まった。
> 行ってみたい気持ちはあった。けれど、その“すごい料理人”から、果たして自分は何か得られるのだろうか。こうした方がいいとか、ああしろとか、言われて終わりなんじゃないか。
学校の先生との回想です。
ああ、ありますよね。
教師に「こうしたほうが君のためになる」的に言われて抵抗を覚えるやつ。
特に自分の勉強している分野で、すごい人、なんて言われても、と。
料理を学校で勉強したことはないのでわかりませんが。
レシピを教わったらおしまい、なんて考えるようになるのかもしれません。
> 真希が調理師を志したのは、小学生の頃。夏休みの自由研究で作った料理を、母が「美味しい」と言ってくれたのがきっかけだった。父はおかわりをしてくれた。嬉しくて、何度も何度も作った。
幼少期の思い出。
うんうん、こうして琴線に触れたことは芯にもなります。
> 今では両親も忙しく、出来立てを食べてくれることも、顔を合わせて食事をすることも、ほとんどなくなった。
> だから——プロになれば、また「美味しい」と言ってくれるんじゃないか。そんな期待も、どこかにあった。
ご両親も好きなんですね。
> そんなある日、真希が作った料理を食べた友達が言った。
>「普通に美味しいよ」
> もちろん、好意的な意味なのはわかっている。
> けれど、「普通に」という言葉だけが、ぐるぐると頭を駆け巡った。
プロを目指している人がこう言われたら――
例えば小説家が自作を「普通に面白い」なんて言われたらどうでしょう。
とりわけ、あなたの作品でないといけないわけではない。
多くのうちのひとつだ、そう言われてしまう感覚です。
> それから、包丁を握っていてもどこか手応えがなかった。
> レシピ通りに作っても、ただ「美味しい」で終わり。余韻も、ない。
> 確かにこれでは「普通」だ。
> 自分にしかできない料理って、なんだろう。
> 自分は本当に料理人になりたいのか。
そうして料理道に悩むようになったのですね。
> ——それでも。まだ諦めたくない。
> 真希は頷いた。
>「……うん、君なら大丈夫だ。紹介の手紙を書いてあげるよ」
おっと、学校の先生の目の前での回想シーンでした。
回想の回想。あれ、最近このフレーズどこかで見たような(何
> やがて届いた短い返信。その文面を何度も読み返したあと、真希は静かに深呼吸をして、電話をかけた。
そのオルベージュの主と連絡を取ったわけです。
ここまでが導入ですね。
> 彼には、始発で来るように言われていた。
> 駅で落ち合うと、彼は六十代半ばくらいの、整った人だった。
> シャツにはきれいにアイロンがかかっていて、足元の靴も磨かれていた。
> 簡単な挨拶を交わしたあと、
>「まずは魚を見に行こう」とだけ言って、彼は車に乗り込んだ。真希も慌てて助手席に乗り込む。
早朝。
初老の、身なりのしっかりした人がお出迎え。
そして魚市場へ直行。
だから朝なんですね。
> 市場には、色とりどりの魚たちが並べられていた。
>「魚が好きなんですよ」
> 彼は、少しだけ目尻を下げて笑った。
> その笑顔は、どこか少年のように見えた。
名前がまだ出ていないので「彼」としましょう。
純朴な感じがしますね。
> 彼は、丁寧に魚を見ていた。
> 一匹一匹を手に取り、市場の人とことばを交わしながら、エラや張りを確かめる。
> そして、魚に貼られた船の名前まで、目を通していた。
>「この船の漁師さんは、丁寧な仕事をする人でね」
漁師と付き合いがあるなんて凄い人ですね。
これは料理人でなくてもわかります。
> 魚なんて、獲れたてで新鮮でさえあればいい。そう思っていた真希は、少し驚いた。
同意です。
でも、よくよく考えてみれば、農家から農産物を買うのと同じかも。
顔の知らない人が作ったものを、毎日食べるのが当たり前になっていましたが。
逆に、顔見知りから買う生活が当たり前なら、知らない人のものは怖いですね。
>「魚は好きですか?」
> 彼は真希に微笑みかけた。
>「はい。あ、でもどちらかというとお肉の方が……」
> がっかりさせてしまうかもと思って、真希の声が小さくなる。
>「私も若い頃はそうでしたよ」
> 彼は口元を綻ばせた。
おおらかな方です。
さすが紳士な風格が漂うだけある! 格好いい。
> 魚を買ったあとは、近くの農家に立ち寄って、野菜を分けてもらった。
> 彼の家に着いたのは午前十時を少し過ぎたころだった。
漁師だけでなく農家まで知り合い。
さぞ食材に拘る方なのでしょう。
> 海を見下ろす、小高い丘。
> そのてっぺんに、ひっそりと佇む家があった。白い壁に明るい茶色の屋根——かつてはオーベルジュとして開かれていたその場所も、今はもう“CLOSE”の札が裏返ることはない。
出てきました、オルベージュ。
>「お店は、もうされないんですか?」
> 真希が問うと、彼はほんの一瞬だけ手を止め、遠くの海へ視線をやった。なぜだか、聞いてはいけないことだったという気がした。
>「ええ……。それよりも、すぐに作ってお昼にしましょう」
> 彼はそう言って、静かに厨房へ向かった。長年の習慣のように、迷いのない足取りだった。
真希の純粋な疑問。
立派な建物が残っていれば、そうも感じます。
だって、食材の調達はスムーズにできるくらいなんですよ。
それにおおらかだった「彼」が言い淀むところも。
よほどの事情だと察してしまうわけです。
> 彼の魚を捌く手際は、まるで舞台の所作のように無駄がなかった。
> 時折、鱗が飛ぶたびに、厨房に光が散る。
手際、良さそうですね。さすがです。
> 内臓をごそっと抜き取ると、彼はしばらくそれをじっと見つめた。
>「何を見てるんですか?」
> 真希が訊ねると、彼は少し苦笑して言った。
>「ああ、“アイツ”を探してるんですよ」
白い悪魔、アニキサス。
皆さんも生魚の調理には気を付けましょう。
> そこから魚を冷たい真水でサッと洗う。
> 真希はつい、口を出してしまった。
>「水を出しながら鱗を取った方が、飛び散らなくていいですよ」
>「確かに。でも、魚は真水に当てすぎると良くないんですよ」
> 穏やかな声のまま、彼は言う。
>「腸炎ビブリオ対策でよく洗うけれど、それでも最後に手早く、ですね」
技には理由がある――
これは、その道に長い人と仕事をすると、様々な場面で遭遇しますね。
自分と異なるやり方を見て、つい口を出したくなってしまう。
聞いてみると納得ができるほどの含蓄があって……
> 真希は、目を伏せた。
> 頬がほんのり熱い気がした。
> 静かに流れる水音だけが、ふたりの間に残った。
>「……私、本当に、料理人になれるのかな」
> 小さく、心の中で呟いた。
恥を感じるだけでなく、抱いていた不安が再燃しました。
自信のなさが溢れてしまいます。
> 色々な種類の魚が、半身だけ捌かれていく。
>「全部捌いても、食べきれないから」
> 彼はそう言って、少し笑った。
今度は説明をしながら。
真希の様子を見て察してくれているのかもしれませんね。
> さらにマダコ、ヤリイカ、クマエビ、蛤、ムール貝。
> 下拵えを終えたそれらが、バットの中で静かに並んでいる。
> 色とりどりのそれらはまるで、宝石箱のようだった。
海産物が中心の料理でしょうか。
> 彼は新玉ねぎの皮を剥き始める。
> 真希はその背中を見つめ、少しだけ迷ってから声をかけた。
>「あ……、私、手伝います」
確かに、教わりに来て見てるだけだと気まずいですよね。
卵とはいえ料理人の端くれですから。
>「せっかくだから、お願いしようかな。皮を剥いて、繊維に沿って薄切りしてください。
> 包丁は……これを」
> 渡された包丁を、真希は両手で受け取った。
> ずしりと重い。
> 重さの理由は、鋼のせいだけじゃないような気がした。
紳士ですねぇ、「彼」。
きっと真希の心情を察してます。
この包丁の重さはきっと、彼の歩んできた道の重さでしょう。
>「じゃあ、
> 真希が腕まくりをすると、彼はふふっと笑った。
グーグル教授>「エマンセ」(émincé)は、フランス料理の専門用語で、食材を「薄切りにする」こと
教授、ありがとうございます!
こういう専門用語で通じる感は、医者がドイツ語の医療用語で話すようなもんでしょうね。
> 薄くスライスされた新玉ねぎを、バターを溶かした鍋に入れる。
> 焦がさないよう、ゆっくりと木べらで混ぜながら炒めていく。
> 塩をひとつまみ。
> ねっとりと甘い香りが立ち始めたころ、彼は米を少量加えた。
> そして水を注ぐ。
スープの手順? ですよね。たぶん……
すみません、凝った料理をあまりしないので想像が。
>「……ブイヨンは入れないんですか?」
>「美味しい玉ねぎを、味わってほしくて」
> 彼はそう言って、鍋をまっすぐに見つめていた。
玉ねぎは調味料を混ぜなくても塩だけでかなりの旨味甘味が出ますよね。
塩スープで美味しくなるくらいですから。
> 撹拌を終えたスープを、彼はシノワで丁寧に漉した。さらさらと落ちていく液体は、すでにとろみを帯びている。その鍋に牛乳を加えると、優しい白色のスープがふわりと立ち上がった。
グーグル教授>「シノワ」はフランス語で「中国人」「中国の」「中国風」を意味する言葉です。料理の世界では、主に以下の2つの意味で使われます。
調理器具としてのシノワ 円錐形に尖った金属製のこし器(ストレーナー)です。
スープやソース、カスタードなどを濾して滑らかな状態にするときに使います。
その形が中国人が被る帽子に似ていることから、この名前が付けられました。
調理用語解説の様相になってまいりました……(汗
無知ですみません。要するに裏ごしと似たような要領ですね。
> 真希は彼が“自分なら必ずすること”をしていないのに気付いて、さすがだな、と感心もした。それに、手際がいいのに一つ一つの作業も丁寧だった。
> でも。作り方に特別なことは一つもなかった。
> このスープも普通に美味しいだけなのではないか。ふと、頭にそんな思いがよぎった。
これ、私にはわかりません。
料理に詳しい人ならピンとくるんですかね……
> 次に大きめの鍋が出された。
> そこにオリーブオイルとみじん切りにしたニンニクと唐辛子が入る。
> だんだんとにんにくの香りが立つ。パセリとタイムが加えられてハーブの香りがサッと膨らんだ。その匂いに、思わず真希は鼻を膨らませた。
文字だけでも香り立つのが想像できます。
これだけで美味しそう。
> 彼が取り出したのはキャンティ——赤ワインをドバドバと入れる。
>「お肉料理ですか? 赤ワイン煮込み美味しいですよね」
> 彼はニコッと笑ったがそれ以上は答えてくれなかった。
素人の私には、もはや何を作っているのかわかりません(笑
でも、私が作る料理よりは確実に美味なものが作られています!
> アルコールが飛んだのを見計らって潰したトマトを入れた。赤ワインとトマトの香りが混ざり合って厨房に立ち込める。
> ぐつぐつと五分ほど煮込まれたソースに彼は——蛤とムール貝、マダコとヤリイカを入れた。
トマト、赤ワイン、魚介。
パエリア的な何かを想像しなくもないですが……
>「え!? 魚介に赤ワインですか?」
> 真希は驚いた。
>「真希さん、イタリア料理は好き?」
>「あ、はい。私は和食コースなんですけど、イタリアンはよく友達と食べに行きます」
>「この魚介の赤ワイン煮込みもイタリアの漁師料理なんだよ。面白いよね、赤ワインで魚介なんて」
料理人です。
その背景や、考え方。
これは作品を作るときに説得力を持たせるやつです。
小説なら、ただ文章を書くのではなくて、その構成部品に意味を与える作業です。
> 彼は話しつつ貝を取り出していた。
> 隣のコンロにフライパンを置いてオリーブオイルを引く。塩をして半分に切ってあった赤い魚、ホウボウを焼き始める。今度は香ばしい香りが立ち込めた。香ばしく焼き目のついた魚を鍋の中に入れて蓋を閉じた。
焼き魚ですね。
フルコースを作っているご様子。
> 彼は冷蔵庫の中から、冊状にされた魚たちを取り出した。
> まず、魚に塩と半量の砂糖をまぶして、しばらく置く。
> その後、お酢でやさしく洗い、ペーパーでしっかりと水気を拭き取っていく。
これは生調理用ですね。
> そして切り付け。
> ある魚は分厚く、ある魚は薄く。
> 皮付きの魚はバーナーで炙られた。
> イカには、繊細な格子状の切れ目が入れられる。
> 盛り付けは、冷やしておいた皿へ。
> 色とりどりの野菜も添えられ、一皿に静かな華やかさが宿った。
魚介の刺身? サラダ?
前菜なのでしょう。
> 真希は、その手際にただ見惚れていた。
> 仕上がった皿は、そのまま冷蔵庫に戻された。
読んでいても見事と思います。
> 魚の鍋の蓋を開け、クマエビを入れる。
> スープが再び煮立ち、ほんの二分。
> 彼は火を止め、具材を丁寧に取り出して、温めておいた皿に盛り付けていく。
> 先に取り出しておいた貝たちも、ひとつひとつ、決められた場所に。
さっきのワイン煮ですね。
先に具材を並べる、と。
> 鍋に残ったスープは、そのまま強火で少し煮詰められた。
> 泡が大きくなり、やがてとろみがつく。
> そのスープを、ひとすくいずつ、皿に回しかける。
旨味の入った汁を濃くしてソースに。
ハンバーグでも似たようなことをやりますね。
>「できました」
> 彼はにっこりと笑って言った。
>「テラス席で、食べましょう」
完成です!
ぱちぱちぱちぱち!
さて、真希の感触は……!?
> テラス席は、大きな木の陰になっていた。
> 枝と葉の間をすり抜ける日差しは柔らかく、風が気持ちよく吹き抜けている。
> その向こうには、ひろがる海。さざ波が陽光をきらきらと跳ね返し、静かにテーブルへと光を運んでいた。
丘の上のレストラン。テラス席。
相当に良い場所ですよね。贅沢な場所です。
>「いいところですね……」
>「この景色が気に入って、この家を買ったんですよ」
> 彼は海を見ながら言った。
>「独り占めするのは勿体無いからと、オーベルジュを始めたんですが……この景色を見るなら、朝かランチじゃないとダメなんですよね」
日の角度の問題で、~時までなら良い景色! ってよくあります。
独り占めしてたものを、良いものだからと人へ提供したくなる。
「彼」はよっぽど好きなんでしょうね。
> そして少し笑って付け加えた。
>「……ランチ営業はしてなかったんですけどね」
ランチ。
もしや、この今の席のことでしょうか。
> 彼は卓上のボトルを手に取り、炭酸水をグラスに注いだ。細かな泡が、陽を受けてきらきらと立ち昇る。
>「どうぞ」
> 彼はテーブルに置かれた皿を指し示す。
>「新玉ねぎのポタージュ、七種の魚介のカルパッチョ、そして、カッチュッコ・アッラ・リヴォルネーゼです」
ペリエと共に提供される料理。
スープ、前菜、主菜。
さきほどから作っていた3品ですね。
この後、食べるんでしょうけれど、この時点で涎が出そうです。
>「美味しそうです。いただきます」
> 新玉ねぎのポタージュは淡雪のように白く、散らされたパセリがぽつりと色を添えてる。
> 普通の作り方のポタージュ。でも、何かが違って見えた。
>「美味しい……」
> 真希の中で普通という言葉が、すでに口の中で溶けてなくなっていた。
普通ではない何かを感じたようです。
真希さん、解説をお願いします。
>「甘い……すごく甘いです! あと口にほんのり覚えのある別の甘さがやってくる! これがお米なのかな?」
> 味だけじゃない。純白のような美しさ、軽やかな口当たり、玉ねぎの甘い香り。耳に届く微かなさざなみが、ポタージュと混ざり合っていく。舌の上の温もりが指先まで伝わり、頬を撫でる風さえ、料理の一部のように感じられた。
美味しんぼ? いや、ミスター味っ子の様相です!
味皇の頭の中でリフレインしてるやつです!
ごめんなさい。茶化してますが、これだけ1品に表現ができるのは凄いです。
手順や、その目的まで理解していないと書けないことですね。
> カルパッチョのどの魚から食べようかと迷い、大きく切られた鯵の切り身を選んだ。格子に切られた輝く銀皮に野菜のソースをたっぷりと乗せ口に運ぶ。
>「すごい……弾力が、コリコリじゃなくてプリップリ!」
> 口には魚の旨みが広がった。魚ってこんなに甘いのかと、目を丸くした。
>「うん、死後硬直する前だからコリコリじゃないんだ。コリコリも美味しいけどね。そして寝かせてねっとりとなった魚も美味しいんだよ」
>「……へえ、そんな違いがあるんですね」
シメるタイミングで違う、と聞いたことがあります。
釣って調理する人はよくこんな感じのことを言いますね。
比べたことがないので私には良く分からない世界です……
> 真希は鯵の隣の炙ったカマスも口に運ぶ。
>「こっちは、脂がジュワッと口の中でとろけます!」
> 次にまるでブイヤベースのようにとりどりの魚介と赤黒い深いソース——カッチュッコにナイフとフォークを入れる。ホウボウの身がホロッとフォークの上に転がる。
> そのまま口に入れるとふわっと口の中で崩れて、魚のギュッとした旨みがやってくる。
> 添えられたバゲットをソースに浸して口に運ぶと、魚介の旨味を吸った赤ワインとトマトの濃厚な味が、口いっぱいに広がった。唐辛子のピリッとした辛味があと口を引き締める。
この、味わいと、香りと、触感と、舌触りと。
美味しそう! と思うとともに……
毎日、雑な料理をしていない自分にちょっと反省します。
>「美味しいかい?」
>「はい! 魚がこんなに美味しいなんて」
> 真希は思わず力一杯答えたが、彼が一口も食べてないことに気付いた。
>「よかった……これはちゃんと美味しいんだな」
> ——そう言って、彼は一口だけ料理を食べた。その目尻が揺れたような気がした。
おっと……彼になにかあるようです。
>「どうなさったんですか?」
>「……実はね、僕には、味も匂いもわからないんです」
>「えっ……」
> 真希は思わず声を上げた。
衝撃の事実!
これは驚きです。
>「二十年ほど前から、少しずつおかしくなってね。十五年前には、完全に失ってしまった」
> 彼の口調は穏やかだったが、その静けさの奥には、長い時間が沈んでいた。
> 真希は、ハッとした。
> 彼は一度も匂いを嗅いだり、“
これが、あそこで出て来たことですね。
確かに。スープは必ず味見をします。
>「味覚がなくなるとね。何食べても不味そうって思うでしょう? 違うんだ。不味いということも感じない。不味いもちゃんと味なんだよ。——あるのは、熱いか冷たいか。歯応え。これくらいかな」
> 向こうの海を、どこか遠いもののように見つめながら言った。
> まるで、記憶すら色を失った世界を語っているようだった。
>「だからその時、もうお店もやめようと思ったんだが——」
こんなの、作らせて、語らせてをしてしまった真希は衝撃どころじゃないです!
> 真希は話を聞いて絶句した。
> 彼の料理に派手さはない。だけど、素材の味を活かす繊細な味だった。美味しい食材を美味しく調理する。当たり前のことを当たり前に。それが彼の料理だと思った。
> だが——匂いも味もわからなくてそれができるだろうか。
> 自分だったら、果たして包丁を握り続けられただろうか。作ろうという情熱が、果たして湧くものだろうか。
> 彼の手際を見ればわかる。きっと、毎日作っている。その情熱はどこからくるのか。
必要な五感を失っても、なお、作り続ける人。
その尊さは筆舌に難いです。
>「妻がね、“美味しい”って笑ってくれてね。それだけが、僕に残ったたった一つの味覚だったんだよ」
> 彼の視線は、皿の上にそっと落とされたままだった。
> 語りかけるようでもなく、ただ、記憶の底から掬い上げるような声だった。
薄れるはずの記憶、それを鮮明に残すために……
>「料理は……もう“勘”というより、“記憶”だね。手が覚えてるんですよ、味も、香りも。最後に妻が味見してくれて。僕も自信を持って出せた。でも五年前に妻は——。それでついにお店も辞めてしまった」
> その言葉に、真希はナイフとフォークをそっと置いた。
> 彼の隣に吹いていた春の風が、音を立てずに通り過ぎていく。
> そこには、ぽっかりと小さな空白ができた気がした。
これは……何も言えないですよね。
>「僕にはそれから、また味のない日々だったけど…… 君が“美味しい”と言ってくれた。久しぶりに、思い出せたよ。美味しいとは何かって」
> 彼は初めて、真希の目をまっすぐに見た。
> 真希は息を飲み、視線を逸らすことができなかった。
悪い意味ではなく。
「彼」に飲まれてます。
料理を教わりに来たはずなのに。
> その眼差しは、静かで、それでいてどこか真希を通して別の人を見ているようだった。
>「君の食べた時の反応が、妻に似ていたからかもしれないな」
> 彼は笑った。
> その笑顔を見て、真希の中の何かに触れた。
彼が笑った理由。
じんと来ました。
> この人は、もういない人の「美味しい」を、今も探している。
> でも、見つからなくてもいい。
> 探す。探し続ける。そのために、作る。
> それが、それこそが。
> ——料理なんだ。
真希は見つけました。
> 二人を包むように、料理の香りが風にのって、静かに海へと運ばれた。
この物語において、香り、空気、風は特に意味のあるものですよね。
「彼」によって強い意味を持たされました。
> それから彼とはお互いに色々な話をした。
> 調理師学校でのこと。
> 市場に一緒に行った奥さんが、面白い顔の魚がいると必ず「買って!」とおねだりする話。
> 今後の進路のこと。
> 滅多に獲れない魚の話。
打ち解けて色々と言葉を交わす。
互いに心の深いところが見えると、自然とこうなりますね。
> 調理師学校の先生が彼の料理をすごいと褒めていたと話した時、彼は少し目を細めた。
>「……舌のことは、お客さんには話してなかったんだけどな。気付かれてたのか。……すごいな、あの人は」
学校の先生!
さすが紹介してくれるだけのことはあります。見直しました(ぇ
>「今日はありがとうございました」
> 彼は深々とお辞儀をした。
>「お礼を言うのは私の方です! ありがとうございました」
> 駅の前、傾いた陽光がふたりの影を長く伸ばしていた。
すっかり仲良しさんですね!
>「気をつけて帰ってください」
> 彼はにこやかだった。
>「あ、あの!」
>「はい」
>「私、いっぱい勉強して、修行して、絶対に——」
> 声が震えた。けれど、言葉は止まらなかった。
>「絶対に、誰かの心に残る料理を作れるようになります」
突然の宣言。
真希の心が溢れます。
> 彼は目を逸らさずに真希を見つめていた。
> 少しだけ、息を整えてから、言った。
>「その時は、私の料理を—— 食べてもらえませんか」
「彼」が
これを言葉にできるのは凄いです。
> 真希の言葉に、彼は一瞬だけ目を閉じた。
> しばらく沈黙ののち、静かに頷く。
>「……ええ。ぜひ」
> そのまま真希を見つめたまま、静かに微笑む。
>「楽しみにしています」
「彼」もその思いを受け取りました。
心が交わされた瞬間です。
>(了)
以上です!
あ、あとがきがありましたので少しだけ続きます。
>------あとがき------
>「あの丘のオーベルジュ」を、お読みくださってありがとうございました。
>魚介の赤ワイン煮込みは、よろしければ近況ノートの写真も見ていただければイメージしやすいかもしれません。
やっぱり作ってらしてるのですね……。
すごい、を通り越して尊敬の域です。もはやシェフです。
>⭐︎「カッチュッコ」と「カチュッコ」の違い
>トスカーナの海沿いを中心に作られている海鮮料理カチュッコですが、リヴォルノでは>“Cacciucco”と、他の街の“Caciucco”と読み方が違うようなのです。cが5つあること>に意味があるそうで、五つの魚介を表しているとかなんとか。
>今回はリヴォルノ風(リヴォルネーゼ)ということでカッチュッコ表記にしています。読みにくいですよね。
カタカナ文字で既に頭に入っていません(笑
ごめんなさい!
はい、以上で終了です。
ここからは全体の雑感です。
面白かったです!
無駄のない文章でした。
登場人物の名前が「真希」以外に出て来ないところも驚きです。
それでもすらすらと読めるくらい、シンプルで洗練されていた印象でした。
料理に関しては……文中で言及しましたので(笑
これからもXで飯テロを拝見したく存じます。
料理を中心にしたお話ではありましたが。
「彼」の味覚に関する話はぐっときます。
これ、調理や料理を子細に書いたからこそ、「彼」の思いが強調されてます。
仮に私が書いたら、片田舎の宿屋の大将が乱暴に作った男の料理(不味い)を前にして、大将が「魔物にやられた古傷で味がわかんねぇんだよ、がはは!」ってやってそうです(何
感動も何もありません(笑
この表現は日向風さんにしかできない芸当と思います。素晴らしい!
日向風さん、作品提供ならびに本企画にお付き合いいただきありがとうございました!
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