俺の名前は欠陥品
欠陥品の磨き石 磨奇 未知
俺の名前は欠陥品
俺は今 鏡の前に立っている。
目の前の鏡は嫌味のように俺の醜い姿を映し出す。
荒れた肌 不揃いなパーツ 膨れ上がったお腹 変色した爪
嫌になる程鏡は正直に映し出す。
鏡に映った俺の顔は死人のように見えてくる。
「俺 毎日こんな表情で生活してたんだ…
周りからみたら俺は死神でも見えていたのだろうか…」
俺は絶望した顔のまま自分の部屋に戻る。
部屋には山積みに積まれた形だけの自己啓発本
封を開けただけのプロテイン
傷一つないトレーニング器具
が嫌味のように置かれていた。
ガッ
ドアを叩く音が部屋中に響く。
「なんで俺はこんなにも惨めなんだよ…
俺が何か悪いことをしたのかよ…
普通に生まれて普通に生きてただけなのに…」
俺は戸棚に常設していたカップラーメンを二つ
取り出し、
一人薄暗い部屋で啜り始めた。
俺が一人部屋でラーメンを啜っている時
横の部屋から弟の明るい声が聞こえてきた。
「つむぎちゃんと今日出掛けれて
僕めちゃくちゃ幸せでした!
また出掛けよ!」
どうやら電話しているみたいだ。
女の子との楽しげな会話が俺の心臓の奥を抉り出す。
俺は醜く太った腕を眺めながら俺の心臓の痛みをじっと耐えていた。
弟は美形で博識で誠実で絵に描いたような
完璧人間だ。
母親と父親はいつも弟だけに優しくて、
俺は存在していないかのように扱われる。
「こんなクソみたいな人間嫌われて当然か…
所詮俺は弟の代替品にもなれない欠陥品だ…」
弟の明るい声とは対照的に俺の醜い声は狭い部屋に消えていった。
弟は俺が欲しかったものを全て奪っていく。
俺に話しかけてくる人間全てが弟目的だ。
弟の連絡先を手に入れるために目を輝かせて話しかけてくる姿はなんとも耐え難い苦痛だった。
弟と繋がるための道具としてつかわれる俺は
なんとも惨めで滑稽だ。
だけどその道具以外に俺の使い道はない…
弟がいなくなれば本当の意味で俺に価値がなくなる。
皮肉なことに弟の媒介役が俺に価値を与えている。
「あいつがモテてるのはブスだけだ。
ブスだけだ。ブスだけだ…」
俺は今にも破裂しそうな頭を抑えながら
何度も何度も唱える。
俺の何の価値もないプライドのために
弟を下げる俺の姿は醜くてクズで
恥ずかしいものだ。
だけどこの行為をしなければもう俺は自分を保てない。
自分の劣等感や嫉妬を弟にぶつける俺は
この世からいなくなった方がいいのだろうか…
俺は食いかけの菓子パンやお菓子
が散乱した部屋の隅で
今にも溢れそうな涙を堪える。
溢れそうな涙を抑えながら
名ばかりの幸せを摂取する。
菓子パンを食べていると少しだけ
楽になる。
その場凌ぎにしかならない哀れな行為だと分かっていながらも
一心不乱に菓子パンにかぶりつく俺の姿は
まさしく現実逃避の現れだ。
自分の負の感情を食べることと弟にぶつける以外にもう方法はないんだ。
俺はこの先も死ぬまでこの感情を抱えながら生きていく。
誰にも認められずに誰にも助けられずに社会の欠陥品として…
「誰かもう俺を殺してくれ…」
あ、俺には知り合いも友達もいないんだったな。
自殺する勇気もない俺にはもうどうすることもできない。
俺はこれからも社会に生まれた欠陥品として生かされるのだろう。
腐敗した菓子パンが彼の手からこぼれ落ちた…
「この菓子パン腐ってたんだ…
まるで俺だな。
自分が何も努力してないのが悪いのに弟に奪われたと言い訳をする。
腐敗してるのは俺の方か…」
薄暗い部屋の隅で彼はこれからも生きていくのだろう。
俺の名前は欠陥品 欠陥品の磨き石 磨奇 未知 @migakiisi
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