月の輝く夜が、清廉なる海の魚は跳ねる

三屋城衣智子

月の輝く夜が、清廉なる海の魚は跳ねる

 月の光が彼女のビロードのような漆黒の髪をクリスタルのように輝かしては、二人の足音の遠くに聞こえる潮騒に溶ける。

 歩調は緩くたなびくように続き、雑に切られた男の髪に夜の帷がさらに闇に染める。

 二人の口はあいておらず、しかし女はどこか遠くを見つめている。

 男の瞳はどこか遠くを見つめきらずにいては、彼女の肢体や黒いワンピースのスリットから覗く白く艶かしい足へと移りつつ、首元の襟元から覗く深く豊かな谷間へと移動しては頬が赤らむ。

 性欲がないと男が自認しているところだが、男の気配をそこはかとなく感じているのかもしれなかった。

 歩く二人以外何もいなかったが、浜辺へとつく。

 その海はその大きさから大海と呼ばれ、数多の海物が住んでおり、時折船を海底へと誘っては、帰らぬ人を多くつくり、しかしその輝く様から真珠にも讃えられて大事な信仰を行う場所となっており、時折優しい風を運んでおり、干物を干すのにはとても大切な場所であった。

 男と女は弓を構えては、手入れをした。

 魚を射るに使うそれは名を|巨大なる弓《アーティクツ・フォースと言い、寸は五、強度は百にものぼるそれは巨大な大きさだった。

 魚影に向けて矢尻を合わした。

 釣れた魚は五十にものぼった。

 二人は内臓を取り串を打っては、火にくべた。

「食べきれない魚があっては、神の御心を汚してしまうかもしれない。だって魚の神ウーデ・ペーデは命を愛していらっしゃり、魚を取っては食べきれない分を海へと還元だと偽って捨てていたアレンシャノの民を皆、一瞬にして海の底へと引き摺り込んだと聞きます」 

「私が食べて見せますとも。あなたがきれいに食べる人が好きというならばその通りに、あなたが夜空を狩るヒューガノ族が良いというならばそのように、あなたが海を全部飲めと言えば喜んで飲み、あなたのそのスリットを隠せと言われたらマントにもなりましょうや」

「命が大事なことをわかってくださっていたのですね」

 女は微笑み、男は微笑んでは、魚の焼け焦げるるる音がするのだった。

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月の輝く夜が、清廉なる海の魚は跳ねる 三屋城衣智子 @katsuji-ichiko

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