第2話 ダークサイド・オブ・ザ・ムーン

 敬愛する大統領をお待たせしてはならない。


「サー!! 少々お待ち下さい!」


 なんてことだ!

 これが本当の秘密のシークレットご奉仕サービスと言うことか?


 私は腰のベルトゆるめて今にもスラックスを脱ごうとした矢先。


「いやぁ、痔を患ってしまっててね」


「は? 痔?」


「座薬を私の肛門に入れてほしいのだ」


「ざ、座薬でしたか……」


 私は視線を落とし、しょぼくれた顔でマタに備えたしおれたミサイルを収め、ゆっくりとスラックスを上げると力の抜けた手でベルトを締めた。


 大統領は話を続けた。


「すまん。やはり、やりたくなどないよな?」


「ノーサー! やらせて頂きます! むしろ、ズブリと入れさせて頂きます」


「え? そんなに気迫を出さなくても……まぁ、やってくれるなら頼む」


 勘違いも甚だしい。

 危うく大統領の肛門に地中貫通爆弾バンカーバスターを打ち込むところだった。


 パパラッチには、こういうのは格好のネタだ。


 明日の朝刊の見出しは『大統領、ホワイトハウスでファック・ミー・イフ・ユー・キャン?(ほら、僕にぶちブチんでごらん?)』となるところだった。


 職務室に踏み入ると、座薬を手渡された私は早速、デスクに両手を置き尻を突きだす大統領の前立ち、すかさず、片ヒザをつきしゃがむと、彼の月の裏側を覗いた。


 なんと美しい尻の穴なんだ。

 アメリカ人として理想的な肛門の美しさだ。

 例えるならルネサンス期の画家、ボッティチェリが描いた「ヴィーナスの誕生」のようではないか。

 貝殻から誕生した裸体の女神が雪のように、白い肌を見られることに恥じらいを覚え、両手でその美貌を隠そうとする様に見える。


 もはや、この尻は芸術、いや、神話の域に達している。


 Buブーシュのように下劣で卑怯な汚さはなく、全く真逆の傾向を見せる純真無垢な白い尻。

 茶褐色ではないが、オーバマに勝る健康的で若々しい、張りのある強靭な尻。

 歴代大統領の下半身を知る私ですら、初めて見る尻だ。


 自称、大統領プレジデントヒップ職人マイスターの私ですら、さすがに唸ってしまう。 


 さすがはレジー・タピア大統領だ。

 アメリカを代表する尻。

 いや、世界タイトルを制覇したヒーローの尻。

 いいや、この尻こそがアメリカ合衆国その物なんだ!


 もはや自分でも何を語っているのか、わからない。


 あぁ、この肉の穴に飛び込みたい!!


 ダ、ダメだ!?

 気をしっかりもて。


 どうにも私の心は収まりがつかない。

 右腕は重さを失くしたように浮き上がり、手を剣のように伸ばし、ななめ45度の角度をつけると、こめかみに指の先を軽く当ててから海軍式の敬礼で、この尻を称えた。


 感動から気持ちが押さえきれず、敬意から彼の尻に対して自然と、海軍兵士が祖国と交わした、誓いの言葉を口にしてしまう。


「常に忠誠を……」


「ん? どうしたね?」


「い、いえ! なんでもありません」


 しまった。

 余計なことを口走ったか……。

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