第43話 魔法の指輪
翌日、アーサと浜辺へやってきた。
透き通った海にぐるりと囲まれた島の砂浜は、真っ白だ。
「アイリスのせいで、遅れたじゃない。
主役のいない歓迎会なんて、お肉のないカレーと一緒よ」
隣にいるアーサが、ぷくんと頬をふくらます。
点検がおわりアーリャの元から戻ってきたアーサの毒舌は、パワーをましていた。
「ごめん。なかなかデータを取るのがおわらなくて」
「ほんと。仕事人間なんだからアイリスは。
せっかく自由になったんだから、誰かいい人を探さなくっちゃ。
ま、今日はちょっぴりお洒落しているから、許してあげる」
「ラーク研究員から言われたの。
『アイリスの歓迎会なんだから、お洒落してきなさいよ』って。
やっぱり似合ってないかしら」
「赤ワイン色のワンピースに、同じ色の髪飾りか」
腕をくんだアーサは、私の全身をなめるように見る。
「大丈夫よ。全然似合ってるから。
さあ。ご馳走になりにいこう」
アーサと歩いていくと、すぐにラーク研究員が声をかけてきた。
「遅いわよ。早くしないとお肉がなくなるわよ。
さあ、こっちへ来て」
いつもはビーカやら試験管を手にしているラーク研究員が、トングを持って器用にお肉を焼いている。
「おいしいわ。できる人って何でもできるのね」
感心してお肉を頬ばった。
浜辺の会場は大盛況で、あっちこっちのグリルからジュージューとお肉を焼く美味しそうな音がきこえてくる。
「もう一人の主役もまだなのよ。
彼がきてから、アイリスの紹介もするわね」
「光魔法の使い手のイケメンさんだったっけ」
「そうよ。光魔法だなんて、どこかの王族かしらね」
ラーク研究員がお肉を焼く手を止めて首を傾けた時、アーサが大きな声をだす。
「あそこを見て。アイリス」
アーサの指さす先をみると、こっちへ向かってくる白衣姿のアーリャ先生がいた。
「先生はこんな時でも白衣なのね」
ちょっと笑ってしまう。
「アイリス。先生の後の人をよく見て。
レオン王子そっくりよ」
「嘘でしょ」
夕陽がおちてきて、オレンジ色に染まる姿に目をこらしてみた。
それはやはりレオン王子だったのだ。
たちまち胸がドクンドクン音をたてる。
「いったいどうしてなの」
気がつけば、レオン王子へとまっしぐらに走っていた。
「久しぶりだな。そんなにオレが恋しかったのか」
レオン王子がニヤリと笑う。
白いシャツに黒いズボンという普通の姿でも、なぜか王子オーラは半端ない。
「アイリス。少しあっちで話そう」
王子は私の手をつかむと、海のみえる木陰に連れていく。
「その驚いた顔が見たくてきたんだ」
「まさかそんな理由で研究員になったの。
王子様のくせに気まま過ぎるわ」
「それがオレはもう王子じゃない。
アイリスが去ってから、王族を離脱したんだ。
与えられた財産は、すべて教会に寄付した。
キャル聖女にもの凄く感謝されたぞ」
「いったい急にどうして」
目を丸くしてとまどっていると、レオン王子に抱きすくめられた。
「これでアイリスと釣り合うだろう。
だから、もう一度プロポーズさせてくれ。
アイリス。オレと一緒になってくれないか」
熱い眼差しで見つめられる。
「ここで断っても、また何度でもくるでしょ」
「なら。一緒になってくれるんだな」
弾むような男らしい声に、コクリとうなずく。
と同時に優しいキスが唇におちてきた。
それから、レオン王子は身体を離すと、胸元から指輪をとりだす。
「アイリス。これは魔法の指輪なんだ」
「あなたの瞳と同じエメラルド色ね」
「市場の露天で見つけたんだ」
「なら絶対偽物ね。
で、どんな魔力があるって聞いたの」
王子がはめてくれた指輪を、夢見心地で眺めながら尋ねた。
「一生オレしか愛せなくなるんだ」
白い歯を見せたレオン王子が、照れくさそうに笑う。
「その魔力ならいらないわよ。
初めてあなたに会った時から、そうなってるから」
素直に気持ちを伝えた私の唇に、とても情熱的なキスが繰り返えされる。
「なら、オレと同じだな」
頭上では緑の葉が風に揺れ、さやさやと
優しい音をたてる。
おだやかに波打つ海には夕陽が落ちてきて、キラキラと輝いていた。
これからは、この素晴らしい島で私だけの王子様と自由に生きていきます。
エピローグ
それから数十年後、レオンとアイリス夫婦が開発した瘴気払い魔道具が、母国に多大な貢献をすることになる。
その話はまた後ほど。
ー了ー
時間つぶしにでもなれたなら、喜しいです。 最後まで読んでいただきありがとうございました。
夫が聖女を溺愛中。お飾り妻になったので、魔道具をつくりにいきます りんりん @oogamipanchan2
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