新人エンジニアが“声”に導かれ怪異に巻き込まれる社内記録ホラー
- ★★★ Excellent!!!
まず何より表現手法の独創性が本作の大きな魅力でした。主人公の開発日誌、研修映像の書き起こし、Slackログ、社内Wikiなど、現代のIT企業が日常的に扱うテキストの断片がそのまま物語の構成要素として並べられています。そしてこれらは単なる演出だけにとどまらず、読者が知るべき専門用語や技術情報を自然な流れで提供する役割も果たしています。物語がわざわざ説明しなくても、キャラクターが自身の仕事として書いた文書を読むだけで世界観や状況の理解が進むというのが目からうろこでした。
この表現方法はPCやスマホで横読みするというWeb小説ならではの強みを最大限に活かしていると思います。画面幅に合わせてスクロールすることで、主人公が記録した日誌やWikiのページを本当に読んでいる感覚が生まれ、読者が社内ネットワークの奥深くへ潜っているような没入感が得られます。リアリティを超えて現実と虚構の境界線が見えなくなるような感覚すら覚えました。
また本作はホラージャンルでありながら、登場人物たちのリアルな社内会話や技術的やり取りであることに強い説得力を感じる物語です。特に、IT企業の社員らしい思考回路である、障害発生時の切り分け、ログの追跡、実装への疑念、そして説明責任が、怪異の発生すらも再現性のある事象として扱おうとする姿勢に表れており、その冷静さが逆に恐怖を際立たせている印象です。
IT企業の空気感のリアルさと、怪異の不気味さが有機的に結びついており、構造そのものが恐怖を増幅させ、同時に読者を技術的リアリティへ引き込む―稀有な読書体験を味わえました。