第3話 パニック・ルーム

 私は話題をそらす為に思案し、ある最適解にたどり着く。


「しかし、大統領。かなり尻がコッテいるようです」


「尻はコるのか?」


「えぇ、もちろん」


 嘘をついてしまった。

 後でカトリック教会へ行き懺悔せねば。


「今の大統領はコリ過ぎて、お尻がコリコリです」


「コリコリか?」


「はい、コリコリです」

 

 大統領は物思いにふける。


「ふぅー、そうか……思えば寝る間も惜しんで仕事にいそしんだ。先週のロシア大統領との会談。何度面会しても構えてしまう。しかもロシア人も同じなのか、アメリカと交渉する時に肩の力が入ってしまうようだ。もっと、力を抜いてフランクに話してくれればいいのだが」


「大統領、肩の力を抜いて下さい。肛門が引き締まっていて座薬が入りません」


「おぉ? すまない」


 私は大統領の尻に片手を添え、9ミリ常に備えるパラペラム弾丸バレットを彷彿とさせる座薬を押し込もうとした。


「ぅんんっ!?」


「だ、大統領? どうされました?」


「いやぁ、冷え込む時期だからね」


「し、失礼しました! 私の手が冷えきっていた為、不快な思いをさせてしまい」


「かまわん。さぁ、ズブリと行ってくれ」


 なんなのだ?

 この異様な空間は……。

 大統領が自らの尻の穴にズブリと入れてくれと口にした。

 とは言え、この異様な空間から立ち去りたいとも思えず、むしろ、部屋から出たくないとすら思えてきた。


 この状況、まるで、まるで――――――――。



 セ○クスしないと出れない部屋ではないか!?



 私が肛門をまさぐっている間、大統領は日頃の不満を吐き出すかの如く、一方的に話を始める。


「難しい局面だ。世界は報復関税と言うが、他国がアメリカを経済的に支配する脅威を排除する為には、例え暴君と言われようと関税を上げ、多国の輸入を制限せねばならない。理解はされないがね」


「大統領、度々で申し訳ないのですが、肛門に力が入り過ぎて座薬が挿入できません。もっと、力を抜いて下さい」


「フッ、皮肉だな? 肛門があらゆる物の侵入を拒む。まるで、重い関税を決定し、国際社会から孤立した私のようではないか?」


「そういうのはいらないのでケツを開いて下さい」


「あ、あぁ……すまない」


 大統領のこういう『世界情勢を皮肉ったジョークを語る俺、知的な文化人でカッケぇ!』みたいなところ、たまにイライラする。

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