雨音

ねこまんま

第1話 雨音

「雨って花火みたいだよね」


24歳の夏、私はその言葉を思い出した。

その日は、とても暑い日なのに突然の雨だった。


仕事帰り、私はバスの停留所で物思いにふけっていた。


彼の言ったその言葉は、高校生の私には、何気ない会話の一部だったのだと思う。


晴れていた日だったのに、せっかくのデートを邪魔された感じがして嫌だったけれど、今思えば別れを告げる言葉だったのかもしれない。


だって、雨なんて濡れるし、晴れの日と違って気持ちも下がってしまう。


暑いのも嫌だけれど、雨なんてもっと嫌だ。


当時の私は雨音なんて自分自身が濡れていくし、蒸れて気持ち悪くなることしか考えられなかった。


傘は、持ってきていたけれど日傘兼用の物で少し小さい。

私一人でも顔ぐらいしか守れない。


ため息をついてスマホを見ると、激しい雨に濡れるからと、私はカバンにしまった。


世間は、休日。

私しか停留所には、いなかった。

5人ほどが入れる小さな場所だけれど、私一人には大きく感じた。


行き交う自動車を見ながらバスを待つ。

雷の音が遠くの方で聞こえてくる。


早く止まないかなぁ。

そんなことを思っていると、ぴちぴちと停留所の角に雨漏りをしているのに気づいた。


数秒毎に落ちる雨に、嫌悪感さえ抱いてくる。

靴下は、もうビショビショで新しく買ったパンプスは、雨をはじいてくれていた。


近くまで雨粒が迫ってきていて、落ちて飛び散った粒は、私の足へとぶつかる。


私は、ふと、一粒一粒を見てみた。

一粒が地面へ着くたびに弾けて、左右へと広がっていく。


その粒がポツポツと音となって、繰り返されていく。


最後には、水たまりや、排水へと流れていく。

でも時には、雫となって壁や窓、地面にその一粒が、雨音が、まだ私は今ここにいるよ。と言っている様だった。


手をかざすと、すぐに濡れて小さな水溜まりが出来ている。


私は、なぜか花火より綺麗だな。

とそう思った。


バスが来て、乗り込む。

この気持ちから始めればいいと私は、思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨音 ねこまんま @kumantinus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ